Senior Drivers
高齢ドライバーと地域交通


改正道交法:70歳以上の死亡事故割合、10年で倍増
2010415 1245分 更新:415 1341

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全死亡事故件数に占める70歳以上の割合の推移

 交通事故が減少傾向にあるなか、高齢ドライバーによる事故の抑止が課題になっている。警察庁によると、70歳以上の高齢ドライバーによる09年の 死亡事故は640件で、99年の584件と比べ増加率は1割程度だ。だが死亡事故全体に占める割合は、09年は14.56%で、99年の7.34%の2倍 近くに伸びている。08年の70歳以上の普通自動車免許保有者は592万人で、04年(442万人)の約1.3倍。ドライバーの高齢化も顕著だ。
 警察庁は98年、運転免許の自主的な返納を促す制度を導入。昨年は免許を更新する75歳以上を対象に、記憶力と判断力の検査を義務化した。事故防 止のため高齢ドライバーに自分の運転能力を直視してもらうのが目的だ。
 一方、昨年4月に成立した今回の道交法改正は高齢者の運転の継続の支援に力点を置く。車間距離の保持義務違反に対する罰則の強化も「後続車に接近 されることに恐怖を感じる」という高齢者の声などを踏まえた施策で、同10月に先行施行された。警察庁交通規制課は「車が多くの高齢者の日常生活に不可欠 な移動手段である以上、支援策の充実は必要だ」と話している。

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改正道交法:高齢ドライバー専用の駐車スペース設置へ
2010415 118分 更新:415 1728

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改正道交法の施行によって設置される高齢運転者等専用駐車区間

 70歳以上の高齢ドライバーら専用の駐車スペースを道路に設置することを盛り込んだ改正道路交通法が19日施行される。高齢ドライバーが駐車場所 を探し求めて目的地付近を周回した末、事故に遭うなどの危険を減らすのが狙い。「駐車スペースのシルバーシート」として、施行と同時に全国362カ所で 1148台分の専用駐車区間が設置される。
 高齢運転者等専用駐車区間は都道府県の公安委員会から「専用場所駐車標章」の交付を受けたドライバーが利用できる。70歳以上の高齢者のほか、条 件付きで免許を保有する身体障害者と聴覚障害者、妊婦らが対象で、最寄りの警察署で交付申請を受け付ける。
 設置場所は官公庁や病院、郵便局など高齢者の利用が多い施設の周辺道路で、都道府県警ごとに広報する。駐車スペースが慢性的に不足し、付近にも駐 車場所が見つけにくい施設に重点を置き、今後、ニーズに合わせて増やしていくという。
 専用駐車区間の目印は「標章車専用」の道路標識。この区間に駐車する際は標章をフロントガラスの内側に表示しなければならない。標章のないドライ バーが駐車した場合、他の場所より2000円高い反則金を徴収する。標章を他人に譲り渡した場合は5万円以下の罰金を科すなど不正防止規定も設けた。
 警察庁交通規制課は「現時点では設置場所が多くないので、まずは利用が予想される方に標章を申請してもらいたい」と話している。【鮎川耕史】

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高齢ドライバー:「記憶力・判断力が低い」は3%

2009924 114分 更新:924 129

 警察庁は24日、75歳以上の高齢ドライバーに運転免許更新時に義務付けた「認知機能検査」(講習予備検査)の施行3カ月の実施状況を公表した。免許取り消しの可能性がある「記憶力・判断力が低い」の判定は全体の3.3%で、警察庁は「ほぼ事前の試算通り」としている。

 認知機能検査は6月1日から開始。対象者は約304万人(08年12月末現在)で、3カ月で2万6307人が受検した。このうち「記憶力・判断力が低い」(第1分類)との判定は870人(3.3%)。「記憶力・判断力が少し低い」(第2分類)は7203人(27.4%)、「記憶力・判断力に心配がない」(第3分類)は1万8234人(69.3%)だった。

 警察庁によると、第1分類の判定でも免許更新はできるが、更新前後に信号無視など特定の交通違反がある場合、専門医による受診か主治医の診断書を提出する必要がある。認知症と診断されれば、免許取り消しの対象となる。

 また、受検者へのアンケート結果では、回答した2198人の83.2%が「ためになった」と好意的に受け止めていた。一方、難易度を問う設問に「普通」と答えた割合が62.6%と最多で、「難しかった」も25.5%あった。【千代崎聖史】


安心・安全ナビ:
死亡事故増加で、高齢ドライバーに義務づけられた「認知機能検査」

 ◆死亡事故増加で、高齢ドライバーに義務づけられた「認知機能検査」とは
 ◇判断力や記憶力、判定 「衰え」認定後、違反あれば専門医受診
 ◇免許取り消しは最終段階/返納なら「経歴証明」交付

 運転免許証を更新する75歳以上の人を対象に、従来の高齢者講習に加え、判断力や記憶力の衰えを判定する「認知機能検査」を受けることが6月1日施行の改正道交法で義務付けられた。警察は「検査結果を家族に伝え、運転すべきかどうかよく話し合ってほしい」と呼びかけている。

   *

 東京都町田市の自動車教習所「町田ドライヴィングスクール」では6月17日、東京都内で初めての検査が実施され、男女6人が参加した。「簡易検査ですので、成績が悪くても直ちに認知症というわけではありません」。検査員の男性が緊張をほぐすように語りかけ、検査が始まった。

 検査項目は(1)検査当日の年月日、曜日、時間を時計などを見ずに記入する(2)ラジオやオルガンなどのイラスト16個を記憶し、別の課題に取り組んだ後に回答する(3)指定された時刻の針を時計盤に描く--の三つだ。

 検査は約20分で終わった。結果は▽記憶力・判断力が低い▽記憶力・判断力が少し低い▽記憶力・判断力に心配ない--の3段階で判定。プライバシーに配慮し、本人だけに書面で通知される。

 検査は手数料650円で、免許の更新期間満了日の6カ月前から受けることができる。タクシーやハイヤーの運転手をしていたという町田市の無職、金子武さん(74)は「8割はできた。他のみなさんより若い分、高得点かな」とほっとした様子。運転歴45年という無職の男性(76)は「記憶力や判断力が落ちていることが分かった。検査は3年に1度なので、時間や料金も負担にならないと思う」と感想を語った。

 「記憶力・判断力が低い」と判定されても免許証は更新され、直ちに取り消されたり停止されることはない。しかし、更新の1年前から次回の更新申請日(3年後)までに信号無視や一時不停止、踏切不停止など15種類の違反歴があった人は専門医による「臨時適性検査」を受けなければならず、診断で認知症とされると免許は取り消される。

   *

 検査が導入された背景には、高齢ドライバーの増加と、死亡事故の多発がある。警察庁によると、08年の75歳以上の免許保有者は304万人で、10年前の2・7倍に急増。08年までの10年間で死亡事故は約4割減少しているにもかかわらず、75歳以上のドライバーの死亡事故は1・36倍に増加している。

 警察庁は試験的に実施した検査から、75歳以上のドライバーの約3%が「記憶力・判断力が低い」と判定され、そのうち2000~3000人が「臨時適性検査」の対象になると推計している。

 警察は、高齢ドライバーの自主的な免許返納を促しており、運転免許試験場や警察署で受け付けている。その際、希望者には、身分証明書としても使える「運転経歴証明書」を交付している。【町田徳丈、内橋寿明】

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 ■「臨時適性検査」の対象になる15種類の交通違反

信号無視
通行帯違反
踏切不停止
一時不停止
徐行場所違反
通行禁止違反
進路変更禁止違反
しゃ断踏切立ち入り
交差点優先車妨害
横断歩行者等妨害
通行区分違反(右側通行等)
転回・後退等禁止違反
指定通行区分違反
優先道路通行車妨害
交差点安全進行義務違反

毎日新聞 200971日 東京朝刊


クルマ高齢社会:
第6部・
命を守るために/上 認知症で免停、ごく一部

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高齢者講習で運転シミュレーターを使って運転動作をチェックする人たち。6月からは認知機能検査が加わる

 ◇検査「75歳~3年ごと」 病院は運転評価体制なく


 運転していたのは認知症の男性だった。

 1月下旬の雨まじりの夜。東京都調布市の中央道下り線で、トラック(1・5トン)が追い越し車線を逆走し、避けようとしたワゴン車が側壁に衝突、3人が軽傷を負った。トラックはさらに逆走を続け、3キロほど離れたところで、大型トラックと正面衝突した。トラックは前部が大破し、運転していた62歳の男性は間もなく息を引き取った。

 「昼食を作るため、台所にいると車の音がした。あわてて外に出たが、もういなかった。離れたのはほんの1、2分だったのに……」。千葉県成田市の自宅で、男性の妻(58)は涙をにじませた。

 物忘れが頻繁になってきた男性が認知症と診断されたのは3年前。家業はサツマイモ農家。農作業にトラックの運転は欠かせない。1人で車を運転させないことを家族で決め、いつも妻が助手席に座った。

 しかし、あの時、いつもは隠していたエンジンキーを車の運転席に置き忘れてしまった。「私が悪いんです……」。妻は今も自責の念にかられる。

 男性は3カ月ごとに通院していたが、妻は「医師から車の運転をやめるように言われたことはなかった」と漏らす。

 昨年9月には、男性は運転免許を更新していた。成田署交通課は「前の免許証の名前の漢字が戸籍と違うと言って、戸籍抄本を持ってきて訂正したぐらいの人なので、認知症とは気付かなかった。更新手続きで認知症かどうかを見分けるのは難しい」と説明する。

    *

 認知症の高齢ドライバーによる事故が相次いでいることを受け、警察庁は6月から高齢ドライバーが運転免許を更新する際、認知機能検査を義務付ける。「認知症」と診断されれば、運転免許の取り消し・停止となる。

 だが、コストの問題もあり、検査対象は75歳以上。検査を受ければ次の免許更新まで3年間はチェックを受けずに運転が可能だ。

 認知症に詳しい三村将・昭和大医学部准教授は「これまでは明確な免許取り消し基準がなく、認知機能検査は第1ステップ」と評価する。しかし、「実際に取り消されるのはかなり重症のドライバーだけ。検査にパスしたからといって必ずしも安全に運転できるわけではない。症状が軽くても危険な運転をするドライバーはいるし、症状が急速に進む人もいる。75歳未満の認知症ドライバーの免許更新はフリーパスに近い」と懸念する。

 では、現行の制度のほかに、運転の適性をどう見抜いたらいいのか。三村准教授は、昭和大病院付属東病院(東京都品川区)の脳障害患者向けの「高次機能外来」で、08年から試行的に「運転評価」を行っている。ペーパーテストや運転シミュレーター、脳活動の計測などで運転に必要な能力があるかどうかを検査している。

 これまで7人の高齢者を診断した。その一人、東京都大田区の弦巻辰雄さん(84)はごく軽度の認知障害がある。妻と2人暮らしの弦巻さんは「病気の妻を病院に送り迎えしなくてはならないので、車なしでは生活できない」と話すが、3カ月ごとに通院している。弦巻さんは「家族や医師には『運転が危ないようだったら、運転をやめるように言ってくれ』と伝えている」と話す。

 米国カリフォルニア州では、認知症の患者を診断した場合、医師に通報義務があり、運転評価を行った上で、運転の適否を判断する。運転評価で合格しても6~12カ月後に再検査が行われる。

 三村准教授は「軽い認知症でも最低6カ月ごとにチェックが必要。しかし、医療機関で運転適性を評価できるところはほとんどない。運転評価をきちんと行う仕組みが求められている」と指摘する。

    *

 65歳以上の高齢ドライバーは約1107万人(07年末)。10年後には約1750万人(警察庁推計)に達する見込みだ。増え続ける事故を前に、行政もようやく高齢ドライバー対策に力を入れ始めた。今、何が変わろうとしているのか、何が求められているのか。「クルマ高齢社会」第6部は命を守るための高齢ドライバー対策の最新事情と課題について3回にわたって報告する。【板垣博之】

 ◇免許更新時に記憶力・判断力測定


 認知症のドライバーは道路交通法改正で02年から免許取り消し・停止の対象となった。しかし、明確な基準がなかったため、同法を再び改正し、75歳以上の高齢ドライバーを対象に認知機能検査を導入することを決めた。

 検査は、70歳以上で運転免許更新の際に義務付けられている高齢者講習の前段に行われる。内容は(1)年月日、曜日、時間を記載する(2)イラストを見て、その記憶力をチェックする(3)時計の文字盤を描く--の3種類で、採点、結果の通知を含めて約30分かかる。

 この検査で「記憶力・判断力が低くなっている」と判定され、免許更新の前後に信号無視や一時不停止などの違反行為があると、専門医による「臨時適性検査」を受ける。専門医から「認知症」と診断されると、公安委員会が取り消し・停止の処分を決める。

 検査を受ける必要があるのは、免許の更新期間満了日が09年12月1日以降の人で、満了日の6カ月前から検査が可能。

 75歳以上の高齢ドライバーは07年末時点で約280万人。警察庁は高齢者講習の機会を利用した調査から、記憶力・判断力が低くなっていると判定される人は約3%で、そのうち過去1年間に違反歴のある約2000~3000人が臨時適性検査の対象になると推計している。

毎日新聞 2009317日 東京朝刊


クルマ高齢社会:
第6部・
命を守るために/中 免許返納へ、バス充実(1/2ページ)

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通院や買い物などの高齢者の生活を支える「上限200円バス」

 ◇格安運賃、市が後押し 交通空白地域を解消

 車の運転をやめたくてもやめられない高齢ドライバーは少なくない。バスや鉄道などの公共交通網が乏しい地方では、車がなければ、買い物や病院に行けず、生活に大きな支障が出るからだ。

 「返納すると、代わりの交通機関がない。不便である」。警察庁が05年に実施した「高齢者の交通事故防止に関するアンケート」で、運転免許を返納しない理由を尋ねた(複数回答可)ところ、こう回答した人がほぼ半数の46%に達した。

 そんな中、お年寄りが無理に車のハンドルを握らなくてもすむよう、路線バスの充実をまちづくりの中核に位置づけ、成果をあげつつある自治体がある。

    *

 「200円バスが走っていなかったら、運転はやめられなかったね」。京都府京丹後市の中心部から約10キロ離れた農村地帯に住む男性(83)は話した。

 男性は昨年7月、車を手放した。他県に住む娘から再三、運転をやめるように言われ、「事故で人の命を奪ってしまっては、償いきれない」と決意した。

 市内には、どこまで乗っても運賃の上限が200円という路線バスが走っている。病院に行くのも、買い物に行くのも、レジャーで出かけるのも往復で400円。「年金生活だから、運賃が安いのは助かる。バスに乗ると、これまでとは違った世界が見える。ゆっくり風景を楽しむことができる。迷いはあったが、今はやめてよかったと思っている」。男性は笑顔を見せた。

 京丹後市は04年、京都府北部の丹後地域の6町が合併して誕生した。約500平方キロの広大な面積に、人口は約6万2000人。65歳以上の割合を示す高齢化率(05年国勢調査)は28%で、全国平均(20%)を大きく上回る。

 市内を縦横に走る路線バスが最大の交通網だが、以前は「10便中7~8便が乗客ゼロで、空気を運んでいるという路線もあった」(京丹後市市民課)。乗客が少ないため運賃を上げると、乗客が減る。赤字に耐えかね路線を廃止すると、さらに乗客が減るという多くの自治体が陥る悪循環に直面していた。

 ここで市は発想を転換する。「700円で2人の利用より、200円で7人の利用を」。路線バスを運行する丹海バスに協力を求め、06年10月から市と同社が共同運行する「上限200円バス」が実現した。

 最長路線の料金は1150円から200円に。バス停や便数の増設、ノンステップバスの導入で誰もが使いやすいバスを目指した。

 利用者は急増した。2年目の利用者はこれまでの1・7倍の30万3000人。運賃収入は330万円増の約4900万円。市の補助金は約7800万円で、以前より約900万円減った。

    *

 市は昨年10月、バス路線がない同市網野町浅茂川地区の老人会を対象にアンケートを行った。運転免許を持っている41人に、免許返納の有無を尋ねたところ、「返納したい」と答えたのは12人。「返納しない」は約6割の24人だった。このうち、17人は自分の車だけが移動手段だった。バス事業を担当する同市市民課の野木秀康主任は「免許を返納したくても返納できない高齢者が多いのでは」と推測する。

 同時期に浅茂川地区などにバス路線を延長し、4000人分の交通空白地を解消した。老人会「浅茂川浦島会」の池部貞夫会長(74)は「車は長く運転したいが、いずれは運転ができなくなる時が来る」と、5年ぶりのバスの復活を喜ぶ。市は残る7000人の交通空白地の解消のほか、バス料金の割引制度などを検討している。

 中山泰市長は「高齢者や子供たちはバスがなければ生活できない。車の運転が難しくなった人にバスを利用してもらうことで高齢者の事故防止にもつなげたい」と話している。【板垣博之】

毎日新聞 2009年3月18日 東京朝刊


クルマ高齢社会:
第6部・
命を守るために/中 免許返納へ、バス充実(2/2ページ)

 ◇「返納」で特典制度も 都道府県で温度差

 警察庁によると、08年に運転免許を自主的に返納した人は前年の約1・5倍で、過去最高の2万9150人(前年比9693人増)に上った。そのうち、96%が65歳以上の高齢ドライバーだった。

 都道府県で返納に取り組む姿勢に温度差があり、返納者が100人未満のところが6県あった。一方、最も伸び率が高かった宮崎県は前年比11・3倍の1019人。そのうち、1001人が高齢者だ。今年も1月だけで100人に上っている。同県警が昨年4月から実施した「高齢者運転免許証返納メリット制度」が功を奏したとみられる。

 制度は、免許を返納した高齢者に同県警独自の「返納カード」を配布。カードを提示すると、さまざまな特典がある。県内の129団体・業者の協力を得て、▽バスの高齢者用定期券の半額(1回限り)▽信金や信組の定期預金金利0・1%上乗せ▽ホテル・旅館の宿泊費、温泉入浴料、飲食料金などの割引▽電動車いす購入の際に車体カバーのサービス--などを実施している。

 しかし、課題もある。返納者は都市部に集中する傾向があり、同県警交通企画課は「山間部や農村部では『公共交通機関がないので、無理してでも車に乗りたい』という声がある」と話している。

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 ■都道府県別の免許返納状況■
 (▼は減)
    08年返納件数   前年比
北海道     598    81
青森      314 ▼  13
岩手      159    96
宮城      566   262
秋田     1198   850
山形      506   456
福島      636   545
東京     5827  4533
茨城      582    28
栃木      311    33
群馬      271    13
埼玉     1509    13
千葉      931    22
神奈川    1193   175
新潟      447    28
山梨      228   196
長野     1143   445
静岡     1771 ▼ 344
富山      700    95
石川      139    78
福井      211   109
岐阜      182    67
愛知      292    46
三重      198    43
滋賀       85    13
京都      472 ▼ 247
大阪     1563 ▼ 648
兵庫     1279  1096
奈良      110    10
和歌山      30     8
鳥取      119    10
島根      139 ▼  35
岡山      453 ▼ 105
広島      521 ▼  43
山口      773   178
徳島      169 ▼  28
香川      204   157
愛媛      856   499
高知       84 ▼  35
福岡      233 ▼ 186
佐賀      145    84
長崎      204    34
熊本       91 ▼  11
大分       73    11
宮崎     1019   929
鹿児島     548   172
沖縄       68 ▼  27
 計    29150  9693

毎日新聞 2009年3月18日 東京朝刊


クルマ高齢社会:
第6部・
命を守るために/下 逆風、揺れる「もみじ」

 ◇罰則廃止、デザイン変更も/優先駐車場、好評

 高齢者が運転していることを周囲のドライバーに知らせて、注意を促す「高齢運転者標識(もみじマーク)」。08年6月に75歳以上に表示が義務付けられたが、再び罰則なしの努力義務に戻る。

 「高齢者いじめだ」「年齢差別だ」などと反発する声が上がり、警察庁が方針転換した。同庁は「枯れ葉や落ち葉みたい」との批判があるデザインの変更も検討している。

 もみじマークはどうなるのか。

     *

 福島県いわき市中心部から約30キロ離れた郊外にある「マルト中岡ショッピングセンター」。約300台の駐車場の4台分に「もみじマーク」が描かれている。高齢ドライバー専用の駐車場だ。

 「出入り口に近くて便利。毎日のように使っています」。車で約10分離れた自宅から来た小野瀬光子さん(76)はマイカーに買い物袋を積みながら話した。

 小野瀬さんがもみじマークを車につけたのは2年前。運転免許の更新の際、警察に勧められた。「まだつけなくても大丈夫」と運転に自信があった小野瀬さんだが、その効果を実感している。

 以前、法定速度で走っていると「なにノロノロ走っているんだ!」とか、右折しようとした際、「どこを曲がるんだ!」などの怒声を浴びせられた。だが、今はない。

 同店が高齢者専用駐車場を設けたのは06年。平日の午前中や、土日はほとんど「満車状態」という。

 福島県警では、もみじマークを普及するため05、06年に、全国に先駆けて高齢者優先駐車場の普及に取り組んだ。公共機関やスーパーなどに計647カ所が設置された。

     *

 警察庁がもみじマークの方針転換の理由として挙げるのは表示率の上昇。昨年8、9月の調査では75歳以上の表示率が75%。義務化前の昨年2月の42%から大幅にアップした。

 だが、罰則がなくなることで表示率がダウンする懸念もある。

 東京都中野区に住む三橋道行さん(70)は、昨年末にもみじマークの対象年齢になったが、表示するつもりはない。三橋さんは「メリットを感じる人はつければいいが、私はメリットを感じない。マークをつけて走れば、いやがらせを受けると思う」と強調する。

 兵庫県宝塚市の江口忠治さん(77)は、マークをつけて走ると嫌な思いをすることがあるという。「猛スピードで抜かれて、前に割り込まれたり、パッシングであおられたりする。若い運転手の教育をしてほしい」と話す。

 高齢ドライバー問題に詳しい溝端光雄・東京都老人総合研究所研究副部長は「もみじマークは差別という声もあるが、周囲のドライバーがマークをつけた車に幅寄せや割り込みをすれば、反則金が科せられる。高齢者と他のドライバーの扱いは公平だ」と指摘。「マークをつけることで高齢者自身も慎重に運転し、周囲も温かく見守れば事故は減る。高齢者が受け入れやすいように呼び方をベテランマークなどに変えるべきだ」と提案している。【板垣博之】

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 ◇高齢運転者標識(もみじマーク)

 道路交通法が改正され、97年に導入された。当初は75歳以上に表示の努力義務があったが、02年に70歳以上に拡大。08年6月、75歳以上に表示が義務付けられた。違反すると反則金4000円が科せられるが、警察庁は1年間は周知期間として指導にとどめていた。現在、罰則を廃止する道交法改正案が国会に提出されている。

毎日新聞 2009年3月19日 東京朝刊


クルマ高齢社会:
70歳以上の運転免許保持者653万人。警察庁が進める支援策とは。

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現在の運転経歴証明書は有効期限がないため身分証明の機能が限定される=09年2月20日、長野宏美撮影

 ◆70歳以上の運転免許保持者653万人。警察庁が進める支援策とは。
 ◇専門講習の負担軽減 能力に応じて実車テスト短縮
 ◇免許返納後の身分証明機能も充実

 警察庁は昨年9月、有識者委員会を設け、高齢ドライバーの支援策を協議してきた。同12月には委員会の報告書を基に重点施策をまとめ、実現に向けた検討を進めている。

 重点施策では、75歳以上に表示を義務付けた「もみじマーク」の罰則廃止や、デザイン変更も含めた検討などが盛り込まれた。さらに「高齢ドライバーの保護」として▽官公庁や福祉施設周辺の道路に高齢者専用の駐車区間を設置▽高齢ドライバーらに対する「あおり行為」の罰則強化▽高齢ドライバーの特性や保護の必要性--を一般ドライバーに教習する。「高齢ドライバーへのきめ細かな対応」としては▽身体機能の低下を個別に評価し高齢者講習を一部簡素化▽教習所などでアドバイスを受ける機会--を提供。「その他」にも、運転経歴証明書の身分証明としての機能充実などを挙げた。

 高齢者講習は70歳以上の運転者が免許を更新する際に義務付けられているが、能力に応じて実車運転を短縮する方針。委員会では「加齢が及ぼす影響は個々人で差がある。チェックの結果に基づき、負担を軽減することが適当」と指摘されていた。

 現在は▽教本やビデオなどによる座学講義▽運転操作や動体視力などの適性検査▽実車による診断--で一律計3時間の講習を行い、更新手数料のほか受講料6150円がかかる。これをシミュレーターなどを使った適性検査の結果に基づいて3分類し、個別の状況に応じて実車テストの時間を短くする方針だ。

 また、運転免許証を返納した人に交付する運転経歴証明書の見直しも検討。08年に運転免許証を自主返納した人は過去最高の2万9150人で、07年(1万9457人)の1・5倍に上った。だが「返納すると身分証明がなくなる」という声も根強い。現在の証明書は有効期限がないため、銀行口座開設などの際は交付から半年間しか本人確認書類として使えず、身分証明書としての用途が限定される。

 そこで、11年1月をめどに▽10年程度の有効期間の設定▽住所変更や再交付ができるようにする▽交付を受けられる期間を取り消し後1カ月以内から5年程度に延長--などを検討している。

 警察庁によると、98年の70歳以上の運転免許保有者数は約313万人で全体の4・3%だったが、08年は約653万人で10年間で8・1%に増えた。原付きバイク以上を運転する75歳以上が第1当事者となった死亡事故は、98年は299件で全体の3・7%だったが、08年は406件で8・7%と占める割合は2倍以上に増加している。

 今後も高齢ドライバーの増加が予想されることから、高齢者を排除するのではなく、安全に運転できる環境作りが求められている。高齢者も自動車教習所や講習会などで自身の運転をチェックすることがお勧めだ。【長野宏美】

毎日新聞 2009年3月4日 東京朝刊

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