Orphan Asylum as Decentralization
地方分権時代の児童養護施設


児童養護施設:地方への権限移譲反対 関係12団体要望書

2009114 150分 更新:114 150

 国から地方への権限移譲を巡り、虐待などのため家庭で暮らせない子供が生活する児童養護施設などの関係者から、施設の設置、運営基準に関する権限移譲に反対する声があがっている。自治体の裁量に任せると、財政状況により子供の生活水準の地域格差が広がりかねないためだ。施設の設備基準は60年以上大きく変わっておらず施設長らは「国の基準の改善が先だ」と訴えている。

 政府は地方分権改革推進委員会第3次勧告が規制廃止や自治体への権限移譲などを求めた892項目のうち103項目について、4日までに回答するよう各省庁に指示している。

 児童養護施設の設備や運営に関する児童福祉施設最低基準も対象だが、全国児童養護施設協議会、全国保育協議会など12団体は10月16日「(移譲は)断固反対」などとする要望書を長妻昭厚生労働相あてに提出した。

 児童養護施設や乳児院、里親の家庭などで暮らす子供は05年に4万人を突破した。うち約3万人が全国568の児童養護施設で暮らす。虐待の増加で定員超過の施設も出ているが、施設の最低基準は1948年以来「1部屋15人以下」のままで、職員配置も30年間「小学生以上の子供6人に対し職員1人以上」だ。

 西日本の施設長は「思春期の男子3人が同じ部屋でけんかも絶えない」と話す。首都圏のある施設は07年まで定員を上回る被虐待児を受け入れていた。現在も虐待の影響で暴れて登校の難しい子供や、自殺を口走る子供もいて目を離せない。

 施設長は「職員配置を手厚くしてきた自治体もあるが、関心の薄い所も多い。国の基準が廃止されれば、今より子供の生活水準が低下する自治体も出かねない」と懸念する。

 社会福祉法人「鳥取こども学園」の藤野興一園長も「傷を抱えた子供たちの施設での暮らしぶりこそ、国の保障する最低限度の生活水準とは何かを問いかける。戦災孤児の収容の考えからほぼ変わらない国の基準をまず手厚くすべきだ」と指摘している。【野倉恵】


外国籍児童・生徒:住む街で「進学格差」

 公立校への転入を望む在日外国人の子どもへの対応に自治体や学校で差があり、進学を目指すうえで不平等が生じていることが毎日新聞の調べで分かった。愛知県豊田市では08年度、年齢相当の中学3年に編入されたブラジル人少年が在籍期間の短さを理由に卒業資格を得られなかった。一方、群馬県太田市などは進学への配慮で年齢より下の学年に編入したことがある。専門家は「教育機会が平等になるよう自治体は対応を統一すべきだ」と指摘している。

 外国籍住民が多い自治体で作る外国人集住都市会議の28市町を対象にアンケートなどをして判明した。

 無回答の3市を除く25市町のうち、外国人の子どもの希望や日本語能力、転入後の在籍期間に配慮し、小中学校で下学年編入をしたことがあるのは太田市、長野県飯田市、静岡県富士市、磐田市、浜松市、岐阜県美濃加茂市、三重県亀山市、伊賀市の8市。残る17市町では、記録のある限りでこうした理由での下学年編入はなかった。

 このうち豊田市で08年11月、市内のブラジル学校から市立中学3年に編入されたブラジル人少年は日本の高校への進学を希望したが、卒業を認められず今春退学、高校の受験資格を得られなかった。同市では今年2月に転入を希望した中3相当のブラジル人少女もいたが、残り期間が短いとして転入を認められなかった。群馬県伊勢崎市も、過去に同様の理由で転入を認めなかったことがあった。

 年齢相当に編入したうえで卒業資格を与えている自治体では、学習不足から受験で不利が生じる可能性もある。これに配慮している自治体もあり、三重県四日市市は今年2月に中3に編入したブラジル人の男女各1人の留年を認めた。

 豊田市学校教育課の担当者は、「在籍期間が半年未満の生徒の卒業は認めないという市の方針に沿った」と説明する。

 文部科学省国際教育課の担当者は「豊田のケースは特例で留年させればよかったかもしれないが、外国人には就学義務がないため、最終的な判断は自治体と学校に委ねている」と話している。【中村かさね】

 ▽外国籍の子どもの学習支援に詳しい三重大の藤本久司准教授(多文化教育)の話 外国籍の子どもにも教育の機会は平等であるべきで、年齢にこだわらない学年への編入など柔軟な対応が望まれる。ただし増加する外国籍の子どもへの対応に現場の余力がないのも事実で、国の財政的なサポートや方針の周知徹底も必要だ。

 ◇ことば 外国籍児童・生徒


 文部科学省の調査によると、08年5月現在、全国で公立小中高校に通う外国籍児童・生徒は7万4028人で、3年間で4560人増えた。08年12月現在、外国人学校に通う小中高校年代の生徒は5043人いたが、学費が高いことから経済危機の影響を受け、今年2月現在では3281人に激減、1割が公立校に転入した。

毎日新聞 2009114日 230分(最終更新 114日 230分)


長妻厚労相:福祉現場を視察 地方分権巡り実情を探る

 長妻昭厚生労働相は31日、東京都内の保育所や特別養護老人ホームなど4カ所の福祉施設を視察した。地方への権限移譲を求める地方分権改革推進委員会第3次勧告への厚労省の回答期限を11月4日に控え、福祉施設の実情を探るのが目的。長妻厚労相は「憲法の保障する最低限度の生活の基準をどこまで自治体に任せるか、悩んでいる」と語った。

 福祉施設の面積や職員配置の基準を巡っては、待機者解消などを念頭に全国知事会などの地方団体が権限を移すよう訴える一方、施設側からはサービス低下を懸念する声も上がっている。

 この日、中野区の知的障害者入所更生施設「愛成学園」を訪れた長妻厚労相に対し、施設や区側は「待機者が多い中、居住面積の国の基準をなくすだけでは、入所者を狭い部屋に押し込めるといった事態が起きるおそれもある。権利擁護の仕組みが必要」「権限移譲は必要だが、自治体の財政力に応じたサービス基準になってしまわないか」などと訴えた。【野倉恵】

毎日新聞 20091031日 2110


クリスマス村の親子たち:/下 悩みながら、支える職員

 ◇施設入所する子案じ「親との生活、応援したい」


 児童養護施設「クリスマス・ヴィレッジ」(東京都足立区)の敷地内で、ショートステイ事業を続けている2DKのプレハブ住宅。事務机がある部屋の片隅に黒いランドセルがある。10日間をここで過ごした元気君(7)のものだ。

 一人の母親が「今日から利用できないと困る」と切迫した電話をかけてきたのは、8月末だった。元気君を連れてきた母親は「子どもがいないとやっていけないけど、子育てがつらい」と泣いた。

 その数日後、施設の居間のテレビに、覚せい剤取締法違反罪で起訴された女優の酒井法子被告が映っていた。見ていた元気君の口から、職員の吉田利久子さん(29)が思いもかけなかった言葉がこぼれた。「覚せい剤、僕知ってるよ」

 吉田さんは驚いていることを悟られないように理由を尋ねた。元気君は「僕を預けてる間に、お母さんも白い粉をやっている」と、使い方を詳細に説明し始めた。「止めようとしたら、突き飛ばされてテーブルに頭をぶつけたの。お母さんは『大人になったら一緒にやろうね』って」。悲しそうな顔だった。

 児童相談所が対応を検討することになり、吉田さんは元気君を一時保護所に連れて行った。親と離れ、ショートステイに慣れたと思ったら、また知らない場所へ。「彼は今後、どうなっていくのか。私たちは短い間しか一緒にいられない」。見送る吉田さんに、元気君は「じゃあね」とだけ言った。

 入所する児童養護施設が決まったら、預かっているランドセルを送るという。

    *

 「ここに来る子たちは、どこか大人びた言動をすることがある」。以前保育園で働いていた吉田さんは話す。

 ショートステイ利用者の約8割は母子家庭だ。吉田さん自身も高校生のときに両親が離婚し、父親にはその後一度も会っていない。「私も同情されたくなかったから、預けられる子どもたちをかわいそうとは思いたくない」

 いたずらが過ぎたり、何度注意しても反省しない子もいる。虐待されたことのある子は周囲の関心を引こうとうそをついたりもする。吉田さんは気がつくと、声を張り上げてばかり。来年には自分も母親になるが「私って子どもが嫌いだったのかも」と思ってしまうこともある。そんな時、育児疲れに追いつめられる母親たちの気持ちが分かったような気がするという。

    *

 隣の児童養護施設で暮らす翔君(6)は初めてショートステイに来たとき、顔半分が真っ青だった。母親に虐待されていたが、職員には「お母さんは心の病気だから仕方ないの。お母さんのこと嫌いじゃないよ」と言った。児童相談所は母子分離が必要と判断した。

 人前で声を殺して泣く子を見るたびに、職員の鈴木裕司さん(33)は子どもらしい感情を表に出すことも許されない家庭環境なのだと感じる。でも「施設入所がすべての親子にとって良いとは言えない」とも思う。

 母親の中絶手術のためにここに預けられた幼い兄弟がいた。母子3人で路頭に迷っていたところを福祉関係者に保護された。母親は施設で育ち、キャバクラなどを渡り歩いて生活していた。

 鈴木さんが言った。「施設を出て社会で生きていくのは難しい。長期の親子分離は互いの心にしこりを残すこともある。できることなら一緒に生きたい。ショートステイはそんな親子を応援する場なのです」【榊真理子】(子どもの名前は仮名です)

毎日新聞 20091021日 東京朝刊


クリスマス村の親子たち:/中 「いらっしゃい」に救われ

 ◇体調不良、育児不安
「自分が壊れる」とSOS

 育児疲れや病気の親から一時的に子を預かるショートステイ事業。児童養護施設「クリスマス・ヴィレッジ」(東京都足立区)を訪れる子どもたちは、自分ではどうすることもできない逆境の中でも懸命に生きようとしている。一方で、ここに子を預けざるを得ない親たちにも、さまざまな事情がある。

    *

 9月下旬のある夕方。4歳と2歳の子の手を引いて由紀さん(26)がやってきた。月1回のペースで利用し、これで10回目。2人の子は職員にすっかりなついている。

 由紀さんは昨年11月に離婚、生活保護を受けている。東北から上京し、近くに頼れる身内もいない。自宅でピアスを作る内職仕事をしながら勤め先を探そうとしているが、保育園に何度申し込んでも、待機児童が多すぎて子どもを預かってもらえない。ストレスで体調を壊し、寝込みがちになった。「このままでは自分が壊れてしまいそう」と思い詰めていた時、区役所にあったチラシでショートステイ事業を知った。

 2人の子は由紀さんと離れたことがなく、初めは預けるのが不安だった。でも、お迎えに来て3日ぶりに会うと「声もしぐさもすべてが新鮮に思えて、余計にかわいく見えた」。今は子どもに当たってしまいそうだと気づいたり、自分に余裕がないと感じたら、離れるのがつらくても預けるようにしているのだという。

 ショートステイの利用中は、職員が連絡帳に子どもの一日の様子を書き、迎えに来た親たちに渡している。「今日は嫌いなトマトを頑張って食べました」「最近は泣かなくなりました」……。文面から成長ぶりが浮かんでくるのが由紀さんにはうれしい。「大きくなったら、この子たちにも見せたい」。表情がやわらかくなった。

 由紀さんが帰る時、2人の子は職員にお風呂で体を洗ってもらっていた。泡のついた体で、ママに笑顔で手を振る。風呂から上がった子どもたちは「自分でできるよ」と、得意そうにパジャマに袖を通した。

    *

 別の日の夕方、一本の電話があった。春に2度利用したことのある桜さん(28)から、緊急利用の申し込みだ。この日は既に定員の4人の子が来ていたが、職員は「これから大丈夫ですよ。どうぞいらしてください」。定員オーバーは珍しいことではない。

 30分後、桜さんが5歳の娘を連れて来た。「この4カ月間、大丈夫でした?」と職員が尋ねると「頑張ってきたんですが、昨日の朝から気持ちが悪くて、精神的にも落ち込んでしまって。子どもの前で物を投げたりしてしまいました」と暗い顔をしている。

 桜さんは娘と2人暮らし。昨年、精神疾患があると診断された。処方された薬を大量に飲み、救急車で運ばれたこともある。「父親と母親、一人で二役をこなさなければ」と自分にプレッシャーをかけ続けてきたという。

 週3回ガソリンスタンドで働きながら生活保護を受けているが、母子加算の廃止で精神的に追いつめられた。公共料金などの支払いが重なる月末は、特に憂うつになる。「病気でなければもっと働けるんですが」

 「ママ、行ってらっしゃい」と手を振る娘に笑って返す桜さん。「今日ここが空いていて、本当に助かりました」と、何度も頭を下げた。

    *

 「ショートステイを利用できたおかげで、子どもを養護施設に入れずに済んだ」と話す母親もいる。

 約1年ぶりに申し込みがあった幸子さん(47)。元夫は家庭内で暴力を振るった。生まれたばかりの娘も布団を巻き付けられ、投げられたことがある。耐えきれず離婚したが、不惑を過ぎての一人きりでの子育ては、体力的にもつらくストレスも大きかった。

 昨年10月、緊急で利用を申し込んだ。児童相談所には「子どもは施設に入れたほうがいい」と言われたが、できる限り自分で育てたかったという。

 でもこの秋、幸子さんの表情は明るかった。「ずっと気分が沈んでいたのは、甲状腺機能低下症の影響だったと分かったんです」。今回娘を預けるのは、検査入院のためだ。

 「退院したら看護師として働き始めます。元気になれるからには働いて、今の暮らしから抜け出さないと」。1年前とは別人のような頼もしい母が、そこにいた。【榊真理子】(母親の名前は仮名です)

毎日新聞 20091020日 東京朝刊


クリスマス村の親子たち:/上 母の迎え、涙こらえ待つ

 さまざまな事情を抱えた子と親を、虐待から守る小さなとりでがある。東京都足立区の児童養護施設「クリスマス・ヴィレッジ」。敷地内に建てた2DKの小さなプレハブ住宅で、子どもたちを数日間預かる「ショートステイ事業」を始めて1年がたつ。この秋、私(記者)はここで子どもたちと過ごし、いまの時代に足りないものは何なのかを考えた。【榊真理子】

 ◇病気の親と離れ、養護施設にショートステイ


 土曜日の夕食時。母親(32)に手を引かれて現れた真美ちゃん(8)は大好きなクマのぬいぐるみをしっかり抱きしめていた。「土曜日はずっと一緒にいるって言ったのに」と泣きじゃくり、利用手続きをする母親の腕をつかんで離さない。

 母親は離婚後、心のバランスを崩した。精神科の薬を飲み始めて3年。平日は仕事に出て、親にも周りにも迷惑をかけないように頑張ってきたが、子どもと2人きりの休日が続くと、心が苦しくなる。

 「自分の精神的な弱さで娘にも迷惑をかけて、後ろめたさが消えません」と母親が細い声で言う。真美ちゃんの前では涙を見せないが、ここに預けた日は家で一人で泣いているという。

 母親がつらそうに玄関のドアを閉めた。「ママに話したいことがあったのに。ショートステイなんて大嫌い!」。真美ちゃんは机に突っ伏した。泣き疲れて布団に入ったのは午後9時。母親が置いていったタオルを握りしめ、静かに寝息を立て始めた。

 翌朝。真美ちゃんは大好きなアニメの番組を見てご機嫌だ。ここにはままごとセットや積み木、絵本など遊び道具もいっぱいある。ブロックを手に取り、説明書を見ながら完成させたのは観覧車。「迎えに来たら、ママに見せるんだ」。笑顔になった。

   *

 離れていても、子どもたちはいつも親のことを思っている。

 近くの公園に子どもたちと遊びに行った時のことだ。大きな葉っぱを拾った2歳の女の子が「二つに分けて」と職員に渡した。ちぎってもらった葉っぱの片方を職員にあげて、もう一つを「これはママのね」と大切そうに握っていた。

 昼間は元気に遊んでいても、日が沈むとホームシックが始まる。母が緊急入院して預けられた3歳の女の子はここに来て8日目の夜、私のひざの上でアニメのビデオを見ながら急に泣き始めた。そのうち隣にいた男の子まで泣き出した。

   *

 家に帰る日を心待ちにしながら、願いがかなわない子もいる。

 父親と2人暮らしの勇君(4)は父親が入院するために預けられた。父親は退院後に迎えに来る予定だったが、体調も悪く育児に不安を訴え、勇君を児童養護施設に入所させることを希望した。勇君は入所する施設が決まるまで、児童相談所の一時保護所に行くことになった。

 一時保護所に行く前日、男性の児童福祉司が訪ねてきた。甘えん坊の勇君は福祉司のひざに乗った。福祉司が両手を握って切り出した。「お父さんの病気が治るまで、おじさんとお泊まりしようね」。勇君は「うん」と言って、遊びの輪に戻っていった。

 福祉司が切なそうにつぶやいた。「東京都内の施設があればいいのですが、どこも空きがない。他県になると、お父さんも頻繁に会いに行けないかもしれませんね」

 その日の夕食はラーメン。小学校1年の双子が「明日帰るんだよ」とうれしそうに話し、おかわりをした。同じテーブルにいた勇君は丼にじっと目を落としていた。大きな目をのぞきこむと、涙がたまっていた。

 翌日。午後1時すぎ、勇君の父親が来た。20代。左手が震え、つえをついている。

 昼寝をしていた勇君をスタッフが起こす。目の前に大好きなパパがいるのに、寝ぼけて私にしがみついてきた。私は「パパだよ」と背中を押した。勇君は父親に駆け寄り、後ろからおなかに手を回して背中に顔をうずめた。「大好きなドラえもん、とっておいたぞ」。父親が照れくさそうに言う。

 「そろそろ行こう」と立ち上がる父親の手を、勇君がぎゅっと握った。バイバイ、と笑顔で出て行った勇君。行く先は一時保護所であることを分かっているのだろうか。(子どもは仮名です)

 ◇全国506市町村が実施、一時的に育児負担軽減


 虐待などのケースでは、児童相談所が介入して親子を分離させることもある。しかし、少し離れて冷静になれば、一緒に暮らせる親子もいる。親たちが気軽にSOSを出せる場が必要だとして、厚生労働省は03年、子育て短期支援事業の一環としてショートステイ事業を始めた。

 自治体の委託を受けた児童養護施設や乳児院、里親宅などで、保護者の病気や疲れが大きく、育児負担の軽減が必要な場合などに、おおむね7日以内で子を預かる。08年度は全国506市町村で取り組んでいるが、自治体の財政事情などにより普及が進まない所もある。

 クリスマス・ヴィレッジでは原則1歳半から12歳までを受け入れ、08年8月の開設から1年間で延べ1049日の利用があった。

 黒田邦夫施設長は「育児疲れによる利用が多い。核家族化や地域コミュニティーの喪失で、頼れる人が身近におらず孤立した状況で子育てする親が増えている」と話す。

毎日新聞 20091019日 東京朝刊


障害者自立支援法:虐待児保護へ新基準 公費入所拡大

 障害児の保護者が福祉サービス費の原則1割などを負担する障害者自立支援法の契約制度について、厚生労働省は子供の事情に応じた新たな運用基準を都道府県に通知する方針を決めた。契約制度を巡っては、虐待で施設入所した子供にも適用し、保護者が負担金を支払わず親元に戻される恐れが出るなど、全国で不適切な運用例が相次いでいた。【夫彰子】

 長妻昭厚労相は同法廃止を明言したが、厚労省は廃止までの暫定的な改善策として、年内にも新通知を出す考えだ。

 従来、児童施設で暮らす子供は、生活・医療・教育を公費で保障する「措置制度」だった。しかし厚労省は06年の同法施行で障害児にだけ契約制度を適用し、都道府県に「保護者が不在、虐待、精神疾患のいずれかの場合は障害児も措置(制度の適用)が可能」との判断基準を示していた。

 ただ、厚労省は同時に示した「運用例」で措置制度の適用を厳しく制限。保護者が(1)入院や服役中でも所在が明らかなら不在と認めない(2)成年後見人がいなければ精神疾患と認めない(3)負担を滞納した場合、施設は契約を解除し子供を退所させてよい--などとした。これをどこまで順守するかで都道府県の対応は分かれ、日本知的障害者福祉協会の08年調査では、措置制度が適用された子供の割合は、自治体によって1割未満~7割超まで大きな差が出た。

 このため厚労省が設置した有識者による障害児支援の検討会は昨夏、格差の是正を提言。厚労省は新通知案で「保護者の契約意思の有無に関係なく、児童の個別事情を勘案し、必要があれば措置にする」と明記した。

 また、契約制度を適用された児童やその家族への児童相談所の支援は、従来「義務ではない」としてきたが、一転「措置・契約に関係なく継続的に適切な支援をする」と事実上義務化。厚労省障害保健福祉部は「新通知はあくまで措置率格差の改善が目的」と話している。

 【ことば】児童施設

 児童福祉法に基づき原則18歳未満の子供が入所または通所する。入所施設には、親の養育拒否などの事情で家庭で暮らせない子供のための乳児院や児童養護施設のほか、障害児のための肢体不自由児施設や知的障害児施設がある。全国に約1200カ所あり、入所児童数は約5万人。うち障害児が約3割を占める。契約制度が適用されるのは障害児施設の子供だけで、他の児童施設の子供は生活・医療・教育費などをすべて公費で保障する措置制度が無条件で適用される。

毎日新聞 2009106日 230




NPO IDO-Shien Forum