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生活保護費:母子加算復活を 子の将来狭まる苦悩 4野党、参院に法案

 生活保護を受けるひとり親世帯に昨年度まで支給されていた「母子加算」を復活させようという動きが活発化している。民主党など野党4党が復活のための生活保護法改正案を参院に提出し、25日にも審議が始まる。打ち切りで困窮する親たちは「ぜひ復活を」と訴えている。【佐藤浩】

 ◇専門家「廃止の根拠に間違い」


 新潟県長岡市の茅野寿子さん(40)は、高2、中2、中1の子供がいる。3月に会社を解雇され、失業保険と生活保護などの計約20万円で暮らす。昨年からうつ症状になって治療中で、仕事も見つからない。高2の息子は「定時制に転校しようか」「修学旅行には行かない」と気遣う。茅野さんは「子供の将来が狭まってきたようで本当につらい」と話す。

 東京都内に住むパート事務の30代女性は、高校と中学に通う子供が3人。月収6万~10万円で、保護費などを加えた計約25万円で暮らす。都内で育ち盛り3人を抱えて苦しいが、うつ病を患い長時間は働けない。工面して中3の娘を塾に通わせており、「『私立高に行かせる金はない』と言っている」。

 ひとり親の生活保護受給家庭は約10万世帯。都市部で子供1人の場合、母子加算は04年度までは月約2万3000円支給された。

 だが、厚生労働省は05年度から段階的に減額して今年度全廃。代わりに就労世帯などに最高月1万円を支給する「ひとり親世帯就労促進費」を創設したが、減額前の母子加算より低く、親が病気などで働けない約4万世帯は対象外だ。

 厚労省が廃止の根拠としたのは、社会保障審議会の専門委員会の報告書(04年12月)。生活保護受給母子世帯と、受給していない一般母子世帯を比較し、保護基準が一般母子世帯の消費支出額より高いことなどから「母子加算は必ずしも妥当とは言えない」とした。報告書は「一律・機械的な給付を見直す」とも記したが、「廃止」の文言はない。

 専門委の委員長を務めた岩田正美・日本女子大教授は、一般母子世帯で子供1人の場合のサンプル数が32世帯など、サンプル数が少ないことなどから「廃止とまでは報告書に書けなかった」と言う。厚労省は最近、「(保護基準と一般母子世帯の消費支出額の差が)統計的に有意か確認できない」と議員の質問に回答した。専門委員だった布川日佐史・静岡大教授も「間違った根拠と手続き」で廃止されたとして「復活し、検討を再開すべきだ」と主張している。

毎日新聞 2009624日 東京夕刊


母子加算:復活の動き活発化 うつで働けず母苦悩

2009624 1124分 更新:624 1156

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「苦しい、弱い人を助ける世の中になってほしい」と訴える茅野寿子さん=民主党の会議で、佐藤浩撮影

 生活保護を受けるひとり親世帯に昨年度まで支給されていた「母子加算」を復活させようという動きが活発化している。民主党など野党4党が復活のための生活保護法改正案を参院に提出し、25日にも審議が始まる。打ち切りで困窮する親たちは「ぜひ復活を」と訴えている。【佐藤浩】

 新潟県長岡市の茅野寿子さん(40)は、高2、中2、中1の子供がいる。3月に会社を解雇され、失業保険と生活保護などの計約20万円で暮らす。昨年からうつ症状になって治療中で、仕事も見つからない。高2の息子は「定時制に転校しようか」「修学旅行には行かない」と気遣う。茅野さんは「子供の将来が狭まってきたようで本当につらい」と話す。

 東京都内に住むパート事務の30代女性は、高校と中学に通う子供が3人。月収6万~10万円で、保護費などを加えた計約25万円で暮らす。都内で育ち盛り3人を抱えて苦しいが、うつ病を患い長時間は働けない。工面して中3の娘を塾に通わせており、「『私立高に行かせる金はない』と言っている」。

 ひとり親の生活保護受給家庭は約10万世帯。都市部で子供1人の場合、母子加算は04年度までは月約2万3000円支給された。

 だが、厚生労働省は05年度から段階的に減額して今年度全廃。代わりに就労世帯などに最高月1万円を支給する「ひとり親世帯就労促進費」を創設したが、減額前の母子加算より低く、親が病気などで働けない約4万世帯は対象外だ。

 厚労省が廃止の根拠としたのは、社会保障審議会の専門委員会の報告書(04年12月)。生活保護受給母子世帯と、受給していない一般母子世帯を比較し、保護基準が一般母子世帯の消費支出額より高いことなどから「母子加算は必ずしも妥当とは言えない」とした。報告書は「一律・機械的な給付を見直す」とも記したが、「廃止」の文言はない。

 専門委の委員長を務めた岩田正美・日本女子大教授は、一般母子世帯で子供1人の場合のサンプル数が32世帯など、サンプル数が少ないことなどから「廃止とまでは報告書に書けなかった」と言う。厚労省は最近、「(保護基準と一般母子世帯の消費支出額の差が)統計的に有意か確認できない」と議員の質問に回答した。専門委員だった布川日佐史・静岡大教授も「間違った根拠と手続き」で廃止されたとして「復活し、検討を再開すべきだ」と主張している。


母子加算:復活に向け改正案提出 野党4党

 民主、共産、社民、国民新の野党4党は16日、ひとり親世帯に支給されていた母子加算を復活させる生活保護法改正案を議員立法で参院に提出した。4党は同様の法案を衆院に提出していたが、与党側が審議に応じる姿勢を見せないため撤回。野党多数の参院で審議入りを目指す。

毎日新聞 2009616日 2112


学びたいのに:奨学金の課題/下 将来へ、負担重く
 ◇月8万円を4年間返還総額500万円超

 今年3月初め、横浜市の男性(30)の元に日本学生支援機構(旧日本育英会、横浜市)から一通の文書が届いた。

 「貸与総額(約560万円)を27日までに一括返還しなければ、法的手段に訴えます」。1年ほど前から督促状が来ていたが、月約2万4000円の返還は難しくなっていた。

 男性は東京都内の私大に在学中、うつ病を発症した。卒業後も非正規雇用の仕事にしか就けず、年収は100万円に届くかどうか。「一括返還」の文字に驚き、奨学金の問題に取り組む労働組合「首都圏なかまユニオン」に駆け込んだ。交渉のすえ、傷病と経済的困窮を理由に返還を猶予してもらうことができた。

 とはいえ、待ってもらえるのは最長で5年。大学在学中に母親を亡くして1人きりの男性にとって、夢は自分の家族とマイホームを築くことだが「奨学金を返し終わるのに20年以上かかる。夢をかなえるのはもう無理かもしれない」。

 欧米では返済義務のない「給付型」の奨学金が主流なのに対し、日本ではほとんどが「貸与型」。大学を出ても正社員への道が狭まるいま、返還の負担は子どもたちの将来に重くのしかかる。

   *

 大阪府内の私立大学。「今日カラオケ行かない?」。友達に誘われた美咲さん(18)=仮名=は「ごめんね、用事があって」とやんわりと返す。誘われるたびに断っているのでつらいけれど、アルバイト代は通学定期や学費に消えてしまう。

 中学生になるまでは、こんな生活が待っているなんて思わなかった。6年前、大手通信会社に勤める父にがんが見つかり、わずか2週間後に亡くなった。働きづめで会社に寝泊まりする日々が続いていた。

 専業主婦だった母佐知子さん(49)=同=は一人で3人の子を抱え、社宅を出た。アパートを借り、自治体の非常勤職員として働き始めた。だが昨年3月で契約が切れてしまった。今は短期のバイトしか見つからず、月収は多くて5万円。遺族年金と足しても間に合わない。電気やガスが止められ、米が買えずにすいとんを食べてしのいだこともある。

 それでも佐知子さんは上の子2人を大学に進学させた。「自分も親に短大を出させてもらったおかげで、資格を身につけて社会に出ることができた。わが子が進学を願うなら、親としてせめて同じことをしてやりたい」

 高校時代、母の苦労を目の当たりにしてきた美咲さんは、「学費のことは不安だけれど、私が安定した仕事に就いて、お母さんのお金の問題を解決してあげなきゃ」と思った。兄(20)が通う大学から推薦がもらえ、受験料はかからずに済んだ。

 兄は支援機構から無利子の奨学金を借りている。保証人が見つからず、月5万4000円の奨学金から2000円余りの保証料を払い、保証機関を利用した。美咲さんも申し込んだが、無利子は希望者が多くて通らず、やむなく有利子で月8万円を借りることにした。保証機関をつけると保証料が月々5000円近くかかるため、一足先に社会に出るはずの兄が美咲さんの保証人になることにした。

 美咲さんの4年間の奨学金総額は384万円。利率を3%と仮定すると、返還総額は約517万円に上る。月2万円強ずつ支払っても、返し終わるまで20年かかることになる。「社会人はマイナスからのスタートか」と思うと、ため息が出る。「もう少し安く大学に通える制度があったらいいのに」

 それでも「大学に入って、本当に良かった」。受けてみたい授業がある。サークルで先輩との付き合い方も知った。経済を学び、ファイナンシャルプランナーの資格を取って金融機関で働くのが目標だ。

 来年は高校2年の弟が進路を決める年。進学を望むなら、兄がしてくれたように今度は自分が保証人になり、弟の夢を支えたい。【山崎友記子】

 ◇有利子貸与、全体の7割に


 受益者負担を掲げた国の教育に対する支出削減・抑制策で、大学授業料は75年度からの30年間で国立が15倍、私立は4・5倍になった。日本学生支援機構の奨学金事業規模も拡大し、08年度の貸与者数は122万人で10年前の約2・5倍。貸与額も9305億円と3・5倍になっている。

 奨学金には無利子貸与と有利子貸与の2種類がある。99年度以降、有利子は月額10万円を超える額も貸与できることになった。事業費ベースでみると無利子はこの10年間に1・4倍しか伸びていないが、有利子は10倍に成長し、貸与額全体の約7割を占める。

 その結果、卒業生の負担は膨らみ、例えば月12万円を有利子で4年間借りると、20年払いで返還総額は約775万円に達する。こうした現状には機構内部にも「過大な負担」との批判があるが、文部科学省は「学生のニーズがある」との姿勢を崩さない。

 就業形態の変化や雇用情勢の悪化で、返還の延滞が問題化している。国は追加経済対策で無利子枠と返還猶予を倍増するが、今年度限りの対策に過ぎず、同省幹部からも「抜本的な解決にはほど遠い。国と国民が教育を考え直す時期が来たのではないか」との指摘が出ている。【立山清也】

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 ■ご意見お寄せください

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毎日新聞 2009611日 東京朝刊


学びたいのに:奨学金の課題/中 生活保護、減額困る
 ◇亡き妹の子6人引き取ったが 持病悪化、働けず

 「合ってるよ」。先生役の大学生が数学の解答に赤い丸をつけていく。そのペン先を見ながら、中学3年の男子(14)が顔をほころばせた。「うちからバスで30分かかるけど、優しく教えてもらえるから楽しい」

 東京都江戸川区の区民館で毎週、生活保護世帯で育つ子の高校進学を支援する無料勉強会が開かれている。十数人の中3生が集まり、ボランティアの区職員や大学生がほぼ1対1で子どもたちに向き合う。会は22年前、「貧しい家の子こそ進学し、安定した職を得て貧困から脱してほしい」との願いで始まった。

 今では高卒で就職しても、安定した収入を得るのは難しい。「それでも進学支援の大切さは変わらない。生きていく力をつけるために、高校教育は必要だ」と、勉強会を支える区職員の若井田崇さん(37)は言う。

 しかし、高校に進めても卒業までの3年間を経済的に乗り切るのは大変だ。国は05年度以降、高校生がいる生活保護世帯に就学費を支給しているが、そこにも課題がある。

   *

 札幌市郊外の住宅街。照夫さん(46)=仮名=は約10年前、がんで亡くなった妹の6人の子を引き取った。妹の夫は行方が分からなくなっていた。

 当時は一番上の子がまだ中学生で、末っ子は就学前。「オレは独身だし、全員の面倒をみるのは難しい」と思ったが、長女に「きょうだいがバラバラになるから、施設に行くのだけはいや。何でもするから面倒をみてください」と土下座され、心を決めた。

 道路工事や建設現場で働き、子どもたちを育ててきた。深夜までの作業の日も夕方には一度家に戻り、食事をしていることを見届け、現場に戻った。いま、上の4人は自立し、四女桜さん(16)=同=と中学3年の末っ子の3人で暮らす。

 昨年春、一家に朗報があった。桜さんが市内の公立高校に合格したのだ。全日制高校に進めたのはきょうだいの中で初めて。照夫さんは晴れやかな気持ちで入学式に参列し、姉たちは遺児の進学を支援する「あしなが育英会」の奨学金の手続きをした。

 しかし照夫さんには不安があった。心臓の持病があり、腰も痛めていた。次第に力仕事の現場に立つことができなくなり、今年1月から生活保護を受給することになった。

 保護費受給のため、奨学金のことを市に申告した時のことだ。担当者が言った。「奨学金を切らないと、生活保護を減額しますよ」。保護費が減れば生活そのものが成り立たなくなる。どこに相談していいのかも分からず、やむなく月2万5000円の奨学金を辞退した。子どもたちに責められたが、返す言葉がなかった。

 照夫さんが受給している保護費は月約15万円。高校生には就学費や授業料などが支給されるが「修学旅行の費用や部活動にかかるお金は出ない。奨学金で助かっていたのに」と肩を落とす。

 生活保護世帯の奨学金の利用について、札幌市保護指導課は「一律に認めないわけではない。ただ、貸し付け型の奨学金は将来形を変えた借金になる。保護費を受け取りながら借金するのもおかしいので、現場の判断でやめてもらうように言う場合はある」と説明する。

 6月になり、照夫さんは再び胸が突き刺されるような痛みに襲われた。桜さんが「弟と2人だけでも、大丈夫だから」と、入院する照夫さんを安心させてくれた。

 桜さんは日曜日に近くのスーパーでアルバイトを始めた。修学旅行のお金をこつこつとためている。きょうだい6人の中で高校を卒業した子は1人もいない。「何があっても、高校だけは最後まで行かせてやりたい」。照夫さんだけでなく、家族みんなの願いだ。【山崎友記子】

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 ◇高校就学費

 生活保護には生活扶助や医療扶助など八つの種類がある。その一つ、生業扶助の中に05年度から、高校の授業料などを支給する「高等学校等就学費」が盛り込まれた。基本月額は5300円。他にも授業料や入学料、教材代、通学交通費、受験料が必要に応じて支給される。就学費を奨学金と併用できるかどうかについて、厚生労働省保護課は「国として一律に禁じているわけではなく、家庭の状況に応じて福祉事務所が判断している」と説明する。

毎日新聞 2009610日 東京朝刊


生活保護費:母子加算廃止で専門委方向示さず 元委員長が見解

 3月いっぱいで全廃されたひとり親の生活保護世帯への母子加算のあり方を検討した社会保障審議会の専門委員会委員長だった岩田正美・日本女子大教授が8日、民主党の会合に出席し、専門委は母子加算廃止の方向性を出さなかったとの見解を示した。厚生労働省は専門委の検討結果などを踏まえて廃止したとしている。

 岩田教授は、母子世帯の統計資料が少ないことなどから「母子加算を廃止した方がいいとまでは(04年12月の)報告書に書けなかった」と述べた。【佐藤浩】

毎日新聞 200969日 東京朝刊


学びたいのに:奨学金の課題/上 母子家庭「やっていけない」

 教育にかかる費用が家計を圧迫している。日本では国や自治体の教育費負担が少ないためだ。とりわけ不況や家庭の事情による低所得世帯が増え、子どもたちに進学のチャンスを与える奨学金制度の乏しさが浮き彫りになってきた。「学びたい」という若い願いをもっとかなえることはできないのか。まずはある母子家庭が直面した問題から考えたい。【山崎友記子、立山清也】

 ◇私立校進学後に父急死/他制度併用禁止で働きづめ


 「なんでパパ死んじゃったの……」。高校2年の真紀さん(17)=仮名=は4年前、泣き疲れて眠りに落ちる夜を過ごしていた。父は職場から帰宅してくも膜下出血で倒れ、亡くなった。37歳の若さだった。

 一人っ子の真紀さんは小学生のころから家の経済状況が良くないことを感じていた。それでも両親は娘が受験で苦労せずに済むようにと、私立の中高一貫校に進ませた。母はパート、個人で建設業を営む父は土日も働き詰め。それでもたまの休みには真紀さんを遊びに連れて行ってくれた。

 母雅美さん(39)=同=は悲しみに暮れている間もなかった。労災申請は認められず、独立したばかりで年金保険料の支払いが足りなかったため、遺族年金も出なかった。中学校には授業料免除制度があったが、高校に上がると教育費の負担は大幅に上がる。でも娘の気持ちを考えると「家庭環境が急に変わったのに、学校や友人関係まで変わるのはかわいそう」と思った。

 悩んでいた時、中学の教諭に東京都の奨学金制度を紹介された。貸与額は月3万円。学校から「公的な奨学金との併用はだめだが民間なら可能」と聞き、遺児家庭を支援している「あしなが育英会」の奨学金制度を見つけた。学校に了解を取り、二つの制度で計月6万円を借りて昨春、真紀さんの高校生活が始まった。

 ところが半年後。高校の事務担当者から「併用はできない。どちらか選んでください」と指摘された。授業料だけで月3万5000円。施設整備費なども含めれば、学校に納める額は年間70万円を超える。通学定期代も高い。保険会社の契約社員として働きだした雅美さんの月収は15万円で、約2万円の児童扶養手当を含めても家賃や生活費に消える。「一つの奨学金では、とてもやっていけない」

 都の奨学金業務を担当する都私学財団の担当者は「複数の奨学金を借りると、返還する際の負担が大きく、生徒にとって良くない。各校には説明しており、学校の認識が足りなかったのではないか」と話す。

 しかし併用は全国一律で禁じられているわけではない。神奈川、愛知、大阪など23道府県では認められ、どこに住んでいるかで借りられる額が倍近く違う。雅美さんは割り切れない。

     *

 困り果てた雅美さんは区の福祉の窓口に駆け込み、母子家庭に月額最高4万5000円を無利子で貸す「母子福祉資金」の存在を知った。ただしこれも奨学金との併用は認められないという。結局、奨学金は両方とも辞退し、福祉資金を借りることにした。それでも足りないため、土日もアルバイトに出る。

 そんな母を見て真紀さんは心配でならない。「体は大丈夫なのかな。倒れて入院したこともあるのに」。母は娘の前で苦労を一切口にしない。

 高校では新聞配達のバイトだけが認められている。同じ母子家庭のクラスメートがやっているが、授業中に疲れて眠っているのを見て「勉強ができなくなっては仕方がない」と思う。

 真紀さんはいま国立大への進学をめざしている。夢がある。「脳内出血の薬を開発したいんです」。突然倒れた父は手術もできない状態で、処方できる薬もなく、ただ息絶えていくのを見守っていることしかできなかった。「医学部は授業料が高いけれど、薬学部なら何とかなるかもしれない。ただし浪人と下宿だけは絶対にできない」

 第一志望に決めた大学の競争倍率は10倍近く。勉強机の電気を消すのは午前1時近くになる。

 ◇授業料以外の支出大きく


 文部科学省の調査によると、高校の平均的な年間学習費(全日制)は公立約52万円、私立約104万円。3年間なら公立約150万円、私立約300万円が必要になる。特に負担が重いのは修学旅行積立金や制服代、通学費など授業料以外の支出だ。公立でもPTA会費や生徒会費、施設整備費などは少なくなく、もはや「公立なら経済的負担が軽い」とは言えない。

 フランスをはじめ欧米各国では日本の高校にあたる公立学校の授業料はほとんどが無料。私学に通う生徒の割合は日本では約3割だが、英国や米国、ドイツは1割以下だ。奨学金制度に詳しい小林雅之・東京大大学総合教育研究センター教授は「日本では『親が教育費を負担するのは当然』と考える風潮があるが、もはや限界。今後親になる世代は年金や介護、医療費負担が増え、今のような教育費を担うのは一層難しくなる」と話し、家庭の財力で子の将来が決まらぬよう、奨学金制度などの充実を提言する。

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毎日新聞 200969日 東京朝刊


母子加算復活:4野党が衆院に法案提出

 民主、共産、社民、国民新の野党4党は4日、今年4月に全廃された生活保護の母子加算を復活させる生活保護法改正案を衆議院に議員立法で提出した。

 母子加算は、生活保護を受けているひとり親世帯へ加給する。都市部で子供1人の場合、約2万3000円が支給されていた。だが、母子加算を含めた生活保護費が、一般の母子家庭世帯の消費支出額を上回っているとの調査をもとに、厚生労働省は05年度以降、段階的に減額し、今年度全廃された。

 法案は、今年10月以降、当分の間、減額前の04年度以前に戻すよう生活保護法の付則に追加する内容。【鈴木直】

毎日新聞 200964日 1139分(最終更新 64日 1325分)


社会保障ナビ:生活保護の加算廃止 母子家庭に冷たい春

 ◇病気で働けず「出費、これ以上どう削れば」


 ひとり親の生活保護世帯に支給されてきた母子加算が廃止される。生活支援から就労支援へと政府が政策を切り替えたことが背景にあるが、支給額が減れば働くのが困難な母子家庭には大きなダメージとなる。最後のセーフティーネットとされる生活保護の機能が失われるのではないかとの危機感が広がっている。【亀田早苗】

 「これ以上、どこをどう削ればいいの」

 生活保護を受け、札幌市内で娘3人と暮らす女性(43)は、うめくように言った。

 平均月収は約20万円。現在の母子加算は、第1子7750円、第2子610円、第3子以降310円だが、4月以降はこれがなくなる。「全額出ていた時に比べれば2万5000円ほども収入が減る」という。

 さらに、今春、長女が中学校に進学し、小学生までを対象とした児童手当(3歳以上の第1子は月額5000円)もなくなる。入学準備に支給された金は制服代になり、他に必要なものをそろえるのに、約3万円を支出した。

 女性は、リウマチで手術を繰り返したうえ、数年前にうつ病と診断された。月2回の通院が必要だ。家庭訪問に来たケースワーカーは「まだ若いんだから」と仕事を勧める。

 国は07年度に「ひとり親世帯就労促進費」を創設した。働きながら18歳以下の子どもを育てる母子家庭で、収入3万円以上なら月額1万円、3万円未満でも職業訓練を受けていれば5000円を支給している。

 「働けるなら、働きたい」と女性は言う。しかし、人に会うのが怖く、外出は難しい。近所の買い物さえ不安で、長女か次女に付き添ってもらっている。担当医も「まだまだ仕事は無理だ」という。

 生活は切り詰められるだけ切り詰めた。食費は4人で月約3万円弱。子どもたちに栄養のあるものを食べさせたいが、朝食はふりかけや卵ごはん。夕食も特売の冷凍野菜でシチューやカレー、あるいは見切り品の切り干し大根などで総菜を1品作ってすませる。

 調子が悪く、どうしても起き上がれない時は、娘たちに「夕ご飯、作れるかい」と聞く。「やってみる」「頼りにしてくれてうれしい」と答える娘たちが心の支えだ。

 女性の不安はまだある。現在、月約4万8000円もらっている児童扶養手当のことだ。この手当は受給後5年で、末子が8歳以上の場合、最大半額を減らすことが決まっている。反対が根強いことから、現在は実施が凍結されているが、いつ解除されるか分からない。「これ以上支給額が減れば、一家心中です」と母親は声を詰まらせる。

 時には助けてくれた母は昨年亡くなった。子どもの父親にも頼れない。寄りそって生きる母子に、年々重く、負担がのしかかる。

 ◇平均所得は全世帯の37.6%


 厚生労働省の調査によると、06年の母子家庭の母親の平均年齢は39.4歳。1世帯あたりの平均所得は211万9000円で、全世帯平均の37.6%にとどまっている。所得のうち「公的年金・恩給以外の社会保障給付金」の割合は10.6%だった。母親の84.5%が働いており、内訳は常用雇用が42.5%、臨時・パートが43.6%となっている。暮らしをどう感じるかでは、「大変苦しい」「やや苦しい」が合わせて89.5%に上り、前年比で9.7ポイント増えた。

 ◇支給額引き下げや期限設定も議論


 生活保護の受給は増加を続けている。08年12月は160万6714人で、前年同期より5万3179人増えた。その一方で政府は、財政上の理由で、03年から制度の見直しを始め、06年度には高齢者の老齢加算を全廃。母子加算も子どもの対象年齢を18歳以下から15歳以下に引き下げて段階的に削減しており、来年度には全廃することになっている。

 受給者らは「加算廃止は、生存権を保障した憲法に反する」として、廃止取り消しなどを求め、全国10地裁で訴訟を起こしたが、東京、広島でいずれも請求が棄却され、原告が控訴している。

 また、支給額の減少につながる生活保護基準の引き下げや、現行は無期限の生活保護に5年間の期限を付けるなどの議論も進んでおり、受給者は危機感を強めている。

 母子家庭の問題に詳しい金澄道子弁護士は自立促進に傾斜する政府の対応について、8割以上の母親が働いていることを指摘したうえで「仕事を掛け持ちする母親も多く、これ以上働けといっても無理だ。このままいけば、母子家庭はいっそう貧困化する」と訴えている。

 ◇きょう東京でシンポジウム


 母子家庭の自立支援を目指して作られた施策を検証するシンポジウム「女性と貧困 母子家庭-福祉と自立のはざまで」が7日午後1時、東京都千代田区の弁護士会館で開かれる。参加無料。問い合わせは日本弁護士連合会人権第2課(03・3580・9825)。

毎日新聞 200937日 東京朝刊


年金:記録見つけ支給厚労省「過去の生活保護費返還を」

 宙に浮いた年金を巡り、記録が見つかって支給される年金を生活保護受給者が受け取る場合、それまで受給した保護費全額分の返還を求められるケースがあり、生活保護者の支援団体が批判の声を上げている。中には保護開始前に受け取れたはずの年金まで返還させられることもあり、支援団体は「国の過失が大本なのに理不尽だ」と批判している。【野倉恵】

 これは、07年7月の年金時効撤廃特例法施行後の07年12月、厚生労働省保護課が「生活保護受給者の『年金記録問題への対応』について」と題した通知を自治体に出したため。

 通知は、記録訂正でさかのぼって支給される年金のうち、過去5年間分について「生活保護費相当分は原則、全額返還の対象。それでも余る分は保護費から差し引く」などとしている。5年以上前に支給されたはずの年金については、金額によって保護の打ち切りを検討し、保護を続ける場合は保護費を減額するなどとしている。

 例えば、7年前から月15万円の生活保護を受ける人に過去10年分800万円の年金記録が見つかった場合、直近5年分の年金400万円は返還させられ、なお400万円残るため生活保護を打ち切られるか、全額が収入として扱われ今後の保護費から差し引かれる。

 通知により、実際にこうしたケースもあった。05年11月から生活保護を受ける60代の女性は昨年、03年2月からの5年間に漏れていた未支給分の年金29万円を受けた。このうち05年10月以前の分については保護期間ではなく、本来なら自由に使えたにもかかわらず、自治体から29万円全額の返還を請求され、不服審査請求をした。

 厚労省保護課は「社会保険庁の記録管理がずさんだったのは申し訳ないが、自由に使える時期に受け取る年金が(返還対象に)含まれても、現行制度では時期に応じて収入を分けられないためやむを得ない」と弁明する。

 生活保護受給者らを支援する「全国生活と健康を守る会連合会」事務局は「保護を受ける前の時期の年金が返還対象になったり差し引かれるのは問題。記録漏れなど国の過失で支給できなかった責任が不問にされ、臨時収入と同一にみなしていいのか。国には被害者の視点が欠けている」と話している。

毎日新聞 200931日 230

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物価高が生活保護受給者の生活を直撃しています。
生活保護基準は上げる時!
通院交通費不支給通知は撤回へ!

2008年10月8日

生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤廣喜
全国クレジット・サラ金問題対策協議会 代表幹事 木村達也
中央社会保障推進協議会 代表委員 住江憲勇
全国公的扶助研究会 会長 杉村宏
全日本民主医療機関連合会 会長 鈴木篤
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長 稲葉剛
特定非営利活動法人DPI日本会議 議長 三澤 了
全国生活と健康を守る会連合会 会長 松岡恒雄

 生活保護の老齢加算・母子加算の削減・廃止が進められる中、昨年末には生活保護基準本体の引き下げがもくろまれましたが、世論の強い批判を浴びて「先送り」されました。しかし、物価高が進む昨今、生活保護基準は実質的に引き下げられたも同然で、生活保護利用世帯からは「これでは生きていけない」との悲鳴があがっています。
 市民の生存権保障のためには、基準の「引き下げ」など言語道断で、「引き上げ」こそが、強く求められています。

 こうした経済状況にもかかわらず、厚生労働省は、本年4月1日、生活保護の通院交通費を原則不支給とする社会・援護局長通知を発しました。生活保護利用者に対して生活費を切り詰めて通院を継続するか、受診を抑制するかの二者択一を強要するこの局長通知は、利用者の生存権や適切な医療を受ける権利を侵害するものです。

 各方面からの強い批判を浴び、同省は、6月10日、生活保護課長通知の発出とともに桝添厚生労働大臣が会見で「局長通知の事実上の撤回」と発言しました。
 しかし、厚生労働省は、8月19日、3万円以上の移送費事例について「8割がずさん支給」などとするきわめて恣意的で不正確な「調査結果」を公表するなど、「不正受給」を印象付けることで、局長通知の生き残りを図っています。

 そもそも、格下の課長通知で局長通知を撤回できるはずがなく、「事実上の撤回」とはまやかしに過ぎません。現に、「高額でないからダメ」「管内でないからダメ」「慢性疾患でないからダメ」と、支給されるべき通院交通費が不当に支給されないという被害が各地で頻発しています。
 このままでは、必要な時に必要な医療を受けることができないため症状を悪化させる人が多数生じるだけでなく、医療が欠かせない障害や疾病を抱える多くの受給者にとっては、命さえ失う被害を生じることが想定されます。こうした悲劇が起きることを防ぐためには、一刻も早く局長通知を「撤回」するしかありません。

 これ以上弱い立場にある人をさらに追い込んでいくような行政、政治は、もういりません。
 私たちは、通院移送費を原則不支給とする局長通知の撤回を改めて強く求めます。

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物価高が生活保護受給者の生活を直撃しています
生活保護基準は上げる時!
通院交通費不支給通知は撤回へ!

日 時 10月8日(水)午後16時
場 所 参議院議員会館 第3会議室

 日頃より、市民の生活と権利を守るために奮闘されていることに敬意を表します。
 生活保護の老齢加算・母子加算の削減・廃止が進められる中、昨年末には生活保護基準本体の引き下げがもくろまれ、世論の強い批判を浴びて「1年先送り」されました。しかし、物価高が進む昨今、生活保護基準は実質的に引き下げられたも同然で、生活保護利用世帯からは「これでは生きていけない」との悲鳴があがっています。
 市民の生存権保障のためには、基準の「引き下げ」など言語道断で、「引き上げ」こそ必要です。
 また、厚生労働省は、本年4月1日、生活保護の通院交通費を原則不支給とする社会・援護局長通知を発しました。生活保護利用者に対して生活費を切り詰めて通院を継続するか、受診を抑制するかを強要するこの局長通知は、利用者の生存権や医療を受ける権利を侵害するものです。これも世論の強い批判を浴び、同省は、6月10日、生活保護課長通知の発出とともに舛添大臣が会見で「局長通知の事実上の撤回」と発言しました。
 しかし、問題の局長通知がそのまま残されているため、事実上の撤回と言いながら、支給されるべき通院交通費が支給されないという被害が各地で起きています。問題の解決のためには、「局長通知の撤回」しかありません。
 私たちは、これまでも局長通知の撤回を求めて共同行動を行ってまいりましたが、来る10月8日(水)16時には、本書冒頭表記の集会を開催する予定です。
 是非、取り組みの趣旨にご賛同いただき、集会での発言その他のご協力をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤廣喜
中央社会保障推進協議会 代表委員 住江憲勇
全国公的扶助研究会 会長 杉村宏
全日本民主医療機関連合会 会長 鈴木篤
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長 稲葉剛
特定非営利活動法人DPI日本会議 議長 三澤 了
全国生活と健康を守る会連合会 会長 鈴木正和

(連絡先)生活保護問題対策全国会議 事務局長 弁護士 小久保哲郎
TEL06-6363-3310 FAX06-6363-3320
Emale :
tk-akari@wmail.plala.or.jp
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