Crisis of Poverty
'09 シリーズ危機/貧困

特集ワイド:09シリーズ危機 貧困/中 <対談>湯浅誠さん×菅直人さん
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菅直人 副総理兼国家戦略担当相=東京・霞が関で2009年11月30日、長谷川直亮撮影

 <この国はどこへ行こうとしているのか>
 ◇派遣村をつくらない

 今年の暮れ、日本は「年越し派遣村」に頼らずにすむのだろうか。政治は貧困とどう向き合うべきなのか。現政権で雇用問題を担当する副総理、菅直人さん(63)と、派遣村村長の経験を生かし、内閣府参与として年末対策に取り組む湯浅誠さん(40)が語り合った。【構成・遠藤拓、写真・長谷川直亮】

 ◇同一労働・同一賃金確立を 社会全体の設計図が必要--菅直人さん

 ◇生活の崩壊は社会的損失 保障と雇用創出を同時に--湯浅誠さん

 菅 湯浅さんと直接お会いしたきっかけは今年1月2日。派遣村に大勢集まって宿舎が厳しいという連絡を我が党の山井和則衆院議員から受け、現場に足を運びました。いろいろと教え合って連携し、私なりにできることをした。

 そうした経緯があって、政権交代後の第一の課題として緊急雇用対策に取り組むにあたり、湯浅さんにも手伝ってもらいたいということで、一緒にやっているわけです。

 10月の完全失業率は5・1%。過去最悪だった7月の5・7%からは改善しましたが、現実的な感覚でいくと状況はより厳しくなっている。新卒者の就職内定率が厳しいことも気になっています。この問題には我々も野党時代から取り組んでいますが、厳しい状況下で十分な効果が出ていないのが現状です。
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湯浅誠・内閣府参与=東京・霞が関で2009年11月30日、長谷川直亮撮影

 湯浅 先ごろ厚生労働省が発表した15・7%の相対的貧困率は、2007年の調査に基づいている。あれ以降何が起きたか。サブプライムローン問題やリーマン・ショックがあった。相対的貧困率はもう16%を超えているかもしれない。貧困の状況はいっそう悪い、それが前提となる認識でしょう。

 加えての問題は今年後半に失業保険が切れる人。失業者の背後には家族がいるので、無収入が長期化して生活が壊れていくと、その影響は一家全員に及ぶ。だから、(従業員の休業手当などを国が助成する)雇用調整助成金であるとかセーフティーネットの充実、雇用創出と、全体的にパッケージとして提供されるのが大事だと思っています。

 菅 雇用調整助成金は、失業の拡大を防ぐやり方です。それから、新しい雇用については、前の内閣で7000億円の人材育成基金を積んであるので、それによって積極的な雇用創出をしようとしている。

 新しいのは、「貧困・困窮者支援チーム」などいくつかのチームを、政府の緊急雇用対策本部に設けたことです。今までは政策を作り、後は役所がやりなさいと言っていたけど、それでは足りないので、湯浅さんに事務局長をしてもらっている。

 今年は昨冬の派遣村のような形を取らなくても済むようにと考えている。その準備できょう11月30日、「ワンストップ・サービス」を試験的に行いました。行政が一つの窓口で雇用・住宅など複数の支援の相談に乗る取り組みで全国77カ所、197自治体が参加してくれました。

 

 湯浅 貧困対策は古典的に「防貧」と「救貧」があり、ワンストップ・サービスは防貧の意味合いが強い。雇用保険と生活保護の間にある、いわば第2のセーフティーネットです。

 この中には、できてまだ2カ月の住宅手当の制度もありますが、まだよちよち歩き。でも、切れ目のないセーフティーネットを育てるための第一歩ということに意味があります。

 救貧については、生活保護が挙げられますが、いろいろな偏見もあり、使い勝手も悪く、機能していない。

 昨冬、私たちが派遣村の前に年越し電話相談会をした時に14時間で2万件の電話がかかってきた。今年はそれ以上の人が困っているのは間違いないので、防貧も救貧も、どちらも取り組んでいく必要があります。

 菅 今年は必ずしも日比谷公園に集まらなくても、困った人々をきちんと受け止められるようにしよう、派遣村と同じようなサービスを受けられるようにしよう。それが今、緊急雇用対策本部としての、私や湯浅さんたちの目標です。派遣村がなくてもよりよい対応ができるようにしたいのです。

 

 菅 昨年は野党として、政府に働きかけてやっていましたが、今度は自分たちが責任者。でも、何とかしなければ、という思いは変わりません。

 湯浅 同感です。人々の生活が成り立たなくなって壊れていくのは、私は社会的な損失だと思っています。今まではその支えをできる範囲でやっていたけれど、今は政府が国全体の規模で行おうとしているので、一緒にやっていくという立場です。

 菅 湯浅さんの任期は12月いっぱいで、後のことはまた相談しようという条件でしたね。

 湯浅 私の仕事は年末までの間に何ができるのかがメーン。その後は今は考えないことにしています。この問題は今までずっと、後回しにされてきた経緯がある。年末までが勝負だと自分に言い聞かせています。

 

 菅 労働者派遣法は、(製造業派遣の原則禁止などを盛り込んだ)改正をすることで与党3党が合意しています。次の国会で(成立させよう)と思っています。

 湯浅 従来の政府は「均衡待遇」を進め、格差のある労働条件を認め、セーフティーネットは整備しないままでした。決して均等待遇ではなかった。結果として貧困者が増えた。今回の改正は、その反省の上に立ってだと思います。

 (労働行政のあり方を審議する厚労相の諮問機関)労政審(労働政策審議会)の議論は取りまとめの段階に入っています。今回の3党案からかけ離れたものが出る心配もあります。そうなったら、厚生労働省として、あるいは政府として、どう判断するのかを考えてもらわないといけません。

 菅 派遣法を変えたら、みんなが正社員になれるのですか?とよく聞かれます。確かに、そうなれば望ましいのですが、実際は派遣でなく請負に戻すとか、期間工にするとか、いろんな話が出てくるでしょう。

 だからもう一段踏み込んだ政策なり対策が必要だと思っています。端的に言えば、やはり同一労働・同一賃金の原則を確立することです。

 なぜ日本で派遣や期間工が増え、正社員が減るのかといえば、会社にとって合理的だからです。でも同一労働・同一賃金で、派遣の方がコストが高いとなれば、あるところまで正社員を確保しようかということになる。

 これは一種の社会構造の変化です。同一労働・同一賃金は非常に怖いところもあって、給料は年齢に関係なくフラットになる。その時、子どもを高校や大学にやる費用はどうするんだという問題がある。社会がそこまで面倒を見るんだということになれば、フラットでもいい。単に法律を作ればいいのではなく、全体の設計図が必要です。

 湯浅 言うなれば、この日本社会は年収いくらで子育てできる国を目指すのかということですね。日本の1世帯の年収の中央値は448万円(厚生労働省の08年調査)です。月収40万円弱。これで子どもを大学まで行かせられるかといえば、現実には難しいわけです。子ども1人を育て上げるには3000万円かかります。

 収入をどこまで上げ、支出をどこまで下げられるのか。奨学金などを利用し、親の稼ぎだけではなしに、学歴を積むことも一例でしょう。それだけでなく、今、菅さんのいう同一賃金はもちろん、社会保険や税金、時には寄付付き税額控除などの対策を、トータルに組み合わせる必要があると思います。

 菅 雇用や貧困を巡る問題は政策課題ですが、それだけではすまないとも思います。

 湯浅さんに手伝ってもらっているのも一つの象徴ですが、労働界や経済界、自治体、NPOを含めて、社会全体が問題に取り組まない限り、壁を乗り越えていけないというのが実感です。だからと言って、政府が手を抜いていいということではありませんが、政府が頑張ってもなかなか手が届きにくいところがあったわけです。

 他の政策と比べても、この分野は政策であると同時に、ある意味で運動的な要素が必要だと今も感じています。

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 ■人物略歴
 ◇かん・なおと

 1946年、山口県生まれ。副総理。市民運動を経て80年衆院初当選、当選10回。社民連副代表、民主党代表などを歴任。新党さきがけ時代の96年、連立政権の厚相として薬害エイズ問題に取り組んだ。現在国家戦略、経済財政、科学技術の担当相を兼任。

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 ■人物略歴
 ◇ゆあさ・まこと

 1969年、東京都生まれ。内閣府参与。東京大卒。同大大学院在学中の01年、NPO「自立生活サポートセンター・もやい」を設立し事務局長に。03年退学。昨冬の「年越し派遣村」では村長として活動。近著に「岩盤を穿(うが)つ」「どんとこい、貧困!」。

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毎日新聞 2009121日 東京夕刊


特集ワイド:09シリーズ危機 貧困/上 ノンフィクション作家・佐野眞一さん

 <この国はどこへ行こうとしているのか>

 7人に1人が貧困にさらされている--。国が10月に初めて公表した相対的貧困率は、21世紀のこの国を覆う寒々しい現実を、改めて私たちに突きつけた。「努力しても報われない」と嘆く人もいれば、「あすは我が身」と不安がる人もいる。貧困ニッポンはどうなる?【遠藤拓】

 ◇縦並び、恥と思え


 その穏やかなまなざしは、こちらをじいっと観察しているかのようだった。

 目の前に座るのは佐野眞一さん(62)だ。千葉県流山市の一戸建て、自宅兼仕事場を訪ねていた。段ボール箱で雑然とした床に座椅子を置き、どっかと構える。たばこに火をつけ、両足を伸ばし、くつろいだ様子だが、まだ緊張は解いていないようだ。

 月刊誌に掲載した「ルポ下層社会」(文芸春秋06年4月号)を皮切りに、この国の貧困の実相に迫ろうとする佐野さん。記者はインタビュー前、せめて同じ空気を吸っておこうと、最初のルポ現場となった東京都足立区を歩き回った。その話をすると、「どこに行きました?」と逆質問だ。やはり取材はされるよりも、自分でする方が好きなのだろう。

 

 佐野さんが足立区に注目したのは、「04年度の就学援助率が42・5%」との新聞報道(06年1月)を見かけたからだ。就学援助とは、小中学生の就学に経済的な支障がある場合、保護者が市町村から受ける支援のことだ。

 佐野さんは数字の奥に隠れた、就学援助を受ける家庭の生の声にこだわった。その暮らしぶりは、例えばこうだ。中高生の2人の子を育てる40代女性は、一家の月収が20万円を切り、昼は家業の町工場、夜はコンビニでパートをしていた。別の30代女性は、夫の前年の年収が190万円、小学生の子ども2人の就学援助で「助かった」と述懐する--。厳しい現実ばかりだ。

 また、小中学生を対象とした東京都の学力テストで、足立区の平均点が23区中最低水準にとどまったことに触れ、親の経済状態が子どもの学力に及ぼす影響にも言及した。

 佐野さんは言う。「衝撃的だったのは、流動性のなさです。足立にいるとよそ着がいらない、だから足立のメーンタウンである北千住にも、銀座のデパートにも行かないという話を聞いた。貧しくても自足できるから、そこからはい上がろうとしない」

 かといって、当事者を責めているのではない。「『恒産なきものは恒心なし』ではないけれど、そこそこ寝に帰る家があって、あったかい布団があって、一応三食を食えるということでないと、外に打って出る気にはなれない。最低限の基本的人権を脅かされ、努力や意欲がそがれている」

 <比喩(ひゆ)的にいえば、日本はごく少数の勝ち組、すなわちひと握りの六本木ヒルズ族が、生活に困窮する足立区民の上に君臨する、弱肉強食型社会に大きく階層分化しようとしている>

 ルポでの指摘は、3年たった今、さらに現実味を帯びてきたように感じられる。

 

 昭和史を駆け抜けたさまざまな人物の光と影を追いかけて多くの作品を生み出した佐野さん。過去と現在を行き来しながら痛感するのは平成と昭和、二つの時代の違いだ。

 「昭和とは、みんなが中流だという意識を持てた時代のこと。その横並び社会が、今は縦並び社会に変ぼうした。昨秋のリーマン・ショック以降は、縦並びの天井がどんどん低くなる一方で、自分がよって立つ地べたも崩落した感が強いんじゃないか」

 では、もっと前にさかのぼるとどうか。佐野さんは「最暗黒の東京」(松原岩五郎著)や「日本の下層社会」(横山源之助著)といった明治時代の記録文学を基に言う。

 「日本に資本主義が根付いていった明治時代の貧困も、確かに生々しいものがある。でも、当時は貧しい人たちを取り囲む環境はまだ、優しかった。共同体が崩壊せず、お互いに支え合っていた。今とは全然違います」

 自身は足立区の隣、葛飾区の出身だ。生家は乾物店。「経済的に塗炭の苦しみを味わったことはなかった」が、貧困から立ち上がった人々の物語は、数多く見聞きした。

 「かつては生まれが貧乏でも、苦学力行した(松本)清張や(松下)幸之助、(美空)ひばりのように底光りする日本人たちがいた。社会に流動性があった。でも今は、中卒の若者にチャンスを与えられる社会じゃなくなった」

 そして、言い捨てるようにつぶやいた。

 「(ゴルフの)石川遼が何億稼いだとか、そんな話題がテレビで繰り返され、みんなが騒ぐ。おれが子どものころは、カネの稼ぎで人間を判断するようなことはなかった。日本はすごくグロテスクな社会になってしまった」

 ため息交じりに吐いたたばこの煙。目で追うと、天井がヤニで黄色くなっていた。

 

 貧困問題の責任、その所在はいったいどこに? 佐野さんに尋ねると、その穏やかな声色が一変した。

 「そりゃもちろん、行政や政治による放置ですよ。人間の利害得失を調整し、分配を正当なものにするのは政治家や官僚の責任。彼らは口が裂けても言わないけれども、弱肉強食社会だから仕方がないと思うんでしょう。でも、例えば足立では、消しゴムやノートを満足に買ってもらえない子どもだっている。そこに生まれたことに、自己責任なんか取れないよ」

 2時間の取材でただ一度、声を荒らげた佐野さん。気を取り直したように言う。

 「東京・山谷では炊き出しは日常茶飯事。自殺者は年間3万人以上で、東京マラソンの参加者とほぼ変わらない。日本丸はあてどもなく航海し、たそがれた極東の小国になりつつある。でも、少なくともおれたちの世代にとって、この国は格好だけでも米国に次ぐ経済大国になった歴史がある。沈没は面白くないと思っているはずだ。この国にいて恥ずかしい、そう思うことから始めるしか、どうにもならないんじゃないか」

 佐野さんを突き動かすのは、「平成の貧しさや暗さ、その正体を突き止めたい」との思いだ。「ペンが社会を動かすとは、気恥ずかしくてあまり言いたかないんだ。書くことは何かが動くきっかけにもなるし、ならないこともある。壁は厚い。でも、目の前の事実を見聞きし、正確に伝えたいから書くんだ」

 暗たんたる現実とどう向き合うか。それは、私たちに突きつけられた問いでもある。

 ◇相対的貧困率


 全国民の中に低所得者が占める割合。国民一人一人の使えるお金(可処分所得)を高額順に並べ、真ん中の人の所得(中央値)を算出。その半分に満たない人々の割合をいう。国際比較の指標に利用される。

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 ■人物略歴
 ◇さの・しんいち

 1947年、東京都生まれ。早稲田大卒。出版社、業界紙記者を経てフリー。97年「旅する巨人」で大宅壮一ノンフィクション賞。09年「甘粕正彦 乱心の曠野(こうや)」で講談社ノンフィクション賞。「小泉純一郎-血脈の王朝」「凡宰伝」など著書多数。近著に「鳩山一族 その金脈と血脈」。

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余録:貧困率
貧困率:母子家庭など一人親世帯で54.3% 厚労省調査
記者の目:貧困率を公表した鳩山政権=東海林智
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勝間和代のクロストーク:みんなの経済会議/25 貧困対策機能、どう埋め込む

毎日新聞 20091130日 東京夕刊


クローズアップ2009:年末年始の失業対策 派遣村、繰り返すな

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 ◇「ワンストップ・サービス」あす試行

 政府の緊急雇用対策本部に設置された「貧困・困窮者支援チーム」(事務局長・湯浅誠内閣府参与)は、年末年始の失業者対策として30日、全国のハローワーク77カ所を拠点に「ワンストップ・サービス」を試行し、相談を受け付ける。「派遣村を繰り返さない」が合言葉だ。失業率は過去最悪レベルで推移、10月の完全失業者数は344万人に上る。「反貧困ネットワーク」事務局長で、昨年の「年越し派遣村」で村長を務めた湯浅氏は「セーフティーネットが機能するよう、国と自治体の協力が重要だ」と訴える。失業者が安心して年を越せる対策は実現するのか。【東海林智】

 政府は10月、緊急支援措置と雇用創造を2本柱に緊急雇用対策本部を設置した。就職活動を支援するジョブサポーターを配置し、高校、大学など新規学卒者の就職支援を実施。厳しい経営が続く中小企業に対しては、生産減少で休業させる従業員に賃金補償する雇用調整助成金の支給要件緩和などで支援している。また働きながら介護の資格を取るプログラムや、農業や環境などグリーン産業で雇用創造を検討している。

 年末対策の目玉は、失業者が住宅確保やつなぎ資金の融資、生活保護など多様な支援策についてハローワークで相談できるワンストップ・サービスだ。

 導入のきっかけは、昨年の年末年始に東京・日比谷公園に開村した「年越し派遣村」だった。村には「派遣切り」された派遣労働者や期間労働者、失業が長期化する野宿者らが、6日間で500人以上集まった。職も住居も失った派遣労働者らに食事と寝場所を支援する中で、融資制度や雇用保険、住宅支援などの支援策が複雑で、対応する窓口もばらばらだったため、多くの人が利用できていないことが分かった。役所の窓口をたらい回しにされ、支援が使えないまま野宿に近い状態になっていた。

 村では、それぞれの事情に合わせて利用できるサービスにつなぐ総合相談が有効に機能し、約8割の村民が生活保護を受給する形で住居を確保した。

 その後、住宅を借りる費用の融資や生活費の融資、生活費給付付きの職業訓練の創設など、生活保護を利用する以前の「第2のセーフティーネット」が整備されたこともあり、こうした支援を有効活用できるよう、1カ所で相談を受け付けるワンストップ・サービスが開設されることになった。派遣村での経験を買われ、湯浅氏が計画・立案に加わった。

 ワンストップ・サービスでは(1)職業相談(2)職業訓練の受講、生活資金の給付(3)住宅入居初期費用の貸し付け(4)求職者が利用できる公営住宅の情報提供(5)住宅手当(6)生活保護(7)生活福祉資金の貸し付け(8)心の健康相談(9)多重債務--など多彩な相談ができる。通常ハローワークでできる相談以外に、自治体や社会福祉協議会、保健所、弁護士などが対応する項目もある。

 職探しのほか、住宅から生活、心の問題まで、失業者が抱える切実な問題への支援となる。

 ◇求職・融資・住宅、連携目指す


 30日は、東京都区部と多摩地区、全18の政令指定都市、愛知、岐阜、滋賀県の一部の自治体など197市区町村が参加して77カ所のハローワークで実施される。対象はハローワークに登録して求職中の人で、登録していない人は当日登録すれば相談できる。生活保護は原則的に窓口での相談のみで、相談内容は管轄の福祉事務所に連絡され、後日対応する。

 これまでは支援の実施主体がそれぞれ違うため、縦割り行政の中で総合的な対応ができなかった。今回は国と自治体などさまざまな機関が一緒に業務を行うため、スムーズな連携ができるかがポイントになる。

 湯浅氏は「生活困窮者の支援として行うが、あくまで普遍的な住民サービスの向上の一環だ。生活保護の手前で支えるシステムなのだから、総論賛成、各論反対の壁を乗り越え、各機関の協力の中で成功させたい」と話す。試行の結果を検討して実施場所や頻度を決め、12月中に全国規模でサービスを本格実施する予定だ。

 一方、昨年派遣村を支えた労働組合は、連合がワンストップ・サービスに対応した携帯サイトを開設して支援をサポート、全労連は30日と12月1日、「全国一斉労働相談ホットライン」(0120・378・060)を開催して後押しする。

 ◇雇用保険終了39万人、デフレ、円高
 「昨年よりも大変」

 「今年は昨年より大変なことになるのではないか」。昨年、派遣村の実行委員を務めた労組幹部は失業者の増加に危機感を強める。

 厚生労働省の推計によると、6~12月に失職し、雇用保険の支給も切れる人は約39万人に上るとみられる。過去のデータでは、支給が切れて1~2カ月以内に再就職できる人は約4割にとどまる。最大約23万人が仕事も給付もない状態になると推計する。

 総務省が発表した10月の完全失業率は5・1%。3カ月連続で改善されたが、リーマン・ブラザーズ破綻(はたん)直後の昨年10月の3・8%より1・3ポイント高い。有効求人倍率も昨年10月より0・36ポイント低い0・44倍だ。

 また政府は今月、3年5カ月ぶりにデフレを認定。27日には外国為替市場で円相場が一時、1ドル=84円台にまで高騰し、14年ぶりの円高水準となった。労働者を下支えする中小企業には二重ショックで、雇用情勢がさらに厳しくなることが懸念される。

 厚労省幹部は「昨年末は大量の派遣切りが大きく影響した。今年は違うと思うが、失業が長期化しているのも事実で、どういう状況になるか予測できない」と話す。厚労省の山井和則政務官は「支援制度の谷間に落ちないよう、ワンストップで対応し、貧困・困窮者対策の歴史的第一歩にしたい」と意気込む。

 東京都内で野宿者を支援するグループによると、各地で炊き出しに並ぶ列は昨年の倍になっている。23日に港区の芝公園で行われた炊き出しには、配食1時間前に250人が列を作った。昨年10月に営業の仕事を解雇になった男性(34)は、6月に雇用保険の給付が切れ、半月前からネットカフェを転々としているという。「正社員にこだわっていたら、あっという間に1年がたって、貯蓄も底をついた。相談ができないかと炊き出しにきた」と話し、ワンストップを紹介するビラを大事そうにしまった。

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時代を駆ける:湯浅誠/1 派遣村、あふれる人波「やるしかない」
シンポジウム:「他人事ではない」 反貧困ネット・湯浅氏呼びかけ--立命大 /滋賀
シンポジウム:貧困は他人事じゃない 湯浅氏招き、あす立命館大で--草津 /滋賀

毎日新聞 20091129日 東京朝刊




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