Housing Poor
ハウジングプア

追い出し屋:「被害110番」12日に開設 対策会議が

2009109 1830

 首都圏追い出し屋対策会議(代表・宇都宮健児弁護士)は12日、電話相談「全国追い出し屋被害110番」(電話03・3573・2491)を開設する。

 短期間の家賃滞納で強制的に入居者を追い出したり、深夜に訪問ししつこく取り立てをする家賃保証会社や不動産管理会社は「追い出し屋」と呼ばれ、被害が拡大している。対策会議メンバーの弁護士や司法書士が相談に応じ、違法なケースは法的措置も含め対応するという。

 時間は午前10時~午後8時。大阪、名古屋、福岡でも同日に実施される。


記者の目:「ハウジングプア」を連載して=小林多美子

 ある日突然、住み慣れた家を失うことになったら--。想像してほしい。自分のすべてを失ったような思いをするだろう。住所不定になると行政サービス・救済の網にもかかりにくく、次の住まい探しでも不動産会社や大家から敬遠される。失職中なら、就職活動の足かせにもなる。

 5月にくらしナビ面で「ハウジングプア」として住まいの貧困をテーマに連載した。痛感したのは、住まいは生活と社会参加の基盤なのに、生活に困窮すると足元はきわめて脆弱(ぜいじゃく)であることだ。

 東京の58歳の男性のケースは示唆に富む。北関東で暮らしていた男性は約10年前に失職し上京した。建築現場の住み込み仕事などで生計を立てていたが、2年前に仕事を失い寮を追い出され、住む場所がなくなってしまった。

 区役所に相談に行き、紹介されたのは、路上生活者が職とアパートを見つけるまで期限付きで入所できる、都の自立支援センターだった。

 センターは東京に5カ所ある。いずれも相部屋で、男性が入ったのは2段ベッドの14人部屋だった。プライバシーのないストレスや雑音……。睡眠不足になり、体調を崩して体重が7キロ減った。警備員の仕事を始めたが立ちっぱなしの勤務はきつく、アパートを見つける前に体が限界になり、続けられなかった。

 センターを出てからもハローワークに通ったが、住所不定を理由に断られ続けた。働きたいのに住所がないから就職できない。働けないから家を借りる貯金もできない。住まいを失うと陥る悪循環だ。

 男性はいま介護施設の非正規職員だが、暮らしは安定している。家賃4万6000円のアパートに入居できたからだ。現在の月給は9万円で、約5万円の生活保護を受給している。かけもちできる仕事を今年中に見つけて自立するのが目標だ。「家はすべての活動の基盤。この10年間は心が休まることがなかった」と男性は話していた。

 2000年開所のセンターの定員は計324人。就職を支援し、08年度末までに9691人が利用し3388人が職と住まいを見つけた。実績は評価したい。だが、2カ月以内に就職できなければ退所するルールがあり、男性のようにセンター生活になじめず途中退所する人も多い。男性は住む所がほしくて退所後、生活保護を申請したが認められず、センターへの再入所をすすめられたこともあった。

 「まずは自分の住まいから」という願いはぜいたくなのだろうか。そうではないことは、男性の今の落ち着いた生活ぶりや、自立への強い意志が証明している。

 不景気で失職し住まいを失う人は増え続けるだろう。家賃が払えないならアパートから退去するのは当たり前という考えが「住宅弱者」をさらにむち打つ。連載を読んだ賃貸住宅の経営者らから「滞納者に出ていってもらわなければ経営と生活が成り立たない」という内容のお便りも届いた。ビジネスではそうだろうが、貧しいからといって住まいを奪われ、路上生活を強いられるのは、本当に「仕方のないこと」なのだろうか。

 問題は日本の住宅政策の貧しさにある。行政による家賃補助制度は他の先進国に比べ大きく遅れている。家賃の安い公営住宅の抽選は「宝くじ」と皮肉られるほど高い倍率なのに、その戸数は減る傾向にある。年収200万円以下の低所得者が1000万人を超えているのに住まいの保障は貧弱だ。

 「日本人は住宅に公的支援がないことに疑問を感じない。マインドコントロールにかかっているようなものだ」

 国内外の住宅政策を研究している神戸大の早川和男名誉教授の指摘だ。早川名誉教授は「住まいの保障は教育や医療と同じように政府が取り組むべき社会政策」とも言うが、まさにその時期に来ているのではないだろうか。

 ちなみに、日本で住宅総数に占める公的住宅の割合は7%と英国(20%)やフランス(17%)などに比べはるかに低い。一方で民間賃貸住宅は22%が空き家だ。行政が借り上げ、安い家賃で提供するのもアイデアの一つだと思う。

 政府は緊急雇用対策の一環として、空き家になっている社員寮などの活用に乗り出した。路上生活者がそこに一時入居し、かかった自治体の費用は全額補助する。派遣切りなどで職と住居を同時に失った人たちへの対策だ。

 だが、制度としての恒常的な住宅支援を確立しない限り、不景気のたびに同じ状況が生み出されるだろう。日本のハウジングプア対策は、都のセンターや生活保護制度など現行の枠組みではカバーし切れないほどの限界にきているのではないか。

 政府も自治体も、人間的に生きる権利、福祉の観点からも住宅政策を転換し、住まいの保障は政治の責務であると自覚してほしい。(生活報道部)

毎日新聞 200971日 016分(最終更新 71日 038分)

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住宅ローン:ボーナス減で払えず競売急増

2009624 1157分 更新:624 1258

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住宅金融支援機構の競売件数の推移

 不況による収入減で住宅ローンを返済できず、自宅が競売にかけられるケースが急増している。夏のボーナスが大幅に落ち込むなど家計への打撃は深刻化しそうだ。虎の子のマイホームを手放さざるをえない人はさらに増えるのだろうか。【永井大介、宇都宮裕一】

 ◇不況が家計直撃


 東京都新宿区の40歳代の男性会社員に昨年末、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)から封書が届いた。「2週間以内に住宅ローンを一括返済できなければ競売に移行する」

 妻と小学生の娘の3人暮らし。00年に3700万円で2LDKのマンションを購入した。返済は月10万円。給料は月50万円を超え、余裕があったが、昨年夏から一変した。

 勤務先の建築会社の業績悪化で給料は30万円台に。妻が体調を崩し、治療費などで消費者金融から400万円を借りたが、住宅ローンが払えなくなった。

 男性は競売後に離婚し、手元に残ったのは1800万円のローン。自己破産を申請し、今は狭いアパートに住む。「無理してでもマイホームは維持したかったが、まさかこんな不景気になるとは」

 ◇昨年度は35%増


 国内の住宅ローン残高の約2割を占める住宅金融支援機構によると、08年度に競売に持ち込んだ件数は前年度比35%増の1万6577件。今年3月は昨年9月の約2倍の1830件に上った。

 東京都中央区のNPO法人、競売債務者支援協会(岡野雄一郎理事長)には現在、競売を迫られた人の相談が1日10~20件寄せられる。以前は不況の影響を受けやすい中小企業の経営者が多かったが、最近は「給与削減でローンが払えない」と訴える大企業の社員が目立ってきたという。

 金融機関が競売を通知しても、裁判所が競売にかける前に、不動産業者が仲介する「任意売却」も多い。売却額が競売よりもやや高いからだ。岡野理事長によると「競売の相談のうち4割は任意売却」。ただ、地価下落で任意売却も不調に終わり、競売に移行するケースが増えている。

 ◇返済期間延長も


 一方、ボーナス削減で住宅ローンを払えなくなる事態続出を警戒し、金融機関も対応に乗り出している。

 大手銀行は各支店に住宅ローン相談にきめ細かく応じるよう指示を出した。東邦銀行(福島県)は、返済期間の延長を、従来は借入日から最長35年しか認めていなかったが、最長50年に延ばした。

 住宅金融支援機構も主力の「フラット35」(最長35年の長期固定金利住宅ローン)で返済期間の延長やボーナス払いの減額などが利用できる制度を用意。「競売は最後の手段。とにかく早めの相談を」と呼びかける。

 政府は09年度補正予算で「フラット35」を頭金ゼロでも利用できる財政支援を盛り込んだ。従来は頭金が借入額の1割以上必要だった。

 ◇計画は慎重に


 ファイナンシャルプランナーの西澤京子さんは「経済の先行きが不透明な中、返済できなくなるリスクが高いことも認識すべきだ」と指摘。当初は返済額を抑えたが、後に払いきれなくなって社会問題化した「ゆとりローン」や米サブプライムローンの二の舞いになりかねず、西澤さんは「完済までの家計の長期計画を立て、慎重に利用すべきだ」と話す。


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ハウジングプア:/下 公的住宅「空室あるのに」

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半数近くが空き部屋になり、布団を干しているベランダもまばら=東京都足立区の花畑団地で今年5月

 ◇建て替えへ新規入居中止 支援団体「失職者に開放を」


 東京駅から電車とバスを乗り継いで1時間足らず。約19ヘクタールの土地に80棟が建つ花畑(はなはた)団地(東京都足立区)が見えてくる。ベージュ色の壁は所々塗装がはがれ、天気のいい週末も、ベランダに洗濯物を干す部屋はまばらだ。

 2725戸のうち現在、約1000戸が空き部屋。所有・管理する独立行政法人・都市再生機構(UR)が約半数の棟を建て直す計画を打ち出し、98年から新規入居を中止しているからだ。対象でない棟の空き部屋は、工事で一時部屋を失う住民の仮住まいに使うという。完成後の戸数は現在の5~6割程度に減る見通しで、土地の一部は民間売却も検討されている。

 花畑団地ができたのは1963年だ。入居者の多くは働き盛りの親と子どもたちで、安い家賃は国の経済成長や子育てを支えてきた。当時4歳で越してきた女性(49)は「ここに来るまでは、一家4人で4畳一間、共同トイレの長屋住まい。2DKの広さに感動しました」と懐かしむ。

 周辺のインフラが不十分だったため、住民たちは力を合わせ、路線バス開通や保育園の設置に奔走した。バスは毎朝、背広姿のお父さんたちを詰め込み駅へと走った。それも今では通院する高齢者の姿ばかり目立つ。入居世帯の54%は世帯主が65歳以上。新規入居が途絶えたこの10年で、高齢化は一気に進んだ。保育園は取り壊される予定だ。

 「私たちにはこの団地を作り上げてきた思いがある。こんな寂しい場所になってしまうなんて」。同じく建設当時から暮らす女性(75)が薄暗い窓の並ぶ棟を見上げた。「もっと若い人の姿を見たい」

   ◇

 「ここに住み、ちゃんとした仕事に就ける環境ができると助かるのに」。今年2月、市民団体が企画した花畑団地の見学ツアーで、参加した40代男性がこぼした。男性はインターネットカフェに寝泊まりし、日雇い派遣で生活していた。

 ネットカフェの宿泊には1カ月当たり5万~6万円はかかるとされる。しかも住所がないため、就職活動の大きなハードルになってしまう。花畑団地には単身者向きの1DKの部屋もあり、最も安い家賃は月2万9600円だ。

 URが戸数削減を予定しているのは花畑団地だけではない。現在の77万戸のうち18年までに5万戸を削減し、長期的には40年間で7割程度にまで減らす計画だ。担当者は「人口減少の見通しに沿った数字。需要も減るため、現状の戸数では供給過剰になる恐れがある」と説明する。

 理由はそれだけではない。政府が「行政改革」の名の下で進める独立行政法人のスリム化。07年12月に閣議決定された整理合理化計画で、URに「リニューアル、規模縮小、売却などの方向性を明確にした再編を計画し、規模の適正化に努める」よう求めている。

 見学ツアーを企画した「住まいの貧困に取り組むネットワーク」はURに対し「空き部屋を派遣切りなどで住まいを失った若者らに開放すべきだ」と、計画の見直しを要望している。

 政策の貧しさがうむハウジングプア(住まいの貧困)という現実。不況や雇用不安が広がるなか、住まいのセーフティーネットに求められる役割は高まる。【小林多美子】

 ◇自治体財政難
公営住宅も削減傾向

 自治体の公営住宅も財政難などで全国的に削減傾向にある。05年の219万戸から、2年間で1万戸減。応募倍率(07年度)は全国平均で8・7倍で、最も高い東京都は28・3倍に上る。URは民営化を視野に入れた見直しが進められている。

 戦後日本は住宅ローンによる持ち家政策に力を入れ、住宅総数に占める公的住宅の割合は7%と、イギリス(20%)やフランス(17%)に比べはるかに低い。両国には家賃補助制度もあり、全世帯の約2割が受給している。「居住福祉」(岩波新書)の著者で神戸大の早川和男名誉教授は「住まいの保障は本来、医療や教育と同様に政府が社会政策として取り組むべき課題。日本は民間に委ねすぎてきた」と指摘する。

毎日新聞 2009513日 東京朝刊


ゼロゼロ物件:家賃保証会社に一定の規制 国交省方針

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 敷金・礼金なしで入居できる「ゼロゼロ物件」を巡り、強引に居室を明け渡しさせられた入居者が、賃貸住宅の入居者の滞納家賃を一時的に立て替える家賃保証会社を相手取り提訴する事例が相次いでいることから、国土交通省は家賃保証会社に一定の規制を設ける方針を固めた。12日の国交相の諮問機関「社会資本整備審議会」で明らかにした。強引な「追い出し行為」を抑え込む基準作りを進める。

 主に連帯保証人が不要な物件に関与する家賃保証会社は、借り主が保護される借地借家法に基づかない契約形態を取るケースが多いという。部屋への立ち入りを認める特約を結ばせたり、消費者契約法の上限利率(延滞家賃に対し年14.6%)を超える違約金を請求する業者もある。ごく短期間の滞納で厳しい取り立てをしたり、無断で鍵を交換するなどして強引に居室の明け渡しを迫る「追い出し行為」も横行し、国交省によると、国民生活センターへの相談が06年度89件から08年度428件と急増している。

 同省は、部屋への無断立ち入りや鍵の交換は「住居侵入罪や民法上の不法行為にあたる可能性がある」と判断。財務内容や契約件数などを考慮し、許可制▽登録制▽ガイドライン策定--のいずれかの方法で適正な家賃保証会社かどうかを選別できるようにする。

 また、不動産管理会社や貸主が追い出し行為を行う場合もあることから、家賃保証会社だけを対象とすることには限界も予想されるため、新法を検討しながら今夏をめどに具体的な規制策をまとめる。【石原聖】


ハウジングプア:
/中 「宿泊所」耐えかね路上へ

 ◇6畳間に2人、食費込み月10万円 NPOに救われ

 住まいの貧困(ハウジングプア)に陥るのは職のない男性ばかりではない。路上にはさまざまな事情で家族とのつながりを失った女性たちの姿もある。

 一昨年の秋。さいたま市出身の女性(60)は市内の交番近くのベンチで身を縮め、冷え込む夜を過ごしていた。「おばちゃん、風邪ひくなよ」。警官が優しい声をかけてくれる。路上生活を始めるのは怖かったが、ここなら襲われる心配もないだろうと思った。

 わが家と呼べる場所を失ったのは15年前のことだ。酒を飲んでは暴力を振るう夫から逃れるため、ボストンバッグ一つで家を出た。養護施設で育った女性に頼れる身内はない。サウナや健康ランドに寝泊まりし、所持金は半年で尽きた。

 事情を知った知人がアパートに同居させてくれた。パート勤めを始めたが、知人が突然病気で倒れ、月6万円の家賃が払えなくなった。知人の家族は「家を出ていけ」と言う。見かねた自治会長が福祉事務所に付き添ってくれたおかげで生活保護の受給が決まった。

 福祉事務所に紹介された住まいは低額料金で簡易住宅を提供する無料低額宿泊所だった。6畳一間に2人の生活。生活保護費は封筒のまま寮長に渡すように指示された。月12万円のうち、食費なども含め10万円近くを差し引かれる。食事の時間に少しでも遅れると食べさせてもらえない。寮長は高圧的で、不満を言える雰囲気ではなかった。

 耐えきれずに飛び出し、路上で夜を明かすしかなくなった。「知り合いにこんな姿を見られたら……」と人の目におびえながら、図書館などでただ時間をつぶす日々。親切な警官には「もう一度生活保護を受けては」とすすめられたが「またあんな所に入れられるなんて」と、気持ちは動かなかった。

    ◇

 「あそこに行けば大丈夫だよ」。野宿生活が2カ月目に入ったころ、路上で知り合った仲間から、さいたま市で生活困窮者をサポートしているNPO「ほっとポット」のことを教えてもらった。

 ほっとポットは県内20カ所の民間集合住宅を借り上げ、すぐアパートに入居できない人たちに敷金・礼金なしの安い家賃で貸し、生活支援も行っている。代表の藤田孝典さん(26)は言う。「好きで路上生活をしている人なんていません。いったん家を失うと、住所がないことも障害になり、次の住居を探すこともできないのが現実なのです」

 会では年間約500人から相談を受けているが、そのうち8割は住む場所を失った人や、家賃の滞納などで失う直前の人たちという。生活が困窮し、行政に保証人や敷金・礼金などの初期費用がないことを相談しても「自分で探してください」と言われ、ここにたどり着く人も多いという。

 ほっとポットでは支援付きアパートの紹介だけでなく、市内の不動産業者の協力を得て、一般の民間賃貸住宅探しのサポートもしている。保証人がない人の賃貸契約の際には緊急連絡先になり、入居後も生活支援を続ける。協力している不動産業者は「生活困窮者は何かあった時に連絡できる身寄りがない人が多く、大家から敬遠される。ほっとポットのようなサポートなしに部屋を見つけるのは難しいだろう」と話す。

    ◇

 女性はほっとポットの支援付きアパートに入居して、また生活保護を受けることができた。8畳一間の1人暮らしで、家賃は月4万5000円。風呂とトイレは共同だが「普通の暮らしができるようになっただけでも、ありがたい」。初めは黙りこんで下を向いてばかりだったが、少しずつ持ち前の笑顔が戻り、今はスタッフと冗談を飛ばし合う。

 昨年秋の不況以降、支援付きアパートへの入居希望者は増え、待機者もなくならない。今年になって女性はチラシ広告の折り込みのアルバイトを始めた。路上生活で痛めた腰はまだ治らないが、自立への思いは強まる。

 「困っている仲間たちのために、少しでも早く部屋を空けてあげたい。働けるだけ働かなきゃ」【小林多美子】

 ◇全国で約1万3000人が入居

 無料低額宿泊所は路上生活者など生活が困窮している人に、無料または低額な料金で住居を貸し付ける民間宿泊所。社会福祉法が定める社会福祉事業で、厚生労働省によると、08年6月時点で全国415カ所に1万2940人が入居している。厚労省と国土交通省による「ホームレスの自立支援等に関する基本方針」では、住居が緊急に必要な人に活用するとされており、路上生活者が生活保護を受給した際、福祉事務所に紹介されることが多い。

 だが、入居者への人権侵害が問題視される宿泊所も現れている。今年1月には埼玉県内の宿泊所が入居者の預金通帳などから無断で利用料を天引きしていたことが分かった。藤田代表はこうした民間宿泊所について「地域社会から切り離された生活になり、社会生活に復帰したとは言い難い」と指摘。「国は路上生活者の自立支援を進めているが、再び路上に戻らないためにも、まずは安心できる住まいを確保することから始め、就労支援などのステップに進むべきだ」と提言する。

毎日新聞 2009年5月12日 東京朝刊


追い出し屋:
被害救済、3団体が提言

 1カ月程度の家賃滞納で入居者を強制的に追い出す「追い出し屋」の被害救済に取り組む「全国追い出し屋対策会議」など3団体が10日、東京都内で全国集会を開いた。

 約80人が参加し、保証会社や不動産管理会社への登録制度の導入、低所得者向け公営住宅の新規建設などを政府に求める宣言をまとめた。

毎日新聞 2009年5月11日 東京朝刊


ハウジングプア:
/上 「追い出し屋」に閉め出され

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 失業や病気で収入が途絶えたとたんに、安心して暮らせる場所を失う。そんな状況を呼ぶ言葉が生まれた。「ハウジングプア」。住まいをなくした人たちを追うと、さまざまな制度の不備が浮かぶ。【小林多美子】

 ◇家賃滞納で鍵交換、荷物撤去…保証会社の不法野放し

 「あさってまでに家賃を払わなければ、18日に鍵を閉めます」。昨年11月15日、大阪市の男性(49)は契約していた家賃保証会社から電話で告げられた。10月末に大家に払う予定だった11月分の家賃・光熱費計6万円を滞納していた。

 予告された18日夜。帰宅すると玄関のドアに新しい鍵がつけられていた。「滞納した自分が悪い。でもこんなに早く閉め出されるなんて……」。1カ月ほどして戻ってみた。鍵が開いていたので中に入ると、置いていた家財道具や服、トイレットペーパーまで、すべてが消えていた。

 短期間の家賃滞納を理由に入居者を強制的に退去させる「追い出し屋」。当時の男性は、その言葉すら知らなかった。

     ◇

 男性は約20年前に統合失調症を発症し、家族と疎遠になった。障害で働けず、生活保護を受給。2年半前に携帯電話サイトで「敷金・礼金ゼロ」に引かれてこのアパートを見つけた。連帯保証人になってくれる親族はなく、不動産業者の求めで保証会社と契約した。

 月12万円の保護費から家賃や生活費を引くと、ぎりぎりの生活。1年がたつころから家賃の支払いが遅れ始めた。遅れた分も1カ月以内には払ったが、保証会社から違約金5000円を請求された。それを払うたびに翌月の支払いが遅れる繰り返しに陥ったという。

 部屋に戻れなくなった男性はカプセルホテルに身を寄せた。隣の人が寝返りを打つ音まで響く。精神的に不安定になり、薬の服用回数が増えていく。閉所恐怖症なので扉を開けて寝ていたら、財布を盗まれてしまった。

 住まいを失って気づいたことがある。以前は1人で部屋にいると気がめいるので、街を歩いたり公園で過ごすことが多かった。でもカプセルホテルでの暮らしは、どこにいても落ち着かない。「安心して外に出られたのも、帰る家があったからだったんだ」

 福祉事務所は「年内に新居を決めないと、生活保護を止める」という。そうなればカプセルホテルにもいられなくなる。大阪の弁護士や司法書士らで作る「賃貸住宅追い出し屋被害対策会議」を知って駆け込み、保証会社の行為が違法だと教えられた。

 「法律の知識もなく、業者の言われるがままになってしまった」。弁護士の協力で生活保護も続けられ、月4万2000円のアパートに入居できた。支出が減り、もう家賃を滞納することもない。今年1月、保証会社らを相手に、精神的慰謝料と撤去された荷物の賠償計140万円を求める民事裁判を大阪簡裁に起こした。保証会社側は取材に対し「係争中で、コメントは控える」としている。

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新しいアパートで暮らす男性。住まいとともに心の安定も戻ってきた

     ◇

 追い出し屋による被害は昨年秋に表面化した。国土交通省によると、全国の消費生活センターなどへの相談は06年度の29件から07年度には68件に急増している。鍵の無断交換や荷物の撤去を強行したり、深夜しつこく訪問する。消費者契約法の上限利率(延滞家賃に対し年14・6%)を超える違約金を請求する業者もある。

 本来、入居者には借地借家法で居住権が認められており、判例上、大家が家賃滞納を理由に退去を求めるには「信頼関係が破壊されるほどの滞納」が必要で、その期間は半年程度とされている。国交省も部屋への無断立ち入りや鍵の交換は「住居侵入罪や民法上の不法行為にあたる可能性がある」としている。

 追い出し行為を行う業者の多くは家賃保証会社や不動産管理会社だ。特に保証会社は家族関係が希薄になったこともあり、ここ数年で増加。民間賃貸契約で連帯保証人を立てられずに保証会社を利用した契約は07年度に25%を占める(日本賃貸住宅管理協会調べ)。ニーズの高まる業界だが、法的な規制はなく貸金業への規制強化で追い込まれたヤミ金融などが流れ込んでいるともみられる。

 さらに、公的な保証制度が機能していないことも温床となっている。財団法人「高齢者住宅財団」は01年度から高齢者や障害者への保証事業を実施しているが、07年度までの利用者数は高齢者が560人、障害者は3人どまり。大阪市の男性は「制度があることも知らなかった」という。

 今年2月に発足した「全国追い出し屋対策会議」は国に対し、保証会社への登録制度の導入と規制強化を要望。メンバーの徳武聡子司法書士は「急な出費で家賃を滞納せざるをえないほどの低所得者が増えているのに、国の支援策はあまりに不十分」と指摘する。

 ◇ハウジングプア

 働いても貧困から抜け出せない「ワーキングプア」にちなみ、貧しさゆえに安定した住まいを持てない人々の現状を知ってもらおうと、生活困窮者らを支援するNPO「自立生活サポートセンター・もやい」代表の稲葉剛さん(39)が考えた。追い出し屋が絡む家に住む人や寮付き派遣の労働者など、家はあるが不安定▽ネットカフェやカプセルホテルなど、屋根はあるが家ではない▽路上生活--などの状態を指す。

 今年3月にはNPOなどが「住まいの貧困に取り組むネットワーク」を結成、あらゆる人への住居の保障を求めている。世話人でもある稲葉さんは「家は人が働き、暮らす基盤。収入が多くない人も家にかかる支出が少なければ、生活困窮に陥らずに済む」と、公的住宅の拡充などを訴える。

毎日新聞 2009年5月11日 東京朝刊


「追い出し屋」:
被害救済3団体が提言 東京で集会開く

 1カ月程度の家賃滞納で入居者を強制的に追い出す「追い出し屋」の被害救済に取り組む「全国追い出し屋対策会議」など3団体が10日、東京都内で全国集会を開いた。約80人が参加し、保証会社や不動産管理会社への登録制度の導入、低所得者向け公営住宅の新規建設などを政府に求める宣言をまとめた。主催者は現在、入居者に無断で鍵を交換した業者などを相手取った民事訴訟23件を全国で支援している。

毎日新聞 2009年5月10日 20時13分


追い出し屋:
「深夜に家賃督促」…電話相談に不安の声

 短期間の家賃滞納で入居者が強制的に退去させられるトラブルが相次いでいる問題で、「全国追い出し屋対策会議」(電話06・6361・0546)など3団体が19日に実施した電話相談の結果(概要)がまとまった。

 1カ月程度の滞納で鍵を無断で交換するなど、強制的に入居者を追い出す保証会社や不動産管理会社は「追い出し屋」とも呼ばれ、昨年秋ごろから問題が表面化した。相談総数は63件で、「部屋に置いてあった荷物を勝手に撤去された」「家賃滞納のたび高額違約金を支払わされ、家賃督促の深夜訪問を受けた」など追い出し行為による被害相談が11件あった。現時点では被害はないものの「賃貸契約書に1カ月の滞納で鍵を交換すると書いてある」などの不安の声も数多く寄せられた。

 規制する法律がないため、対策会議は政府に規制強化を求めている。【小林多美子】

毎日新聞 2009年4月21日 12時04分(最終更新 4月21日 12時28分)


追い出し屋:
不動産管理会社などを提訴 被害の大学生ら

 短期間の家賃滞納を理由にアパートから追い出したのは違法だとして、東京都内の男子大学生(25)と60代の営業職の男性が15日、不動産管理会社など4社を相手取り、1人あたり200万円の慰謝料などを求めて東京地裁に提訴した。不況の影響で家賃支払いが遅れ、退去させられるケースが増えているといい、大阪や宮崎など3府県でも近く元派遣社員らが同種の訴訟を起こす予定。原告側弁護団は「一斉提訴で『追い出し屋』への法規制を促したい」としている。

 訴状などによると、大学生は05年に杉並区のアパートに入居。生活苦のため、今年1月末に2月分の家賃7万7000円の支払いが遅れた。管理会社は2月中旬、ドアを開けられないようにする器具を設置。大学生は滞納分を払って3月下旬に部屋に戻ったが、撤去されたパソコンなどは返還されていない。

 60代の男性は昭島市のアパートに住んでいたが、昨年12月分の家賃を滞納したところ、鍵を交換され、荷物も撤去された。現在は別のアパートで暮らしている。

 原告側はこうした管理会社の「追い出し」行為により、原告の居住権が侵害されたとしている。

 60代男性は記者会見し、「自分がだらしないのが原因だとは思うが、会社の対応は納得できない。他にも同じ立場の人がいると思うので、少しでも良い結果が出るようにと提訴した」と話した。

 不動産管理会社側は「訴状を見て対応を検討したい」などとしている。【工藤哲】
 ◇無料で被害相談

 住まいの貧困問題に取り組む「全国追い出し屋対策会議」など3団体は19日午前10時~午後6時、家賃滞納を理由とする高額な違約金請求や、鍵の無断交換・荷物撤去の被害相談に無料で応じるホットライン(0120・442・423)を開設する。

毎日新聞 2009年4月15日 11時41分(最終更新 4月15日 12時00分)
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