Edicational Crisis
教育の機会均等を守れない

就学援助:
所得基準に1.5倍もの格差 主要73市区で

2010年1月4日 2時30分 更新:1月4日 2時30分

 自治体が経済的に困窮する小中学生を支援する「就学援助(準要保護)」制度で、全国の主要73市区の間で支給条件となる親の所得基準に最大1.5倍もの格差があることが、毎日新聞の調査で分かった。本来、生活保護まで至らない困窮世帯を支援する制度だが、大阪、横浜など8市は所得条件を生活保護と同等に厳しく設定していた。就学援助の所得基準に関する全国規模の公的データはなく、実態が明らかになったのは初めて。【佐々木雅彦、北川仁士、平野光芳】

 就学援助には生活保護世帯の子どもへの「要保護」と、それ以外の子どもへの「準要保護」がある。要保護の対象は全国約13万人(08年度)だが、生活保護の受給には資産の有無や生活状況が厳しく審査されることなどから、子どもを抱えた困窮世帯の全体像を表したものとは言えなかった。

 調査は、生活保護世帯以外に支給される準要保護に着目して、09年12月に実施。国庫補助がないため支給基準や額は自治体で異なり、大半は支給の所得基準を生活保護基準額(都市部の夫婦と小学生以下の子ども2人の家庭では約25万円)をもとに決めているため、全国の政令市と道府県庁所在地、東京23区に、何倍に設定しているかを聞いた。

 最も高い「1.5倍」は福島、宇都宮市で、多くの自治体が1.2~1.3倍以下となっており、生活保護世帯より所得面で余裕のある家庭への支給も可能だった。札幌、静岡、福岡、北九州市などは所得でなく、社会保険料などを控除する前の「収入」を基準としていた。

 一方、最も厳しい「1.0倍以下」は、大阪、横浜、名古屋、堺、川崎、千葉、和歌山、佐賀。支給を受ける子どもは計約14万人となり、生活保護家庭以下の所得で暮らす子どもの実態の一部が初めて数字で裏付けられた。松本伊智朗・札幌学院大教授(児童福祉論)は「14万人が暮らす家庭は、保険料などの減免がある生活保護受給世帯より生活は苦しいはず。自治体間で支給条件に格差があることも問題」と指摘している。

 「1.0倍以下」にしている理由については「財政が厳しく、生活保護レベルで切るのが妥当」(大阪市)、「制度の維持継続のため仕方ない」(堺市)と財政難を挙げる市が多く、「予算確保が難しい。国の予算配分を要望したい」(佐賀市)という声もあった。

 8市とも所得以外の認定基準も設けているが、「大抵は生活保護の所得基準で認定」(和歌山市、堺市)という回答が多かった。

 ◇ことば・就学援助

 自治体が、経済的理由で就学困難な小中学生を援助する制度。給食、学用品費や修学旅行費などを支給する。1人あたりの援助額は年間数万~十数万円。生活保護世帯に対する「要保護」と、「要保護に準ずる程度に困窮している」子どもへの「準要保護」があり、要保護は国が費用を一部負担している。08年度の対象は過去最多の約143万人で、このうち準要保護は約130万人だった。

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高校奨学金:
24都府県で併用禁止 自治体移管で変更に

 日本学生支援機構(旧日本育英会、横浜市)から都道府県に移管された高校生への奨学金事業で、24都府県が公益法人や民間団体の貸与型奨学金との併用を禁じていることが毎日新聞の調べで分かった。機構が実施していた04年度までは併用を認めていたが、移管後に自治体の判断で方針を変更した。家庭が困窮し一つの奨学金では通学できない子も多く、教育の機会均等を掲げる奨学金制度の貧しさが浮かんだ。

 高校奨学金事業は特殊法人改革に伴い05年度、都道府県に移管された。自治体ごとに収入・学力基準を設けて申請を審査し、無利子で貸与する。額も一律ではないが、自宅生の標準的な額(3年間)は国公立高で64万8000円、私立高108万円。日本政策金融公庫の調査(08年)によると、高校3年間にかかる教育費は1人平均約326万円に上る。

 併用を禁じた自治体に理由を尋ねると「より多くの人に利用してもらうため」(青森県、岡山県ほか)▽「借りた子の返済負担が増え、多重債務に陥るのを防ぐため」(東京都、長野県ほか)--などの回答が多かった。

 併用を認めている23道府県の多くは「禁止の必要はない」と回答。愛知県は「ローンと違い修学にいそしむためのもの」、神奈川県や埼玉県は「学習の機会を保障するため禁じていない」と答えた。

 遺児の進学を支援する「あしなが育英会」(東京都)には3年前から「県の奨学金と併用が認められなかった」と、奨学金を辞退する例が相次いでいる。

 昨年2月、同会の奨学金を利用(予定含む)する母子家庭の母親にアンケートで尋ねたところ(回答数1064)、「一つの奨学金だけでは進学させられない」家庭が31.7%あった。工藤長彦理事は「低所得者層が広がり、奨学金が一つではどうにもならない。あしながの奨学生でも親が負担に耐えきれず中途退学する子が目立つ。親の経済力に差があっても子どもが同じスタートラインに立てるようにするのが社会の責務」と、制度の充実を求めている。【立山清也、山崎友記子】
 ◇都道府県の併用状況

 ○=公益法人、民間団体ともに併用可 ×=公益、民間ともに不可 △=公益は不可で、あしながを含む民間は可 ▲は公益とあしながは不可で、他の民間は可

北海道 ○
青森県 ×
岩手県 ○
宮城県 ○
秋田県 ×
山形県 ○
福島県 ×
茨城県 ○
栃木県 ×
群馬県 ×
埼玉県 ○
千葉県 ○
東京都 ×
神奈川県○
新潟県 ×
富山県 ×
石川県 ○
福井県 ×
山梨県 ×
長野県 ×
岐阜県 ○
静岡県 ×
愛知県 ○
三重県 △
滋賀県 ○
京都府 △
大阪府 ○
兵庫県 ○
奈良県 ▲
和歌山県○
鳥取県 ×
島根県 ○
岡山県 ×
広島県 ○
山口県 ×
徳島県 ○
香川県 ○
愛媛県 ×
高知県 ○
福岡県 ×
佐賀県 ▲
長崎県 ×
熊本県 ×
大分県 ○
宮崎県 ○
鹿児島県○
沖縄県 ×

毎日新聞 2009年6月9日 2時30分(最終更新 6月9日 2時30分)


私学助成:
栃木県が10年度から廃止 財政悪化で

2009年4月24日 2時30分

 栃木県が2010年度から、私立学校に出していた補助金を廃止する方針を固めたことが23日分かった。これまでは児童、生徒ら1人当たり年1万1500円を県単独の補助金として計上し、09年度は約6億円を支給する。自治体の中には財政悪化に伴い、私学への補助金を削減する動きが出ているが、日本私立中学高等学校連合会は「廃止は聞いたことがない」と話している。

 県によると、同県内の私学204校・園が09年度に受ける助成費は、国庫支出金と地方交付税相当分を含め総額約131億5100万円。県単独分の6億円は全体の約4.5%にあたる。だが、景気低迷などに伴う財政悪化で、同県は09年度以降、毎年300億円以上の財源不足が生じる見通しで、補助金廃止を決めたという。

 県は「財政健全化のためには聖域なく見直すことが必要。(補助金廃止は)やむを得ない」と話し、反発が予想される私学側と本格的な調整に入る。【葛西大博】


母子家庭:
就職予定の高3生 4割が生活苦で進学断念

2009年4月14日 15時5分 更新:4月14日 15時5分

 父親を亡くした母子家庭に育つ高校3年生の約3割が就職を希望し、うち4割が生活苦を理由に進学を断念していることが、遺児の進学を支援する「あしなが育英会」の調べで分かった。同会は「不況で母親の収入が減り、母子家庭がより厳しい生活に追い込まれている」とみている。

 調査は昨年12月、同会の奨学金を受けている当時の高校3年生にアンケート形式で実施した(回答数582)。就職希望者は27.8%(162人)で、同じ時期に文部科学省が調査した高校3年生全体の平均(19.3%)を上回っている。

 就職希望者に理由を聞くと、「進学したいが経済的に進学できない」が21%、「家計を助けるため」が19%で、合わせて40%が授業料などの負担を心配しやむなく進学を断念。元々進学に関心がないといった回答は15%にとどまっている。

 同会の調べでは、父親を亡くした母子家庭の母親の勤労所得は07年に約134万円。98年と比べ3割以上下がり、一般世帯の約3割にしかならない。大学での奨学金希望者は年々増えているが、限られた資金の中で高校生への貸与を優先しており、大学生への貸与を増やすのは難しいという。

 工藤長彦(としひこ)理事は「高卒で就職すると大卒に比べ就労条件が悪く、将来に不安を感じている家庭も多い。大学全入時代といわれる今でも、遺児は希望しても進学できない実態を知ってほしい」と訴えている。

 同会は春の街頭募金を18、19、25、26の4日間、全国約250カ所で一斉に実施する。郵便振替(00140・4・187062 あしなが学生募金事務局)でも受け付けている。問い合わせは同会(03・3221・0888)。【山崎友記子】


私立高校生:
学費滞納3倍増 2万4490人

2009年2月10日 11時11分

 授業料を滞納している私立高校生が全国に2万4490人(08年12月31日現在)いることが、文部科学省が日本私立中学高等学校連合会を通じて実施した調査で分かった。07年度末の3倍超で、全体に占める割合は2.7%。昨秋以降の厳しい経済状況を反映しているとみられ、文科省は「都道府県の授業料減免制度を知らない生徒や保護者も多い。まず学校に相談してほしい」と呼び掛けている。

 文科省は、景気や雇用情勢などの悪化を踏まえ、連合会に依頼し08年末と07年度末の授業料滞納の実態を初めて調査した。全国の私立高1321校を対象とし、うち1218校(在籍91万3830人)から回答を得た。

 08年末の滞納者は2万4490人で全体の2.7%。地域別の割合は九州が5.7%と最も高く北海道・東北が4.5%で続いた。07年度末(在籍91万4067人)の滞納者は7827人で、全体の0.9%だった。

 一般に年度末に向かって滞納者数は減る傾向があるが、文科省は「減免などの制度を知らないまま生徒が退学していくことのないようにしなければならない。教員も具体的な施策を知っておいてほしい」としている。【加藤隆寛】


あしなが奨学金:
高校生1割が進学断念 生活苦しくも8割

2009年2月9日 22時50分

 親を失った学生を支援している「あしなが育英会」(東京都千代田区)は9日、奨学金を得ながら高校に通う奨学生の1割近くが、不況の影響で卒業後の進学を「断念した」とするアンケート結果を公表した。昨年9月と比べて「生活が苦しくなった」という回答も8割に上っており、育英会は「一人でも多く進学できるよう支援をお願いしたい」と呼びかけている。

 昨年末から今年1月にかけ、高校1~2年生の奨学生の母親1878人を対象に調査を実施、814人から回答を得た。子供の教育環境の変化を複数回答で尋ねた質問では、73人(9%)が「進学をあきらめた」と回答。昨年2月の同種調査と比べて2ポイント増加した。「進学への意気込みが減退した」も131人(16%)だった。

 9月以降の生活の変化では「とても苦しくなった」「苦しくなった」「やや苦しくなった」の合計が639人(79%)に上った。母親の失業率は9%を超えており、昨秋以降、勤め先の倒産や解雇で失職した母親も36人いた。仕事がある場合でも、6割近くはパートやアルバイトなどの非正規社員だった。

 母親たちからは「派遣の仕事を12月にリストラされ、収入がなくなった。子供が心配して高校に行くのをあきらめるのではないか」「水道、光熱費、家賃はすべて延滞。単発のアルバイトなどでしのいできたが、限界です」と悲痛な訴えも寄せられている。

 格差の拡大などにより、育英会への奨学金出願者は年々増加し、08年は2808人と過去最高を更新した。今回の調査でも、7割近くが「奨学金があるから学校に行かせてやれる」と答えており、「奨学金だけでは間に合わないほど生活が苦しい」という母親も110人いた。

 だが、育英会の寄付金や返還金収入は増えていないため、08年の大学進学希望者への奨学金貸与率は過去最低の62%にとどまっている。アンケート結果を踏まえ、育英会は遺児家庭への支援拡充を要望していくという。【山本太一】


あしなが奨学金:
出願者が急増…不況、遺児家庭を圧迫

2009年2月9日 15時00分 更新:2月9日 15時00分

 親を失った学生を支援している「あしなが育英会」(東京都千代田区)への奨学金出願が急増している。格差の拡大や不況の影響で遺児家庭の家計が苦しくなっているためで、昨年の出願者は約2800人と過去最高を更新した。一方で会の寄付金収入は増えておらず、今春の大学進学希望者への支給率は過去最低の約6割にとどまった。育英会は「不況が長引けば、学生が教育を受ける機会が奪われかねない」と危機感を募らせている。【町田徳丈、山本太一】

 出願者を対象にした育英会の調査によると、98年に約200万円だった母子家庭の年間所得は、06年に約137万円に減少した。これに対し、98年に1459人だった奨学金出願者は02年に2000人を突破、不況が深刻化した08年は2808人に上った。

 福岡市出身の奨学生で、北里大医療工学科2年の堀田竜也さん(20)は、都内にある育英会の学生寮から大学に通い、がん治療に携わる放射線技師の資格取得を目指している。高校1年の時、父親が借金苦で自ら命を絶った。人の死を目の当たりにして「命を救う医療に携わりたい」と進学を希望した。

 介護の仕事をしている母親の収入だけでは大学の学費は工面できなかったといい「社会の支えで大学に通っている。後輩の遺児も一人でも多く進学してほしい」と話す。

 だが、育英会を巡る現状は厳しい。団体や個人からの寄付、返還金は、年間20億円前後で推移しており、増加傾向は見られない。

 奨学金は高校進学希望者への貸与を優先し、6割以上を充てているため、今年度は大学進学を希望する申請者613人に対し、378人(62%)しか奨学金を貸与できなかった。

 奨学金の原資となる寄付金を集めるため、堀田さんは毎年春と秋の2回、同じ寮で暮らす日本大2年、尾上晃二さん(21)ら奨学生仲間と一緒に街頭に立つ。「後輩に進学するチャンスを失わせたくない。景気が悪くなると、弱い立場の遺児家庭はますます苦しくなる現状を訴えたい」。2人はそう思っている。

 ◇あしなが育英会
 病気や災害、自殺で保護者を亡くした学生を支援する民間の非営利団体。高校生には月額2万5000~3万円、大学生には4万~5万円の奨学金を無利子で融資し、20年以内に返還してもらう。これまで約2万4000人が奨学金を得て進学した。

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