Mobility for Safety
モビリティ/安全な社会へ

タクシー1万2千台減車へ 供給過剰の解消狙い
2010年10月3日22時45分

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 全国のタクシー会社で減車や休車を申請する動きが相次いでおり、来年3月までに全体の4%強の1万2千台の車両が減る見通しであることがわかった。大規模なタクシーの削減は戦後初めて。車両の増加が客の奪い合いに拍車をかけ、運転手の待遇悪化を招いているとして、国土交通省は業界に対し営業車の削減を促している。サービスの低下も懸念されているが、業界にはさらなる規制強化を求める声が強い。
 国は昨年10月、タクシーが供給過剰になっているとして、「タクシー適正化・活性化特別措置法」を施行。供給過剰地域のタクシー会社に、車両の削減を申請すれば業務監査を免除するなどの特典を与えていた。
 朝日新聞が、全国10カ所の運輸局(沖縄総合事務所を含む)に現時点での申請状況を取材したところ、減車や一時的な休車の申請をした会社は40都道府県で合計1876社にのぼっていた。運輸局はほぼ申請通りに認める方針だ。
 都道府県別にみると、東京都では、全体の7割近い297社が計4136台の削減を申請。大阪府では約4割にあたる157社が計2057台、愛知県では120社が計867台、福岡県では102社が361台を減らすと申請している。タクシー業界では車両1台当たりの運転手が足りない状態で、車両の削減が雇用に与える影響は少ないとみられる。
 タクシーは、参入や増車の規制が緩和されたこともあり、バブル経済崩壊で需要が減った1990年代以降も増え続けた。大半のタクシー会社は、売り上げが減ってもそれに応じて運転手の給料を減らす「歩合制」を取っているため、会社の利益はそれほど減らず、車両の削減には消極的だった。
 そのため特措法では、タクシー事業者や自治体が参加する協議会を地域ごとに設けて削減を目指すことにした。国交省はこの協議会に対し、全国で最大4万5千台が余剰になっているとの試算結果を示していた。
 急な車両の削減は、価格やサービスの競争を損なう心配がある。ただ、業界には各社の計画通りに減車が実行されても、国交省が示した「適正台数」に達しないことを理由にさらなる規制強化を求める声が強い。また、車両数の規制だけでなく、運賃の規制を強化して割安な運賃を排除するべきだとの声も出ている。
 国交省旅客課は「まずは東京など、先行してある程度車両が減っていく地域について、運転手の給料やサービスがどうなるのか効果を見定めたい」としている。(大平要)


CO2削減へ、地下鉄で宅配便 札幌市などが社会実験

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担当者らが地下鉄で宅配物を運んだ=札幌市

 二酸化炭素(CO2)の排出抑制や渋滞緩和につなげようと、札幌市営地下鉄で宅配物を運ぶ社会実験が2日、始まった。全国初の試みといい、同市やヤマト運輸などの協力で実現した。

 この日、ヤマト運輸の担当者が、台車4台分の宅配物とともに市営地下鉄東西線大通駅に現れた。午前10時33分発の新さっぽろ行きの地下鉄に乗り込み、約20分後、新さっぽろ駅に到着し、それぞれの配送先へ向かった。

 実験は、コンサルタント会社「ドーコン」やヤマト運輸、有識者らでつくる「都市型新物流システム研究会」と札幌市が協力して始まった。研究会のメンバーで、東京海洋大の兵藤哲朗教授は「冬季の渋滞やCO2排出削減に効果がある」とメリットを説明する。

 この日は計3便が運ばれた。実際に台車を運んだ、ヤマト運輸札幌南支店の伊藤恵美副支店長は「安全に運べ、時間通りに届けることができた。運送時間も短縮できました」と話した。

 実験は今後2週間、地下鉄利用者が比較的少ない午前10時~午後2時に実施される。


交通事故死:57年ぶり5000人下回るベルト着用増え

201012 1830分 更新:13 027

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交通事故による死者数の推移

 警察庁は2日、09年の全国の交通事故死者数は9年連続で減少し、4914人(08年比241人減)となったと発表した。死者数が4000人台になったのは57年ぶり。事故の発生件数と負傷者数も5年連続で減少。警察庁は、シートベルトの着用者率の向上や悪質・危険性の高い違反に起因する事故の減少などが要因とみている。【千代崎聖史】

 警察庁によると、09年の事故発生件数は73万6160件(08年比2万9987件減)、負傷者数は90万8874人(同3万6630人減)。死者数は過去最悪だった70年(1万6765人)の3割以下となった。一日平均死者数は13.46人で1時間47分に1人が死亡した計算になる。最多は12月28日の29人、最少は1月18日の4人。

 飲酒運転による死亡事故(11月末時点)は264件(08年同期比13件減)で、1161件を記録した00年から9年連続で減少した。

 死者数は1953年に初めて5000人を突破。70年まで増加傾向で、第1次交通戦争と呼ばれた。その後、信号機や道路標識の整備などで減少に転じ、79年には8466人に。だが80年代前半から再び増加傾向となり、88年から8年連続で1万人を超え、第2次交通戦争とも呼ばれた。

 09年の都道府県別死者数は愛知が227人で最多、北海道218人、埼玉207人と続く。少なかったのは島根の33人、鳥取と佐賀の37人など。08年比で最も増加したのは長崎の27人、最も減少したのは愛知の49人。

 警察庁の安藤隆春長官は「約半数は65歳以上の高齢者。総合的な事故防止対策を一層進めていきたい」とのコメントを出した。

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事故調査:「国から独立した機関で」遺族ら設置訴え

2009115 1211分 更新:115 1214

 鉄道事故などの遺族の間で、国から独立した事故調査機関の設置を求める動きが広がり始めている。再発防止には、背景の構造的な問題まで解明する必要があるが、個人の刑事責任追及が目的の捜査機関や裁判による原因究明では限界があるためだ。前原誠司国土交通相は運輸安全委員会の調査対象にエレベーター事故などの追加を検討すると表明したが、遺族らは「調査は監督官庁も対象。省庁から独立した機関が不可欠だ」と訴えている。【佐々木洋】

 東京都足立区の東武伊勢崎線の手動式踏切で05年3月、4人が死傷した事故で母の高橋俊枝さん(当時75歳)を亡くした加山圭子さん(54)は先月21日、国交省の外局で鉄道事故などを扱う運輸安全委員会を訪れ、独立調査機関の設置を求める意見書を提出した。JR福知山線脱線事故の調査報告書漏えい問題で、中立・公正な調査機関の必要性を強く感じたためだ。

 05年の事故は、踏切保安係が安全確認を怠って遮断機を上げたことが原因。現場は「開かずの踏切」で、歩行者らを通すために安全装置を解除して遮断機を操作することが常態化し、以前にも遮断機の操作ミスが起きていた。加山さんは「起こるべくして起きた」と悔やしがる。

 裁判では、踏切保安係が業務上過失致死傷罪で有罪となった。だが、上司の駅長ら2人は「事故を予見できなかった」と不起訴処分。加山さんは「担当者の過失として片づけられた。再発防止を目的に原因究明を行う機関があれば、過密ダイヤや開かずの踏切の問題など、企業や行政の不備を指摘できたはず」と言う。

 06年6月、東京都港区で起きたエレベーター事故で犠牲になった市川大輔(ひろすけ)さん(当時16歳)の母正子さん(57)も同様に訴える。支援者らと16万人以上の署名を集めて国交省に提出し、シンポジウムを開くなどしてきた。

 正子さんは国交省や警視庁などを何度も訪ね歩いた。だが、警視庁では「捜査中」、国交省は「警察が調べているので詳細は分からない」。「当事者なのに蚊帳の外に置かれたようだった」と振り返る。国交省が調査に乗り出したのは事故2年半後の昨年12月。警視庁や東京地検から詳しい事故原因を知らされたのは、製造元の社員らが立件された今年3月以降だった。

 大輔さんの事故後も各地でエレベーター事故は続く。正子さんは「捜査機関と協力しながら原因を調べ、遺族にも素早く情報を提供する機関ができるまで活動を続けたい」と話している。

 ▽向殿政男・明治大教授(安全学)の話 欧米では再発防止が最優先との考えから、独立機関が各種事故を調査し、企業などに必要な措置を命じている。日本の場合は、関係者が不起訴になると捜査結果がほとんど公表されず、事故関係者の重要な証言などが再発防止に役立てられないことも大きな問題だ。


国道:照明のムダ1億7千万円 検査院指摘

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 全国23の国道事務所が管理する国道の照明を会計検査院が調べたところ、電力消費量が少ない省電力型ランプに交換したのに同じ契約内容で電気料金を払っていたり、交換時期が来ても従来通りのランプを使っている事例が多発していたことが分かった。

 検査院は国土交通省に、07~08年度で1億6977万円節約できたと指摘し、省電力型ランプの使用徹底などを求めた。国交省は検査を機に契約変更をほぼ終えたという。

 検査院の発表によると、省電力ランプは従来の水銀ランプに比べて寿命も長い。国交省は省電力型への移行を推奨している。

 各事務所は電力会社との間で、電力容量に応じた定額の契約を締結。しかし契約3万3248件のうち2594件で、点灯しなくなった水銀ランプを省電力型に交換したのに、契約を変更していなかった。2594件で07~08年度に1億2782万円支払っていたが、4247万円節約可能だった。

 また、今年3月現在で使用している水銀ランプ8643灯のうち、寿命を過ぎたものが多数を占め、746灯は交換の際に同じ水銀ランプを使っていた。検査院は、07年度当初に省電力型に交換していれば、07~08年度で1億2730万円節約できたと試算した。【苅田伸宏】


熱中症:日陰で車の窓全開でも注意駐車場の実験で判明

2009914 230分 更新:914 516

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窓開放時の車内温度

 日陰の駐車場で車の窓を全開にしていても、外気温が30度の状態ではわずか10分で車内が40度近くに上昇することが、財団法人気象業務支援センター(東京都千代田区)の実験で分かった。13日も関東、四国地方などで30度を上回った。暑い日はまだ続くだけに、車内に人を残さないことが賢明と言えそうだ。

 実験は8月末の日中、都内のコンクリート敷きの駐車場で、黒色のステーションワゴン(1500CC)を使って実施した。天気は晴れ、気温は31.5度、風速は2.1メートルだった。

 まず、日陰で前後部席の窓を全開にし、スーパーなどの駐車場と同じように両脇に別の乗用車を並べた。

 その結果、子どもが座ることの多い後部座席での室温は当初、33.5度だったが、10分後に体温を超す38.8度に上昇、その後も40度前後で推移した。次に、直射日光が当たる場所に移すと、41度だった車内は3分後に50度を超えた。車が並ぶ駐車場では、窓を開けていても風が遮られやすいのが高温を招く要因とみられる。

 車内に残された子どもが熱中症になる事故は依然多く、環境省の「熱中症環境保健マニュアル」によると、熱中症による死亡は最高気温が30度を超えるあたりから増える。

 センターの村山貢司専任主任技師は「日陰で窓全開でも、これほど急激に高温になるのは予想外だ。濃い色の車体は熱を吸収しやすいが、黒に限らず春や秋も直射日光が当たれば室内は体温を超す可能性がある」と話す。【石塚孝志】


トヨタ:酒息ふぅー、エンジン動かず 安全装置、運送会社で実用化実験

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トヨタ自動車が開発したアルコール濃度検査装置。通常は車内に設置して使う=名古屋市内で、宮島寛撮影

 トヨタ自動車は31日、ドライバーの息のアルコール濃度が一定以上だと車を動かせないようにする安全装置を開発したと発表した。1日から3カ月間、運送会社のトラックなどに取り付け、実用化に向けた検証をする。

 乗車時に電話の受話器のような検査装置に息を吹きかけて計測する。車載コンピューターと連動しており、濃度が事前に設定した値を超えるとエンジンがかからない。装置にはカメラも内蔵し、息を吹きかけた時の顔写真を記録するため、飲酒した運転手の代わりに他人が検査する不正が行われていないか、会社などがチェックできる。

 子会社、日野自動車のトラックなど30台にこの装置を取り付け、耐久性や使い勝手などを検証する。【宮島寛】

毎日新聞 200991日 中部朝刊


ハイブリッド車:静か過ぎて「接近分かる音量を」 視覚障害者らが体験会

 ハイブリッド車や電気自動車の音が一般車に比べて静か過ぎて、歩行者が接近に気付かないという指摘を実際に確認するための体験会が5日、東京都調布市の独立行政法人・交通安全環境研究所であり、視覚障害者約20人が参加した。主催した国土交通省「ハイブリッド車等の静音性に関する対策検討委員会」(委員長=鎌田実・東京大教授)の委員で、日本盲人会連合の笹川吉彦会長は「10キロ以下では走行音がほとんど聞こえない。車と分かる音が必要で、音量についても考えてもらいたい」と話した。【平井桂月】

 体験会ではハイブリッド車のトヨタ・プリウスやホンダ・インサイト、日産アルティマ、電気自動車の三菱i-MiEVについて、10キロ以下の低速時、約25キロの中速時、停止や発進時にエンジン車と比べて違いがあるかを比較。

 チャイムや疑似エンジン音で、視覚障害者や委員が気付くかどうかも試した。

 二酸化炭素排出が少なく環境に優しいハイブリッド車などの販売が増える一方、エンジン車に比べて音が小さく、視覚障害者を中心に「近くに来るまで接近に気付かなかった」との声があり、同委員会は年末をめどに対策を検討している。

毎日新聞 200986日 東京朝刊


ハイブリッド車:静か過ぎて接近に気付かず確認の体験会

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車両の接近に気づき挙手する「静音性に関する検討委員会」関係者。さまざまな音を発しながらの走行が試された=東京都調布市で2009年8月5日、尾籠章裕撮影

 ハイブリッド車や電気自動車の音が一般車に比べて静か過ぎて、歩行者が接近に気付かないという指摘を実際に確認するための体験会が5日、東京都調布市の独立行政法人・交通安全環境研究所であり、視覚障害者約20人が参加した。主催した国土交通省「ハイブリッド車等の静音性に関する対策検討委員会」(委員長=鎌田実・東京大教授)の委員で、日本盲人会連合の笹川吉彦会長は「10キロ以下では走行音がほとんど聞こえない。車と分かる音が必要で、音量についても考えてもらいたい」と話した。

 体験会ではハイブリッド車のトヨタ・プリウスやホンダ・インサイト、日産アルティマ、電気自動車の三菱i-MiEVについて、10キロ以下の低速時、約25キロの中速時、停止や発進時にエンジン車と比べて違いがあるかを比較。チャイムや疑似エンジン音で、視覚障害者や委員が気付くかどうかも試した。

 二酸化炭素排出が少なく環境に優しいハイブリッド車などの販売が増える一方、エンジン車に比べて音が小さく、視覚障害者を中心に「近くに来るまで接近に気付かなかった」との声があり、同委員会は年末をめどに対策を検討している。【平井桂月】

毎日新聞 200985日 2049分(最終更新 85日 2136分)


GPSと点字・音声PDAで視覚障害者を誘導

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写真1

GPS機能を持った専用の携帯端末(PDA)を利用して視覚に障害のある人が自由に目的地に行ける歩行ナビゲーションシステムが先月30日、東京都内で紹介された。韓国のHIMS社が開発した点字や音声による表示機能のあるPDAを用いたもので、日本では石川准・静岡県立大教授らが開発に関わっている=写真1。

報告にあたり、石川教授=写真2=はまずGPSの特性について「最大の強みはインフラを必要としないこと」と説明。電子タグや点字ブロックなど多くの歩行支援システムがあるが、それらはまずインフラの整備を必要としておりコスト的に難しい。しかし、GPSを利用したシステムは新たなインフラの敷設を必要としない。

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写真2

しかし、GPSの最大の弱みは測量による誤差。補正する仕組みはあるが、完璧なものではないため今後も改良を勧めていく予定だと話した。そのうえで、GPSに限らず単一のシステムによる歩行支援は難しいため、複数のシステムによって弱点を補い、長所を相乗的に引き出しあうことが重要だと強調した。

システムを利用するにあたってデータベースや位置計算などができる点字PDAを必要としたため、韓国HIMS社の協力を得たという。視覚に障害のある人へルートを案内する際、騒音の激しい場所によっては音声だけでは聞こえにくいという状況が考えられる。立ち止まり、点字で確認できるようにと配慮された。

同システムの主な機能は、自宅で出発地から目的地までルート検索する『仮想ナビ』、出発地を仮想で設定しルートを指示しながら散歩するかのような『仮想ルート』、実際にルート案内する『歩行ナビ』など。方位と距離だけを確認するだけという使い方もできる。

製品化は7月の予定で、「現在取扱説明書はできあがっているが、GPSの特性についてのガイドや地図データの最終調整段階となっている。利用には、点字PDAのほか別売りのBluetooth対応のGPS受信機と地図データのライセンスが必要。ライセンス料についてはまだ決まっていないが、「受信機と合わせて4万円ほどになるだろう」と石川教授は話した。

このほかセミナーでは歩行ナビを利用し石川教授が目的地まで歩く姿がビデオで紹介され、音声と点字情報のほかに交差点で直進・右左折を指示する時の合成音に違いを持たせ、合成音だけでも歩行できるように工夫したことなどが紹介された。

動画:自宅からGPSナビゲーションシステムを利用して目的地まで歩く

動画:『歩行ナビ』機能を説明する石川教授

参加した視覚障害者ユーザーらからは「案内音声が流れない時の対処が欲しい」、「盲導犬との併用は可能か」、「雨天時の点字PDAの防水対策は」などの要望や質問が多数が寄せられ、関心の高さが感じられた。【二瓶朋子】

200965


欄干のない橋:防げ駅ホーム事故/上 36年前の悲劇で普及、点字ブロック

 <点字の父ブライユ 生誕200年>
 ◇無事故へ、広がる祈り

 「孝司(たかし)が死んだ。遺体を確認に行くところだ」。東京都新宿区に住む上野正博さん(82)は、36年前の73年2月1日深夜の出来事を鮮明に覚えている。

 旧国鉄高田馬場駅前の商店街。正博さんは仕事からの帰宅途中、父と姉婿にばったり会い、全盲の弟孝司さんが同駅のホームから線路に転落し電車にひかれて死亡したと知らされた。3人で警察署に向かった。「あまりに急で……。本当なのか、ピンとこなかった」。正博さんは振り返る。

 孝司さんは戦時中、広島県呉市で勤労動員に駆り出され、港の潜水艦内で作業をしていた際に、事故で片目を失明。成人後、工事現場での労災事故で全盲になった。

 上京後、あん摩マッサージ指圧師免許の取得を目指して高田馬場駅近くの学校に入学。免許を取り、学校で出会った目の不自由な女性と婚約もしていた。当時42歳。第二の人生の一歩を踏み出そうとした矢先の転落事故死だった。

 高田馬場駅周辺には当時から視覚障害者施設が多く、道路には点字ブロックが敷設されていたが、ホームにはなかった。両親が原告となり、旧国鉄を相手取った損害賠償訴訟では、1審勝訴。控訴審で和解し、旧国鉄側に視覚障害のある乗客の安全対策に努力するよう求める和解条項が入った。この「上野訴訟」後、全国の駅ホームで点字ブロックの敷設が普及した。

 しかし、昨年2月にはJR山陽線前空駅(広島県廿日市市)でしんきゅう師の男性(47)がホームから転落死するなど視覚障害者の事故は今も絶えない。

 今年2月1日、正博さんの姿が高田馬場駅にあった。「上野訴訟」を支援した「全日本視覚障害者協議会」(東京都)が9年前から、孝司さんの命日を「鉄道死傷事故ゼロの日」と定め、ホームで献花して孝司さんの冥福を祈る。正博さんも約30人の参加者とともに、駅ホームの安全を目指す歩みを刻み続けることを誓った。

    × × ×

 視覚障害者にとって駅のホームは「欄干のない橋」に例えられるほどに危険な場所。安心して利用できる駅ホームのあり方を探る。【遠藤哲也】

毎日新聞 2009529日 大阪朝刊


欄干のない橋:防げ駅ホーム事故/中 救出事故死の山手線、柵設置へ

 <点字の父ブライユ 生誕200年>
 ◇「勇気、無駄にせぬ」

 「線路に散った勇気・善意」。翌日の新聞には大きな見出しが躍った。駅ホームから転落した男性を助けようと、韓国人留学生と日本人カメラマンが線路に飛び降り、電車にはねられ死亡した。01年1月、JR山手線の新大久保駅(東京都新宿区)での事故である。

 「自分にそんな行動ができるだろうか」。千葉県柏市の元しんきゅう師で全盲の青山茂さん(59)は、事故のニュースを聞き、自問自答した。留学生らの自己犠牲の行動に心を打たれたという。

 転落した男性は視覚障害者ではなく、酒に酔っていた。障害のない人にとっても駅ホームがどれほど危険か。青山さんは「留学生たちの死を無駄にしたくない」との思いで、友人の主婦らに呼びかけて05年9月、小さな市民団体を作った。「駅にホーム柵を! 日本会議」(事務局・柏市)。ホームからの転落を防ぐ可動式ホーム柵の普及を目指す。青山さん自身、JR上野駅のホームから転落し鎖骨骨折した経験がある。約50人のメンバーと共に、シンポジウムの開催や駅のバリアフリー化の調査など地道な活動を重ねる。

    ◇ ◇

 可動式ホーム柵は、国も着目している。国土交通省が新大久保駅の事故をきっかけに設置した「ホーム柵設置促進に関する検討会」の報告書(03年12月)ではホーム柵を「事故防止に有効」と位置づけた。バリアフリー新法に基づく省令では、一定の条件に合う新設駅でのホーム柵設置を義務付ける。

 だが、設置状況は、鉄道各社で大きな差がある。毎日新聞の調査では、地下鉄が横浜、福岡両市で全駅完備するなど全体で約30%に達するのに対し、大手民鉄とJRでは各1%に満たない。

 そうした中で、注目されているのが、東京の山手線だ。JR東日本は「特定の事故や団体要望がきっかけではない」としながらも、18年度をめどに、全29駅に可動式ホーム柵を約550億円かけて設置することを決めた。

    ◇ ◇

 青山さんは39歳で網膜色素変性症のため光を失った。失明後、障害者が社会に正当に位置付けられていないと疑問に感じ続けてきた。「まっとうな給料を得て税金の払える障害者が増えていく社会にしたい」。そのためには、どこにでも移動できる「歩行の自由」が最低限必要と考える。山手線のホーム柵導入は、全国に広がるきっかけになると期待を寄せる。【遠藤哲也】

毎日新聞 2009530日 大阪朝刊


欄干のない橋:防げ駅ホーム事故/下 「エスカレーター、使いたいのに

 <点字の父ブライユ 生誕200年>
 ◇誘導なく「ヒヤリ」

 「駅のエスカレーターから視覚障害者を遠ざけるのは、かえって危険だ」。全盲の元盲学校教諭、長谷川貞夫さん(74)=東京都練馬区=は先日、都心の駅を歩いていて改めて感じた。ホームの端から端まで200メートル以上を点字ブロックに沿って歩く間、誰かのかばんにぶつかり、後続の電車が脇をかすめた。午後3時半ごろのすいた時間帯。単独歩行に熟達した長谷川さんでさえ、ヒヤリとした。

 「視覚障害者は階段のある位置までホーム上を長く歩かざるを得ない。これが、多発する転落事故の一因だ」

 白杖(はくじょう)や足裏を使って、視覚障害者が進行方向や警告を感じ取る黄色の点字ブロック。階段とエスカレーターのある駅舎では、点字ブロックは原則として、階段につながっている。このため、便利な位置にあるエスカレーターを全盲の人が使えず、障害のない人がエスカレーターの利便性を享受する逆転現象が起きている。

 エスカレーターへ点字ブロックが誘導されていないのは、国のバリアフリー整備ガイドラインに示されていないため。国土交通省鉄道局技術企画課は「一律禁止ではないが、上り下りを間違えると危険」と説明する。

 近くに盲学校があるJR目白駅(豊島区)は例外の一つ。同駅を時々使う「東京視覚障害者協会」の山城完治さん(52)は「一人で外出する障害者の多くはエスカレーターが使えると助かる」と話す。

 長谷川さんは「手すりにちょっと触れて上り下りを確認し、白杖で1段先を探っていれば、視覚障害者もエスカレーターを乗り降りできる」。何より、障害のない人と同様に「階段やエスカレーター、エレベーターをどれでも自分の意思で使えるよう、選択肢を増やしてほしい」と願う。

   ◇   ◇

 ハード面と共に駅ホームの安全策で欠かせないのが、人によるソフト面の支援の充実だ。JR東日本などでは、身体障害者や高齢者をサポートする「サービス介助士」資格の取得を社員に広げている。

 全盲で四天王寺大大学院教授の愼英弘(シンヨンホン)さん(62)は、大阪と京都の駅ホームで3回転落した経験がある。「『危ないと思いながらも(障害者に)声を掛けずにいたら、やっぱり落ちた』と証言する事故目撃者は多い」と指摘し、「一般の人も(視覚障害者の)命を助けるという意識を持ってほしい。白杖を持っている人には気軽に声を掛けて」と訴えている。【鶴谷真、遠藤哲也】

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毎日新聞 2009531日 大阪朝刊


視覚障害者:駅での死傷事故35件、転落など15年間で

 視覚障害者が駅ホームから転落したり、電車に接触して死傷した事故が94年から現在までの15年間で、全国で少なくとも35件発生していたことが、「東京視覚障害者協会」(栗山健会長)の調査で分かった。うち死亡事故は18件。全盲の人が欄干のない橋に例える駅ホームの危険性が浮き彫りになった。

 死亡事故の内訳は、転落16件、電車接触2件。乗車しようとして車両連結部から転落▽進入の電車に近づき過ぎて側面部に衝突--などだ。

 鉄道各社は転落防止のため、可動式ホーム柵の設置などに取り組むが、費用面などから各社で整備状況に開きがある。

 調査担当の同会運営委員で弱視の山城完治さん(52)は「視覚障害者は、落ちる・ぶつかる・つまずく・迷うという苦労をしながら歩いている。命を守ることを第一にした駅にしてほしい」と話す。

 一方、国土交通省によると、健常者も含めた乗客のホーム転落・電車接触事故は、03年度106件、05年度150件、07年度196件と年々増加。多くが酔客とされる。

 四天王寺大大学院の英弘(シンヨンホン)教授(障害者福祉)は「事故防止には、駅員の手厚い配置と物理的な環境整備が必要。可動式ホーム柵はすべての乗客の安全にかかわっており、国や行政の財政的支援も重要だ」と指摘する。【遠藤哲也】

 りっしんべんに眞

毎日新聞 2009525日 230分(最終更新 525日 230分)


日本テレソフトの点字カラオケシステム--高田馬場の「カラオケ館」に登場

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写真1

点字ピンの凹凸で表示された歌詞を読みながら、目の不自由な人もカラオケが楽しめるカラオケ店が26日、点字図書館のある東京の高田馬場に誕生した。視覚障害者用のIT機器を開発する日本テレソフトが開発した点字カラオケシステムを用いたもので、曲の進行に合わせて点字の歌詞が表示される。オープンに先がけ25日に開催された内見会では、招待されたカラオケファンの視覚障害者らが歌詞の表示装置を頼りに自慢ののどを披露した。

写真1:点字での利用のほか、パソコンには拡大された歌詞が表示される

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写真2

26日のグランドオープンを前に点字カラオケシステムを体験した参加者は7人。3月からアプリの無料ダウンロードの始まった、歌いたい曲を携帯で検索し予約することができる『らくらくJOYSOUND』も体験した。初回利用時に必要なアプリのダウンロードにてまどる場面もあったが、一度アプリをダウンロードした後は独力で選曲して歌い始める参加者も=写真2。

「高田馬場にできたのがうれしい。渋谷にもあるが、一人で歩くのは本当に難しい。高田馬場であれば立ち寄りやすいし、今日の会場も普段歩き慣れている場所なので大体どこにあるか理解できる。『らくらくJOYSOUND』も初めて利用したが、これならば自分で好きな曲を予約できると思う。また機会があればぜひ来たい」という全盲の加藤さん。

同じく全盲の戸塚さんも「初めて利用した。ルビなどの変換ミスがあり完全ではないが、知っている曲であれば歌詞は自然と出てくると思う」と話した。

弱視者の立場から参加したI稲垣さんは「(自分は弱視なので)もっと大きな文字で見たいと思うが、文字サイズや色の変更もできるので視覚障害者だけではなく、視力の弱っている高齢者にも十分使えるシステムだと思った。歌詞を読み読み上げてもらえるということは場合によって楽しみではあるが、親しい友人らと気兼ねなくボックスで楽しむ時には良い」とおおむね好評だった

動画:点字を読みながらカラオケを楽しむ参加者

点字カラオケシステムを利用するには「ぜひご予約を。」と、株式会社B&Vカラオケ館直営チェーン本部営業推進部部長の伊神さん。システムはJOYSOUNDシステムが入っている部屋であればどれでも対応しているが、テストチャレンジとしてまずは1セットしか常備されない。利用が可能な場合でも、予約無しで来店された時は準備に多少時間がかかるということだ。しかし「今後需要があればセット数を増やす可能性もあり、ぜひ他店舗へも広げて行きたい。まずは、高田馬場に点字カラオケシステムがあるとぜひクチコミして欲しい」と話す。

システムを開発・販売をしている日本テレソフト福祉機器事業部部長の森脇さんも「まだ歌詞のルビは100パーセント対応していないので、今後も改良は進めていく。まずは視覚障害者自身により気軽にカラオケを楽しんでもらいたい」と話していた。【二瓶朋子】

店舗詳細:カラオケ館高田馬場2号店

住所:新宿区高田馬場2-14-9(JR、東京メトロ「高田馬場」駅下車)、電話:03-5155-2458、FAX:3-5155-2459

営業時間:11時~翌朝6時、無休

システムセット:パソコン、ピンディスプレイ、マイクスタンド各1、ピンディスプレイは希望により、もう1台は貸出可能。点字の入ったドリンク・フードメニューも用意する予定。
【関連リンク】

日本テレソフト
http://www.telesoft.co.jp/
カラオケ館
http://www.karaokekan.jp/

2009526


カーナビでエコドライブ

Pasted Graphic
私がつけたポータブル・カーナビ。ほかの車に乗せ替えたり、自転車や徒歩でも使える。

 私事だが方向感覚には自信があるし、地図も読める。だからカーナビなんて必要がないと思っていた。しかし、地方取材に出かけるたびにレンタカーのカーナビに助けられた。見知らぬ土地でも最短距離で移動できるし、だいたいの移動時間が読める。信号待ちで地図を見ていて発進が遅れ、後続車からクラクションで急かされることもない。

 「これはひょっとして、エコドライブと、安全運転に役立つかもしれない」。そう考えて、カーナビの購入に踏み切った。最近、ポータブル・カーナビの登場によって、価格が下がっているのも購入を後押しした。ポータブル・カーナビは、読んで字のごとく持ち運びができるカーナビだ。データ量は少なめだが、カーナビとしては必要十分な機能を持っている。安いものなら量販店で2万円台、かなり機能が充実したものでも4万円台で買える。

 購入後間もなく、南関東の自宅をスタートし、南東北と北関東を巡る機会が訪れた。初日、取扱説明書を良く読まない性格ゆえに、目的地の入力を間違えて遠回りをしてしまったが、以降は初めての土地でも、まるで地元の人のように移動することができた。到着地を設定すると、距離とだいたいの時間が表示されるのも助かる。「ここを何時に出ればいい」といった目処が立つから、時間が足りなくなって、あわててアクセルを踏むこともない。もちろん最短距離をトレースすれば、ガソリン消費も抑えられる。

 近所でも試してみた。すると意外な近道を発見することができた。ただし、「距離優先モード」に設定しておくと、細い路地や、渋滞の名所に導かれることがあるようだ。

 約3週間、さまざまなシチュエーションで使っての結論は、「カーナビは省エネ運転に効果がある。運転にも集中できて安全」だ。

 最近はエコドライブ機能を持つカーナビも出てきた。エコドライブ機能とは、急加速・急減速をすると警告を発したり、スピードやアイドリング時間などから、エコドライブ度を評価したりする機能だ。

 この機能に着目した神奈川県では、07年1月~3月まで、エコドライブ機能のあるカーナビを神奈川県、横浜市、川崎市の公用車、合計5台に設置し、実証実験を行った。すると06年の同期と比較して、燃費が平均で約12.%改善されたという。燃費改善により燃料代が約1万6000円節約でき、CO2排出量も約287kg(約82本のスギが3カ月で吸収できる量に相当)削減できたそうだ。

 今年は引き続き、一般モニターを募っての実証実験を行っている。実施期間は今年の12月までなので、まだ結果は出ていないが、タクシー会社などの事業者2社、県民8人の合計10人が参加しているので、結果が楽しみだ。

 環境のことを考えたら車に乗るのは控えるのが一番。しかし、車を使わざるを得ないときもある。そんなとき、カーナビはきっと、エコドライブをサポートしてくれるに違いない。(環境フォトライター 岩間敏彦)

2008825


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