Global Recession
世界不況と生活危機

失業者:
世界で2億人突破 09年ILO推計

2010年1月27日 10時18分

 国際労働機関(ILO)は27日、09年の世界の失業者数が推計で前年比2660万人増の2億1150万人、失業率は0.8ポイント上昇の6.6%と、いずれも比較可能な統計がある1991年以降最悪を更新したとの報告書を発表した。失業者数の2億人突破は初めて。08年に深刻化した金融危機の影響が世界的に拡大、雇用減少につながったのが最大の要因。

 報告書は10年も世界の雇用状況は厳しく、失業率は6.5%、失業者数は2億1340万人前後の高水準が続くと予測。ソマビア事務局長は「雇用なき景気回復を避けることが優先事項だ。銀行を救済した際に適用したのと同等の政策的決意で雇用を維持、創出して家計を助ける必要がある」と訴えた。

 09年の失業率は特に若年層が深刻で、前年比1.3ポイント上昇の13.4%に跳ね上がった。全年代の男女別では、男性の失業率が0.7ポイント上昇の6.3%だったのに対し、女性は0.9ポイント上昇の7.0%に達した。報告書は「女性や若年層が労働市場で不利な立場に置かれている」と指摘した。

 地域、経済発展段階別では、欧州連合(EU)の全加盟国を含む先進国で8.4%と2.4ポイントの急上昇。ロシア、旧ソ連の非EU地域が2ポイント上昇の10.3%、中南米が1.2ポイント上昇の8.2%と軒並み大幅悪化した。

 発展途上国では北アフリカや中東が9%を超える高率が続いた半面、東アジアや東南アジア地域は4~5%台で、上昇したものの比較的安定した動きにとどまった。(ダボス共同)

【関連記事】
消えゆく秘境:パプア高地先住民/中 入植者増加で生活急変


所得格差:
健康に関係 地域の信頼感も薄れ

2010年1月6日 2時30分 更新:1月6日 2時30分

 所得格差が大きい地域ほど、地域の絆(きずな)を示す他人への信頼感が低下し、自分の健康状態が悪いと思う人の割合も高くなる--愛知県知多半島の高齢者を対象にした日本福祉大などの大規模調査で、こんな傾向が明らかになった。経済的な格差と住民の結びつきの深さや健康が相互に関係していることを示す結果で、注目されそうだ。

 調査は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(東京都港区)の市田行信研究員(地域計画)らが日本福祉大健康社会研究センター(名古屋市)などと協力。知多半島の10自治体に住む65歳以上の高齢者約3万4000人を対象に郵送で実施、半数の約1万7000人から回答を得た。1950年時点の自治体で分けた計25地区ごとに、所得格差を示す「ジニ係数」と、地域の絆を示す「他人への信頼感」の程度や、自分の健康状態をどう思うか(主観的健康感)などとの関係を分析した。

 その結果、25地区のジニ係数は0.26~0.41と開きがあった。ジニ係数が0.01高くなり格差が大きくなるごとに、健康状態を「悪い」とする回答が平均0.6%ずつ増える一方「人は信用できる」と他人への信頼感を肯定的に示す回答は平均で1.4%ずつ低下した。

 また、他人への信頼感を示す回答が1%上がれば、自分の健康状態を「悪い」とする回答は平均で0.9%ずつ下がることも分かった。健康状態が良いと思う人が多ければ、実際に長生きする人も多いなど、主体的健康感は死亡率に関係することが知られている。

 市田さんは今回の調査結果から「所得格差が拡大すると、地域の絆の低下を通じて住民の健康に悪影響を及ぼす可能性が示された」と分析する。【江口一】
 ◇ことば ジニ係数

 所得を基に不平等度がどれだけあるかを計算した数字。0~1で表し、0は平等で格差がない状態、1はただ一人に所得が集中している状態を意味する。

【関連記事】
<今週の本棚:山内昌之評>『格差社会の衝撃…』=リチャード・G・ウィルキンソン著
<関連記事>就学援助:支給に格差 主要73市区、所得基準最大1.5倍
<発信箱>所得制限なしは当然=与良正男


外国人研修生:
死亡例急増 過労死の可能性で調査要求

2009年6月23日 10時32分 更新:6月23日 10時55分

Pasted Graphic
外国人研修生・実習生 死亡者数の推移(JITCO調べ)

 外国人研修制度で働いている研修生や実習生が死亡するケースが急増し、08年度は過去最高の34人(07年度比13人増)に上ったことが、財団法人・国際研修協力機構(JITCO)の調査で分かった。特に長時間労働が原因とされる脳・心疾患は16人で07年度の6人と比べ2.5倍以上になった。外国人研修生問題弁護士連絡会は22日、「過労死の疑いもある」として厚生労働省に長時間労働の実態や労災の受給状況などの調査を求めた。

 外国人研修制度を推進するJITCOが受け入れ企業からの報告をまとめた。死亡者数は04年度に初めて20人を超えていた。08年度の死亡者34人のうち、急性心筋梗塞(こうそく)やくも膜下出血など脳・心疾患が16人を占めた。作業中の労災が5人、自殺が1人。92年からの調査で死者は総計213人、このうち脳・心疾患は67人に上る。

 外国人研修生問題弁護士連絡会に寄せられる相談では、月100~200時間の残業をしているケースが多いという。月100時間の残業は、過労死の危険性が指摘されるラインで、指宿昭一弁護士は「経済の悪化を背景に研修・実習生に過重労働のしわ寄せがきている。脳・心疾患の多くが、過労死の疑いがあるのに労災申請もできずにいるケースではないか」と分析する。

 弁護士らと厚労省を訪れた中国の実習生、丁建輝さん(35)は溶接の研修で訪日したが、都内のスクラップ工場で働き、月に100時間以上の残業をしている。丁さんは「背中や心臓に痛みを感じ命の危機を感じる時もある」と話した。厚労省は連絡会に「パンフレットなどで労災防止キャンぺーンをしている」と答えるにとどまったという。

 JITCOは「死亡者急増は極めて残念な事態で、結果を踏まえセミナーなど労災防止対策を強化したい」と話している。【東海林智】


帰国支援:
日系人失業者の再入国禁止、政府「原則3年」

2009年5月12日 1時3分

 河村建夫官房長官は11日の衆院予算委員会で、日系人失業者の帰国費用支援事業で帰国した日系人の再入国を「当分の間」認めないとしていた運用を改め、再入国が可能となるのを「原則として3年をメドにする」考えを示した。中川正春氏(民主)への答弁。

 同事業はブラジルやペルーなど南米諸国の国籍の日系人失業者で、日本での再就職をあきらめ母国に帰国する本人に30万円、扶養家族1人あたり20万円を支給するもの。「当分」の期間が明示されず、対象となる日系人から「もう来ないで、ということか」と戸惑う声が出ていた。

 中川氏が「海外メディアで日本の人権感覚を疑う厳しい批判がある」と指摘すると、河村長官は「すぐに戻られても対応できないため、今後の経済情勢を見るということで『当分の間』の条件が付いた。麻生太郎首相からも強い指示があり、原則として3年をメドにする」と答弁した。舛添要一厚生労働相は「2年後に非常に景気が良くなったとなれば、(期間短縮を)検討したい」と述べた。【田中成之】


フランス:
経営者の軟禁相次ぐ…暴力なく、警察も静観

2009年4月24日 12時10分 更新:4月24日 12時13分

Pasted Graphic
幹部が軟禁された3月13日、仏南西部のソニー・フランスの工場前で「労働者を尊重しろ」との横断幕を掲げる従業員ら=ロイター

 【パリ福原直樹】経済危機から、工場閉鎖や従業員の解雇を決めたフランスの企業で、労働者が会社幹部を軟禁するケースが続いている。英米メディアは「他国では許されない違法行為」と驚くが、地元自治体が交渉に介入し、警察も静観するなど、仏ならではのスタイルもかいま見える。先月、ソニー・フランス社で幹部を軟禁した労働組合の幹部が、その実態を語った。

 軟禁は3月以降、同社など外国企業を中心に約10件発生。軟禁中の暴力はほとんどなく、幹部も1日前後で解放される。

 ソニー・フランスの場合、仏南西部の工場(従業員約300人)の閉鎖をめぐり、3月、労働者側が同社社長を軟禁した。労働者代表、アシャゲール氏(47)らによると、労働者側は、社長と解雇条件の交渉を開始。だが社長が新条件を出さないため外にいた労働者数十人が入室、社長の軟禁を宣言した。

 従業員は工場入り口を板材で閉鎖。だが室内では淡々と社長に苦情を訴えた。社長は最後は黙り込み、従業員が差し出したサンドイッチも食べなかった。この間、社長は携帯で外部と通話できた。

 社長も独自に警察に連絡し「通常の労使交渉で、介入は不要」と主張したという。

 社長と従業員約80人が工場で夜を明かし、地元自治体が仲介。13日朝、自治体で双方が交渉し、退職者の職業訓練への補助金増額などを妥結した。

 アシャゲール氏は「軟禁は罪だ」としながら「同じ状況なら、また軟禁を行う」と話す。

 最近の仏の世論調査では軟禁を約45%が容認している。


経済財政諮問会議:
「格差の固定化・再生産」を報告

2009年4月22日 21時58分 更新:4月22日 23時0分

Pasted Graphic
経済財政諮問会議であいさつする麻生太郎首相(右から2人目)と与謝野馨財務・金融・経済財政担当相(右端)ら出席者=首相官邸で2009年4月22日午後6時34分、藤井太郎撮影

 政府は22日、経済財政諮問会議(議長・麻生太郎首相)を開き、リストラや非正規社員の増加などによる格差問題を議論した。民間議員から、所得の低い非正規労働者が増えていることや、親の所得が子どもの進学に強く影響することなどで「格差の固定化・再生産」につながっているとのリポートが提出された。今後、これを踏まえてセーフティーネットなど社会の「安心」を確保するための格差対策を、経済成長戦略とともに検討していく方針で一致した。

 これまでの諮問会議は、経済成長につながる規制緩和や競争政策を議論し、小泉改革などのけん引役となってきたが、今後は格差の拡大という競争政策の副作用にも取り組むことになる。【上田宏明】


ホームレス支援:
「路上脱出ガイド」を市民団体が作成

2009年4月20日 21時37分 更新:4月20日 21時55分

Pasted Graphic
ビッグイシュー基金のスタッフ(右)から「路上脱出ガイド」を受け取り、説明を受けるホームレスの男性=東京都千代田区で2009年4月20日、三浦博之撮影

 ホームレスらの支援活動に取り組む市民団体などが、路上生活から自立するための情報をまとめた冊子「路上脱出ガイド(東京23区編)」(A5判、40ページ)を作成し、20日に東京都千代田区の日比谷公園で配布を始めた。配布や相談活動の市民ボランティアも募集している。

 冊子はNPOの「ビッグイシュー基金」(佐野章二理事長)、「自立生活サポートセンター・もやい」(稲葉剛代表)などが5000部作った。内容は「食べ物がないとき」など状況別で、23区内の炊き出しや生活保護の申請方法などが紹介されている。問い合わせはビッグイシュー基金(電話03・6380・5088、火曜、水曜のみ)か、もやい(電話03・3266・5744、火曜、金曜のみ)。【小林多美子】


労働者派遣法:
抜本改正求め集会 東京で労組など

 「年越し派遣村」に参加した労組や弁護士などで作る「労働者派遣法の抜本改正を求める共同行動」が13日、東京都内で「今やらずにいつやる!派遣法抜本改正集会」を開いた。登録型派遣の原則禁止などを盛り込んだ抜本改正を今国会で実現させよう、との訴えが相次いだ。

 集会には約260人が参加。契約途中で雇い止めにされた自動車工場の元派遣労働者の男性は「派遣労働者が電話一本でクビになる場面を何度も見てきた。人間扱いされないことが、ただただ悔しい。こんな法律はおかしい」と訴えた。また、「春の派遣村」として年度末に職を失った労働者を支援する相談会を開き、村長を務めた湯浅誠さんは「企業に社会的規制をして、人間が人間らしく生きられるようにしないといけない」と話した。

 派遣法を巡っては、日雇い派遣の原則禁止などを盛り込んだ改正案が国会に提出されているが、年末、年度末の派遣切りの横行で製造業務への派遣禁止を求める声が与野党から出ている。【東海林智】

毎日新聞 2009年4月13日 21時21分


直接雇用:
1日だけ 日野自の子会社 労働局の指摘空振り

2009年4月11日 2時30分 更新:4月11日 2時30分

Pasted Graphic
ソーシンが2月17日に派遣社員に渡した書類には、就業期間が「2月18日まで」と書かれていた

 日野自動車の子会社「ソーシン」(埼玉県入間市)が、埼玉労働局の指摘を受けて派遣社員数人に直接雇用を申し込んだ際、就業期間を1日としていたことが分かった。期間更新もない形式的な申し込みで、派遣社員たちは応じないまま失職した。労働者派遣法には就業期間に関する規定がないため、労働局の指摘が安定雇用につながらない結果となった。派遣社員側からは「雇用を守るために抜本的な法改正が必要」との声があがっている。【木戸哲】

 ソーシンによると、同社は不況が本格化した昨秋から今年1月までに、約320人いた派遣社員のうち約270人を削減した。残った約50人についても2月18日で契約を解除することを決定、1月中旬に、派遣会社が本人に通告した。

 その後、一部の派遣社員が加入した労働組合「下町ユニオン」が「ソーシンは『偽装請負』の形で3年以上前から派遣を受け入れており、直接雇用を申し込む義務がある」と埼玉労働局に申告。これを踏まえ、労働局はソーシンに「可能な限り早く直接雇用に切り替え、1日でも長く雇用すべきだ」と指摘した。

 同社は2月18日の直前になって、雇用継続を望んでいた5~6人の派遣社員と順次面談し、同日までパートで採用する意向を伝えた。面談日によって就業期間に違いがあり、同17日に面談した派遣社員は、申し込みに応じたとしても1日しか働くことができなかった。

 2月17日に面談した30代の元派遣社員の男性は「仕事の話があると言われて喜んで出社したのに、期間が1日だけと聞き、バカにされたと思った。正社員と同じように働いていたのだから、使い捨てにしないでほしい」と憤っている。

 一方、ソーシンは「2月18日以降は仕事がなく、もともと会社に残ってもらうことは不可能だった。派遣をパートに切り替える手続きに時間がかかり、たまたま就業期間が短くなったが、労働局の指摘に従い、やれるだけのことはやった」と説明している。

 ◇派遣社員の直接雇用

 労働者派遣法は、製造業の派遣社員の受け入れ期間を最長3年に制限しており、3年を超える場合は、派遣社員に直接雇用を申し込む義務がある。労働局はこの義務に違反した企業に指導、助言を行ったうえで直接雇用を申し込むよう勧告することができる。勧告に従わない場合は企業名が公表されることがある。


審判請求:
日系ブラジル人「不当解雇」訴え 岐阜地裁に

 不当な手続きで行われた解雇は無効だとして、岐阜県内在住の日系ブラジル人6人が5日、岐阜市の派遣会社を相手取り、派遣労働者としての地位確認などを求める労働審判を岐阜地裁に申し立てたと発表した。

 申立書などによると、6人は30~50歳代の男女で、岐阜市内の派遣会社と雇用契約を結び、同県瑞穂市内の自動車部品工場などで働いていた。しかし、昨年12月、「仕事が減った」と口頭で解雇を通告され、うち5人は通告から1カ月以内に解雇された。【鈴木敬子】

毎日新聞 2009年4月6日 0時37分


派遣村:
8、9日に面談と電話相談

Pasted Graphic
派遣など非正規労働者を支援する「春の面談・電話相談村」の実施計画を説明する派遣村実行委員会の湯浅誠氏(左)=厚生労働省で2009年4月2日午後4時、東海林智撮影

 年末年始に東京・日比谷公園で失職した非正規労働者の支援を行った「派遣村実行委員会」(湯浅誠村長)が8、9の両日、東京都新宿区の日本青年館で「春の面談・電話相談村」を開く。事務職で働く派遣社員の雇い止めも進んでいることから、女性専用の相談ブースも設置、雇い止めや解雇への対応マニュアルを約1万部作成して会場などで配布する。

 年末年始の派遣村では、仕事と住居を失った労働者に食事と寝場所を提供した。今回は雇用や生活、医療など全般にわたり、面談と電話で相談を受け付け、行政機関の支援を受けられるよう、ハローワークや福祉事務所に同行する。

 湯浅村長は「年度末の大量失職に備え、住居と仕事を失った人への居所が必要だと行政に訴えてきたが、例えば、都は40人分しか用意していない。居所がないという理由で役所に追い返されることがないよう支援したい」と話している。

 面談は両日とも午前9時から午後2時、電話相談はフリーダイヤル(0120・833・890)で午前10時から午後8時まで。パンフレットも含め、問い合わせは実行委員会(080・4123・7027)へ。【東海林智】

毎日新聞 2009年4月2日 22時57分


雇い止め:
「無効」求めいすゞを提訴 元期間社員ら12人

 反復契約を繰り返した末の雇い止めは無効だとして、全日本金属情報機器労働組合いすゞ自動車支部(松本浩利委員長)の元期間社員7人が2日、いすゞ自動車(東京都品川区)を相手取り、雇い止めの無効と地位確認などを求める訴訟を東京地裁に起こした。元派遣社員5人も、いすゞの不当な契約解除が原因で派遣元から解雇されたとして、同社に慰謝料を求めて提訴した。

 訴えたのは、昨年12月末に雇い止めされた松本委員長ら。訴状によると、地位確認を求めた7人は、最も長い人で8年間にわたり、いすゞで期間社員や派遣社員など雇用形態を変えて働いていた。

 原告側は「職場の中心として働いており、雇用更新の期待権がある。雇用責任はいすゞにあり、違法、不当な雇い止めだ」と主張。

労組の三浦慶範副委員長は「私たちをモノ扱いせず、会社に貢献したことをきちんと認めてほしい。簡単に仕事を奪われる非正規全体の問題だと考えて提訴した」と話した。

 いすゞ自動車広報グループは「訴状を見ていないのでコメントできない」としている。【東海林智】

毎日新聞 2009年4月2日 20時59分


年越し派遣村実行委:
企業や同友会に雇用維持を要請

2009年3月28日 2時30分 更新:3月28日 2時30分

Pasted Graphic
キヤノンの株主総会に参加する株主にビラを配る派遣村実行委員会のメンバーら=2009年3月27日午前9時、東京都大田区のキヤノン本社前で、東海林智撮影

 年度末に向け、非正規社員らが大量に失職することが予測される中、年越し派遣村実行委員会は27日、株主総会が開かれたキヤノン(東京都大田区)や経済同友会(千代田区)などを訪れ、雇用維持を求める要請書を手渡した。

 解雇や雇い止め、住居からの追い出しにあった際の対応をまとめたマニュアルも作成、派遣業者の団体などに手渡し、労働者に配るように依頼した。

 マニュアルの問い合わせは実行委(080・4123・7027)。【東海林智】


不当解雇:
取材で証言理由に 派遣添乗員、撤回訴える

Pasted Graphic 1
「不当解雇だ」と記者会見する週刊金曜日の佐高信社長(左)と塩田卓嗣・全国一般東京東部労組HTS支部委員長=2009年3月26日、厚生労働省で、東海林智写す

 「週刊金曜日」の記事で、労働実態を証言したことを理由に事実上解雇されたとして、阪急交通社の子会社で旅行添乗員を派遣する「阪急トラベルサポート」(大阪市)の派遣労働者や同誌の佐高信社長らが26日、東京都内で記者会見し「不当な解雇であり言論の自由への挑戦だ」と訴えた。法的措置を含め解雇の撤回を求める。

 この派遣労働者は同社に登録し、派遣の添乗員として働いている塩田卓嗣さん。週刊金曜日2月20日号で過酷な労働環境や全国一般東京東部労組HTS支部を結成し、支部長となった経緯などが取り上げられた。

 会社側は日当額や雇用保険加入の有無などの記述が虚偽とし、塩田さんに「社の名誉を傷つけ、正常な業務を妨害するもの」と添乗員乗務の割り当てをしないと通告した。その後、解雇ではなく業務の裁量と労組に説明したという。

 塩田さんは「より良い労働環境を作るため取材に応じたが、一方的で明らかな不当労働行為だ」と訴えた。佐高社長は「記事に間違いはなく虚偽と決めつけるのは本誌に対する名誉棄損でもあり、ジャーナリズムが成り立たない。徹底的に闘う」と批判した。阪急トラベルサポートは「会見内容を把握しておらず、コメントできない」としている。【東海林智】

毎日新聞 2009年3月26日 23時38分(最終更新 3月27日 1時04分)


年越し派遣村:
湯浅村長「貧困対策要望」首相有識者会合

Pasted Graphic 1
経済危機克服のための「有識者会合」に臨む湯浅誠氏=首相官邸で2009年3月21日午前8時58分、小出洋平撮影

 麻生太郎首相が追加経済対策の策定のため有識者から意見を聞く「経済危機克服のための有識者会合」は21日も首相官邸で開かれた。08年末から今年初めにかけ、東京・日比谷公園に開設された「年越し派遣村」の村長を務めた反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠さんは「貧困対策を雇用対策のパッケージに含めるべきだ」と提言。仕事や住居を失った非正規社員のため、民間会社の寮やアパート、公営住宅を国が直接借り上げ、住民票を確保できる環境を最優先に整えるべきだと主張した。

 有識者83人から意見を聞く同会合は、5日目の21日が最終日で夕方まで続く。【坂口裕彦】

毎日新聞 2009年3月21日 13時35分


厚労省:
「育休切り」ダメ、労働局長に通達 相談急増で

2009年3月16日 19時39分 更新:3月16日 20時54分

 厚生労働省は16日、育児休業を申請したり休業明けに解雇や降格などの不利益に取り扱いを受けたとする相談が増加しているとの初の調査結果を公表した。昨年10~12月と今年1、2月を比べると約1.5倍のペースで増えている。厚労省は16日、妊娠、出産、育児休業などを理由とする解雇などの不利益取り扱いに厳正に対処するよう求める通達を全国の労働局長に出した。

 厚労省のまとめでは、育児休業に関する不利益取り扱いの相談は08年度は2月までで1107件で、07年度全体の882件と比べ大幅に増加。妊娠、出産などを理由とした不利益取り扱いも1806件で07年度の1711件より増えている。特に育児休業は昨年後半から相談が急増。昨年10~12月の相談は303件だったが、1、2月には292件の相談が寄せられ、約1.5倍のペースで増えた。

 サービス業の女性労働者のケースでは、育児休業明けに職場復帰しようとすると会社に「業績悪化で仕事がなくなった。復職するなら早朝か夜間のシフトしかない」と言われたという。相談を受けた労働局雇用均等室が会社に指導し、昼間のシフトに替えられた。この他、解雇や正社員からパートに契約変更を強要する例もあった。厚労省職業家庭両立課は「不況の中、さらなる状況の悪化も予想される。厳正に対処し未然に防止したい」と話した。【東海林智】


偽装請負:
直接雇用求め福岡労働局に申告書 運転手4人

 国土交通省発注の公用車運転業務を巡る偽装請負問題で、大手車両管理請負会社「日本総合サービス」(東京都品川区)に勤務する福岡と大分の運転手計4人が16日午前、偽装請負の解消と直接雇用を求めて是正勧告申告書を福岡労働局に提出した。職員が運転手に直接指示する就労形態が労働者派遣法などに違反すると訴えている。

 申告した運転手は、遠賀川(おんががわ)河川事務所管内の3出張所(福岡県)の3人と、山国川(やまくにがわ)河川事務所(大分県)の1人。申告書によると、両事務所は同社と業務委託契約を結んでおり、同社は発注元の事務所から独立して業務を請け負っている。このため、国交省職員は契約で決めた同社の車両管理責任者や運行管理責任者を通じてしか運転手に仕事の指示を出せない。職員が運転手に直接指示する場合、事務所が同社と労働者の提供を受ける派遣契約を結ぶ必要がある。

 ところが、職員は口頭で送迎先や勤務時間などを運転手に指示してきた。昨年11月以降は、同社が配車表を事前に作成し、責任者を通じて各運転手に仕事内容を伝えていたが、責任者本人が運転手を兼務していることもあり、業務内容の変更は、運転手に直接出されるケースも目立ったという。

 この問題では、広島県内の運転手7人の申告を受けた広島労働局が2月、労働者派遣法違反を認定して広島国道事務所に是正指導している。

 偽装請負の背景には、運転手の雇用は原則的に廃止するという83年の閣議決定がある。今月12日の参院予算委員会では、民主党の大久保勉委員が、業務委託する公用車1台当たりの支出額より運転手1人当たりの人件費が安いことを指摘し、運転手を直接雇用するよう問題提起している。【田中謙吉】

毎日新聞 2009年3月16日 14時31分


育児中の母親:
再就職希望者の5割は「経済的理由」

2009年3月9日 21時18分 更新:3月9日 23時51分

Pasted Graphic
働こうと思ったきっかけ

 育児中で再就職を希望する母親の5割が「経済的理由」を挙げていることが、母親の再就職支援サイトを運営する「ママジョブ」(東京都)が先月末に行った調査で分かった。昨年夏の調査では経済的理由は4割弱で、約10ポイント増えている。

 調査は、同社の「お仕事復帰イベント」の一環として、昨年7月20日(参加者256人)と2月26日(同472人)に実施された。「働こうと思ったきっかけ」を自由記述で聞き、それぞれ7割が回答した。

 昨年7月の調査では「経済的理由」が39%、「社会とのつながりを持ちたい」が38%で拮抗(きっこう)していた。ところが、2月の調査では「経済的理由」が50%で突出。同時に行われた再就職相談でも「何でもいいから今すぐ働ける仕事を紹介してほしい」など差し迫った訴えが目立ったという。同社では「想像以上に経済的理由が増えた。子どもを保育園に預けたうえで、貯金もするため月額15万円程度で働きたい人が多い」と話している。【遠藤和行】


育休切り:
不況理由に「戻っても仕事ない」 相談件数3倍

Pasted Graphic
育休に関する相談件数の推移※東京労働局調べ。左棒グラフは相談件数。右棒グラフは、そのうち不利益取り扱いに関する相談件数

 不況にあえぐ企業が人件費削減のため、育児休業中の正社員を解雇する「育休切り」が広がりつつある。育児・介護休業法に抵触する疑いが強いが、被害者の多くは再就職の妨げになることを恐れて泣き寝入りするケースが多い。法令が守られているはずの働いて産み育てる権利が脅かされている。【中西拓司】

 「経営悪化でほかの社員に苦労させている。残念だがあなたが戻っても仕事はない」

 建設会社勤務で、育児休業中だった関西地方の30代女性は、08年末、社長に呼び出され、こう告げられた。女性は勤続10年の中堅社員。昨年2月に出産し、先月に復職予定だった。

 会社は世界同時不況で経営が悪化。数字を示して退社を促す社長の姿に反論の意欲をなくした。「あなたの机を使いたい。すぐに中身を整理してくれ」。黙ってうなずくしかなかった。

 育児・介護休業法は子どもが原則1歳になるまで休業できると定め、育休取得を理由にした解雇などを「不利益取り扱い」として禁じている。厚生労働省によると、このケースは、解雇対象を女性のみに限定しているため同法違反が濃厚だ。それでも女性は「再就職の際に今の会社から報復される」と恐れ、不当な扱いに耐えて再就職先を探している。

 「社員が産前休業を取りたいと言い出した。この際、解雇できないか」。東京都の社会保険労務士は2月上旬、顧問先の会社社長からこんな相談を受けた。産前休業を理由にした解雇は男女雇用機会均等法違反だ。社労士は「経営者がここまで人切りに走るとは思わなかった」と驚きを隠さない。

 9月以降、連合の労働相談には▽「会社が復職を受け付けず、逆に退職を勧められた」(外資系企業勤務の30代女性)▽「復職しようとしたら、パート勤務を命じられた」(教育関連企業勤務の30代女性)--など育休に関する悩みが多数寄せられている。

 東京労働局によると1月の育休相談は前年同期の2倍弱の73件。このうち解雇など「不利益取り扱い」の相談は30件に及び前年の3倍に膨れあがっている。

 【ことば】▽育休切り▽ 育児休業中の正社員を解雇したり、非正規社員化すること。不況に伴う企業の人員削減に伴って最近、労働関係者の間で使われ始めた。育休を理由にした解雇は育児・介護休業法違反となるため、経営悪化などを理由に退職を迫るケースが多い。解雇された側が労働局に訴え出ても、育休と解雇の因果関係の立証が難しいため、解雇撤回にこぎつけられた事例は少ない。

毎日新聞 2009年3月6日 2時30分(最終更新 3月6日 3時25分)


正社員採用:
予定なし46%に急増 就職氷河期再突入か
 帝国データバンクが4日発表した企業意識調査によると、09年度に正社員(新卒・中途)の採用を予定していない企業は45.9%と、昨年調査の30.4%から急増した。景気後退の深刻化で企業の採用意欲が急激に低下しているためで、採用見送りは中小企業で53.5%と過半数に達し、大企業でも23.8%だった。07年度まで売り手市場だった就職市場は、バブル崩壊後の「就職氷河期」の再来が懸念される事態になっている。
 派遣、パート、アルバイトなど非正規社員の雇用も「予定はない」が58.6%となり、昨年(39.0%)に比べ急増。仕事量の急減で、非正規社員に任せていた業務を正社員にシフトする対応が目立つといい、非正規社員の雇用環境も一段と厳しさを増していることをうかがわせる。
 調査は2月下旬、全国の2万451社を対象に実施。有効回答企業数は1万658社(うち大企業2734社、中小企業7924社)だった。【尾村洋介】
毎日新聞 2009年3月4日 21時36分

保育所:
入所希望が殺到 不況で「働く母」急増--東京23区
 東京都内で4月からの認可保育所への入所申し込みが殺到している。不況で家計が圧迫され、働きに出ざるを得ない母親が急増したのが原因とみられる。女性の就業率上昇により保育所のニーズは年々高まっているが、不況が保育所不足に拍車をかけた格好だ。
 東京23区を対象に入所希望者の数を調べたところ、08年の前年比7%増から一気に約30%増となった杉並区を筆頭に、板橋区約21%増▽世田谷区約18%増▽練馬区約17%増--などが近年にない伸びを示し、中央区、千代田区を除いた各区で軒並み増加している。
 希望者急増について、杉並区保育課は「これだけ増えるのは想定外だ。景気悪化の影響が顕著に表れたのではないか」と話している。
 東京都は保育所に入れない待機児童数(08年度)が全国で最も多い。このため、各区とも定員増を進めているが需要増に追いついていない。都内で最も待機児童の多い世田谷区では4月の募集枠1800人弱に対し、3376人が応募しており、待機児童はさらに増えそうだ。保育所希望者は仙台市や大阪市でも前年を上回っており、もともと待機児童の多い都市部で広がっていることがうかがえる。【山崎友記子】
 ◇「保育園を考える親の会」の普光院(ふこういん)亜紀代表
 このままでは認可保育所に入れない子どもが大幅に増える。危機的状況だ。保育所以外の空き施設を臨時に活用するなどの緊急対策が必要だ。
 ◇保育所希望者が急増した区◇
     希望者数 前年比
杉並区  1797 30%増
板橋区  2395 21%増
世田谷区 3376 18%増
練馬区  2939 17%増
江東区  2900 16%増
 *1月末までの1次募集締め切り時点で集計
毎日新聞 2009年2月20日 東京夕刊

年越し派遣村:
希望者は都内4施設に移動 生活保護申請も
 東京・日比谷公園の「年越し派遣村」は5日撤収され、約500人の失業者のうち希望した286人が都内4カ所に用意された新たな宿泊施設に移った。移動先では求人情報が紹介され、一部の人は生活保護が認められた。生活再建に向けた動きが本格的に始まった。
Pasted Graphic

生活危機:
本州を転々、派遣切り あてなきUターン
 「会社の都合でやめてほしい」。静岡県内の自動車部品工場で働いていた日高管内の男性(20)は10月上旬、派遣会社を通じて突然、解雇を言い渡された。契約期間は来年3月末まで残っていたが、派遣会社の担当者は「申し訳ない。勘弁してくれ」と頭を下げるばかりだった。
Pasted Graphic

生活危機:
08世界不況 「派遣切り」浜松に200人結集 ニッポンよ「仕事を」
 自動車産業や電機産業を中心に派遣・請負労働者といった非正規社員の人員削減が続くなか、日系ブラジル人をはじめとする外国人約3万人が住む浜松市で21日、雇用継続を訴える今不況下で初のデモがあった。非正規社員のうち、言葉が不自由なため真っ先に影響を受ける外国人労働者。突然、理由も不明確なまま訪れる「派遣切り」の実態を訴えた。【平林由梨】
 ◇日系人ら「何でもいい」
 デモに参加した日系ブラジル人のセイチ・トメさん(43)は5年前に単身で来日。愛知県豊橋市や長野県佐久市などで働き同県飯田市にあるレタスやピーマンの栽培農家へ移った。だが、約3カ月前に解雇され、就職先を求めて、外国人が多く住む浜松市にやってきた。
 「浜松ならすぐに仕事が見つかるだろう」。そんな思いはすぐに打ち砕かれた。自動車や関連産業も不況の波が襲っていた。10月からはとうとう、JR浜松駅前の地下道で寝泊まりする日々だ。
 洋服を何枚も着込み、日系ブラジル人の僧侶にもらったという寝袋をかかえたまま、デモに参加した。1日の食事はパンとコーヒーだけ。「ブラジルの人材派遣会社にあと70万円を送金しなくてはならない。それまでは帰れない。何でもいい、仕事がほしい」とつぶやいた。
 12月に入り、勤務先の静岡県湖西市の自動車部品工場で同僚40人が解雇されたというブラジル人のフェレイラ・ジルさん(32)は「自分はまだ仕事があるが、いつ解雇されるか分からない。そのときに備えて労働組合に入った」と話す。
 13歳の息子がいるブラジル人のメロウ・ブラジミルさん(36)は1カ月前、同県磐田市の自動車部品工場で、夫婦そろって雇用を打ち切られた。「帰国するのは簡単。でも今(日本の)ブラジル人社会に自分が何か役立てないか。もう少し日本で頑張ろうと思っている」と話していた。
 この日、浜松市中区の公民館でデモに先立つ集会が開かれ静岡、愛知、岐阜県などから外国人を含む約200人が参加。「企業は雇用を守って」「政府は雇用の創出を」などを盛り込んだアピールを採択、今回の不況で職を失った外国人労働者が状況を説明した。その後、JR浜松駅周辺を約1時間にわたりデモ行進した。
 ◇「呼び掛けに応じて来日したのに…」--広島では相談会
 広島市安芸区で21日「派遣切り」などで職を失った日系南米人の相談会が開かれた。「日本が人手不足だった時、呼び掛けに応じて来日したのに。日本政府も会社も無責任だ」と憤る声も聞かれた。
 組合員約150人のうち約100人が外国人労働者という同市の労組「スクラムユニオン・ひろしま」が、ポルトガル語ができる組合員を配置して公民館で開いた。相談に訪れたのは15人で、大半が自動車メーカー、マツダ(本社・広島県府中町)など自動車産業の下請けや関連会社で派遣社員として働いていた。15人は大半がブラジル人でペルー人もおり20~50代。片言の日本語で「仕事がなくなったら、どう暮らせばいいのか分からない」などと訴えた。
 同県には約5200人の日系ブラジル人や日系ペルー人らがいる。「派遣切り」対策で行政は12月から、離職者向けに住宅あっせんなどの支援を始めたが、応募のビラが読めないなど言葉の壁があり外国人労働者まで届いていないという。【上村里花】
毎日新聞 2008年12月22日 東京朝刊

生活危機:
08世界不況 内定取り消し「何でおれが」 北翔大4年、ぼうぜんの日々
 ◇IT関連「資金回らず」 卒論で不安紛らわす
 「何でおれが」。12月4日、江別市の北翔大4年の男子学生(21)は、東京のIT関連会社から就職内定の取り消し通知を受け取った。「銀行の貸し渋りにより……」。理由がつづられた文面を目で追っても、さっぱり頭に入ってこない。浮かんでくるのは長かった就職活動だけだった。
 IT業界を目指し、本格的に就活を始めたのは2月から。友人たちが内定を得る中、慣れないスーツに身を包む日が続いた。「おれのどこが悪いんだ」。最終面接で落とされるたびに胸の中で毒づいた。ようやくIT関連会社から内定を受けたのは9月中旬。「評価してくれた」と感謝さえした。10月1日には内定式にも出席。後は卒論を仕上げるだけだった。
 IT関連会社は、上場企業の役員経験もある社長が設立。好況を追い風に札幌市内に事業所を開設したが、この秋以降、突然の不況に直面。運転資金に窮するようになった。社員数人を解雇し、男子学生を含む道内の2大学1専門学校の計5人の内定を取り消した。
 「内定を出した当時より経営が悪化した。個人資産も処分して運転資金を捻出(ねんしゅつ)したが、ここまで資金が回らなくなるとは……。5人には本当に申し訳ない」。社長はうめくように話した。
   ×  ×
 厚生労働省によると、道内で内定が取り消された学生は11月25日現在7人。今回の5人は含まれておらず、今月末に改めて発表される調査結果では倍増する可能性がある。
 5人のうち1人が在籍する札幌市内の私大の就職担当者は「この時期の取り消しは一生を棒に振る可能性がある」と憤る。取り消された2人を抱える専門学校は「入社させた後にリストラしたり、試用期間満了とともに解雇するケースも出るのでは」と危惧(きぐ)する。
 現に補償金と引き換えに内定を辞退するよう持ちかけたり、入社を9月に延期すると連絡してきたところもある。いずれも「企業から取り消すのでない」という思惑が明白だ。
   ×  ×
 北翔大の男子学生にはその後、会社から連絡はなく、補償はあきらめている。実家は神奈川県にあり、弟が来春、大学に進む。「いつまでも親に頼れない。自立しなくては」と思うが、「就活へのモチベーションがわかない」。
 この2週間ほど、卒論に忙しい毎日を送った。逆にそれが将来に対する不安を紛らわせてくれている。卒業し、アルバイトで生活しながらIT業界に再挑戦するつもりだ。だが、景気回復の見込みは険しく、就職戦線がより厳しくなるのは確実だ。【立山清也】
    ◇
 米国発の金融危機の余波が、北海道にも忍び寄ってきた。年の瀬を迎え、揺らぐ生活の現場を随時報告する。
毎日新聞 2008年12月21日 北海道朝刊

生活危機:
08世界不況 失職者に住宅支援 国が部屋提供、貸し付け 労組も電話相談
 米国発の金融危機に端を発した不況の影響が深刻化している。中でも自動車や電機といった輸出産業を中心に派遣や期間従業員など非正規労働者の解雇が相次ぐ。多くは会社の寮などに住んでいるため、解雇は職と住居を同時に失うことを意味する。職と住居を失った時、どう年末を乗り切ればいいのか。政府の支援策を中心に方法を紹介する。【柴田真理子、東海林智】
 「正社員と同じ仕事をして、なぜ派遣だけがクビになるのか。25日に解雇され、28日には寮をでていけと言われている」。17日午前7時、川崎市にある「三菱ふそうトラック・バス」の工場前で、男性派遣社員(35)が寒風の中、声をからした。4年近く寮に住んで同工場で働いたのに年末に解雇され、そして3日後の退寮を迫られている。年末年始はどこへ行けばいいのか。個人加盟の労組「首都圏青年ユニオン」に加入し、この日の訴えを仲間が支援した。労組幹部は「若年者は実家に帰ることも可能だが、中高年は実家に帰りづらい状況がある。年末年始を乗り切る支援が必要だ」と話す。
    *
 男性のように解雇で仕事と住居を失った派遣労働者や期間従業員などを対象に国は15日から支援を始めた。全国187カ所のハローワークに特設の相談窓口を設け、雇用促進住宅への入居申し込みや、賃貸住宅の入居費用、就職活動費などの貸し付け申請を受け付けている。
 雇用促進住宅は全国に約1万3000室(平均家賃2万5000円)の空き室がある。これまで3週間程度かかった入居手続きを2~3日でこなす。6カ月契約で初期費用は家賃の2カ月分、保証人は不要。離職前の年収の12分の1が家賃・共益費の3倍以上ならハローワークに求職登録すれば借りられる。相談初日の15日だけで57件の入居が決定した。
 また、賃貸住宅入居用の初期費用を貸し付ける。雇用保険の受給資格がない場合、半年分の家賃補助、就職活動費も貸し付ける。
 初期費用は50万円まで、家賃補助は月6万円まで、就職活動費は15万円(単身世帯は月13万円)までで、いずれも6カ月間以内。ハローワークで書類を受け取り、自分で不動産業者などで物件を探す。初期費用を除き、貸し付け分は自分名義の口座に振り込まれる。
 実際に融資するのは労働金庫で、22日から貸し付けを始める。金利は固定で1・5%。損失が出た場合は国が穴埋めをする。「貯金・資産がないこと」も要件にあるが、厚生労働省の担当者は「自己申告に基づき、社会通念に照らして判断する」と話す。ハローワークでの相談が前提だが、手続き、審査は1~2日ほどかかる。
    *
 労働組合などは電話相談窓口を設ける。フリーター全般労組などは24、25日、越冬ホットライン(電話03・3373・0180)を開設。清水直子委員長は「寝泊まりできるところにつなげたい」と話す。反貧困ネットワークなどは24日午前10時~25日午前0時、「明るいクリスマスと正月を!年越し電話相談会」(電話0120・110104)を開催、生活保護申請を中心とした相談を受ける。25、26日は関東・東海・近畿エリアではスタッフが申請に同行し、保護決定に時間がかかる場合は少額貸し付けを求める。
 事務局長の湯浅誠さんは「年末年始は例年でも非正規労働者の仕事が減り給料も下がる。今年は緊急事態で、路頭に迷う人が例年の倍になってもおかしくない。雨露しのげる場所で体を伸ばして寝られるのは基本的人権。社会全体で住宅確保に尽くしたい」と話す。
 ◇野宿者向けに炊き出しや自立援助も
 各地の野宿者支援団体も炊き出しや物資の提供のほか、宿泊所で生活しながら技能講習などを受けて就職につなげる支援を行っている。NPO法人「北九州ホームレス支援機構」(電話093・653・0779)の奥田知志理事長は「困窮と孤立が重なるのが一番つらい。まずは相談を」と話す。同「ふるさとの会」(電話03・5824・2371)の水田恵理事は「寝泊まりする場を提供するだけでなく、自立に向けたサポートにも重点を置いている」と言う。
 大阪・釜ケ崎地区では、「釜ケ崎日雇労働組合」(電話06・6632・4273)などが28日~1月5日に例年通り、布団を敷いて集団野宿し、炊き出しで支援する。
==============
 ◇住居を失った失業者への国の貸し付けと上限額
<1>住宅入居初期費用
   (敷金・礼金など)     40万円
   (転居費・家具じゅう器費) 10万円
<2>家賃補助費※(6カ月)   月6万円
<3>生活・就職活動費
   常用就職活動費※(6カ月)月15万円(世帯)
                月13万円(単身)
   就職身元保証料       10万円
 ※は雇用保険受給者でない者に限る。
毎日新聞 2008年12月21日 東京朝刊

生活危機:
08世界不況 月収かつて100万円、今数万円--歩合外務員・62歳男性
 ◇バブル後会社倒産、再就職、バイト掛け持ち--証券マン苦境再び
 「今日もお茶をひいちゃった」。師走の東京・兜町で、証券会社の歩合制外務員として働く男性(62)は、株取引が1日に一度も成立しないことを意味する業界用語を口にした。元々は、客が付かない遊女が葉茶を臼でひいて粉にする仕事をさせられたことから、ひまなことを意味する。最近の月収は数万円。バブル崩壊後の失業からはい上がったベテラン証券マンは「100年に一度」とされる金融危機の前に、再び苦境に立たされている。
 71年、鉄鋼商社から転職して中堅証券会社に正社員として入社した。高度経済成長と歩調を合わせて、業績は伸び、本店の部長になった。歩いて数分の店にタクシーで乗り付け、すき焼きやうなぎを食べた。「自分たちが日本経済を支えている」。そんな自負もあった。
 だが、バブル崩壊後の98年、会社は破産。他業種への転職も考えたが、当時52歳という年齢から今の会社の外務員になった。基本給も保証されず、歩合給からパソコンのレンタル料も差し引かれる。収支がマイナスになる月もある。結果がすべての厳しい仕事だ。
 頼みの綱は、数十年来の付き合いがある投資家だった。景気がいい時は手取りが月100万円を上回ったこともあった。だが、米国の金融不安が表面化すると常連客も取引を控え始め、昨夏あたりから収入がみるみる減った。昼食は立ち食いそばかコンビニ弁当が当たり前になった。
 10月、日経平均株価が26年ぶりに7000円を割り込むと、顧客に電話をかけることもほとんどなくなった。出勤しても、相場を確認したり業界紙に目を通すだけ。11月の手取りは、10万円を大きく下回った。「今日はこの客にこんな取引を持ちかけよう」。好景気だったころ、出勤途中に思いを巡らせた日々がうそのようだ。
 妻(50)との間にもうけた中学と高校、大学生の子供3人の教育費はまだかかる。自宅マンションのローンも残るが、貯金は30万円ほどしかない。還暦を超えながら、皿洗いと別の店での調理のアルバイトをかけ持ちし、家計の足しにする。
 「ギャンブルのような世界だから、あしたは急に良くなるかも」。希望を捨ててはいないものの、「市場が上向く気配は一向に感じられない」と大きなため息をついた。【山本太一】
毎日新聞 2008年12月20日 東京夕刊

生活危機:
08世界不況 東京・大田、従業員2人の町工場
 ◇売り上げ半減、月150万円 今月注文あるのか
 羽田空港にほど近い東京都大田区本羽田に、50社ほどの町工場が入居する工場アパート「テクノWING」がある。低額の家賃で中小企業に入ってもらおうと、区が00年に建てた。鉄筋5階建ての外観はマンションか学校の校舎のようだ。
 2階の一室にある精密機械加工「木南(きなみ)製作所」は従業員2人の有限会社だ。100平方メートル弱の作業場で、輸送機械に使う金属製のローラーなどを作っている。
 文化の日の3日、経営者の木南浩一さん(48)は1人で旋盤を動かした。取引先の都合で休日操業したが、表情はさえない。「夏ごろまでは、このアパートでも曜日に関係なく操業する工場が多かった。今は静かだね」
 取引先は5社。これまで何度か景気の波をかぶってきたが、どんなにひどくても、2社はきちんと発注してくれた。ところが10月以降、5社すべての発注が減った。
 大田区には4800もの工場がある。従業員が1ケタの中小零細が大半を占め、大企業の下請けや孫請けとして日本の産業を底辺から支えてきた。だが、その「ものづくりのまち」に、いち早く不況の足音が響き出した。
 10月末、木南さんは神奈川県にある大手機械会社の下請け工場に部品を納めに行った。そこで見た光景は象徴的だった。
 自分と同じ立場の孫請けが製造した部品が、段ボールに入ったまま、工場内にうずたかく積まれていた。
 「みんな在庫だよ」。工場長の言葉にがくぜんとした。自社の部品とは別の種類だったが「ますます景気が悪くなる」という確信に体が震えた。
 木南さんの工場は、父政良さん(77)が目黒区で創業した。バブル崩壊前には売り上げが月5000万円もあった。6年前、テクノWINGに入居し、ほどなく木南さんが経営を引き継いだ。
 波はあったが、月300万円前後の売り上げを維持してきた。だが、08年に入ってから月平均250万円程度に減った。売り上げが落ちた時は、月15万円の両親の年金に生活費を頼った。独身だからこそ、それも可能だった。思い描く結婚も今は現実味がない。
 景気の後退を実感し始めた時に、米国の金融危機が起きた。10月の売り上げは150万円程度に落ち込みそうだ。従業員の給料や工場の賃料を払えば、かつかつだ。「これまで苦しい時は、取引先以外のどこかしらから助け舟みたいな飛び込み仕事が入った。今度はそれもない」
 大田区によると、07年の区内の企業倒産(負債額1000万円以上)は118件で前年より42件増えた。08年は8月までの累計こそ07年を下回ったものの、9月は07年(7件)の倍以上になるという。
 木南さんは4年前、約2000万円で新しい旋盤を購入した。そのローンも重くのしかかる。「お金より、とにかく仕事がほしい。安くても仕事があれば、やり方を工夫して利益を増やすことを考えられるのだが……」
 主力の取引先からは、11月以降の注文が来ていない。【佐藤浩】
毎日新聞 2008年11月4日 東京朝刊

生活危機:
08世界不況 自動車王国・東海、進む雇用調整 派遣解雇、容赦なく
 ◇34歳、財布に500円--今日泊まる所がない
 米国の金融危機が瞬く間に世界に広がり、日本でも明日への不安が募っている。当たり前だった日々の風景は、どう変わろうとしているのか。職や暮らしの現場から報告する。
 午前0時。名古屋駅前のハンバーガーショップ。硬い椅子に腰掛け、壁を見つめる男性がいた。脇には、半透明の衣装ケースとボストンバッグをくくり付けたキャリーカート。着替えや身の回りの雑貨を詰め込んである。
 やがて所在なげに立ち上がり、店を出た。「コーヒー1杯で一晩居座ろうと思ったけど、人の視線が気になって10分も持たなかったな」。照れたように笑った。34歳。今日、泊まる場所がない。
 車のエアバッグを製造する三重県菰野(こもの)町の工場で半年間、フォークリフトの運転手として働いた。不安定な派遣労働だった。10月28日に突然契約を解除され、寮を追われた。四日市市で職を探したが見つからず、30日夕、名古屋に来た。財布には500円玉1枚とわずかな小銭が残るだけだ。
 名古屋駅には毎日、大きな荷物を抱えた人々が、職を求めてやってくる。「東京、大阪に比べ抜群に景気がいい」。そんな名古屋神話が広まったためだ。実際、東海地方にはトヨタをはじめとする自動車関連企業が多く立地し、名古屋は好景気の代名詞だった。
 だが、米国の金融危機を受け、その「日本の自動車工場」で真っ先に雇用調整が進められている。トヨタは9月末までに期間従業員を2000人削減。デンソーや関東自動車工業などのグループ内企業も人を削り始めた。日産やスズキも人員整理を決めた。対象はほとんどが派遣労働者だ。
 男性は3年前に腰を痛め、当時の勤務先を退職した。離婚し2人の子供とも離れて暮らす。リハビリを経て心機一転、新しい仕事に精を出そうという矢先の先月上旬、北米自動車市場の冷え込みで、会社の生産計画が先送りとなり、人員削減が始まった。
 雇用契約にない荷降ろし作業を強いられ、再び腰を痛めた。数日欠勤すると上司は言った。「腰痛? ほんまかいな。明日からもうええよ」。他の2人と一緒に解雇された。「とにかく人を減らしたかったんでしょうね」。男性は顔をゆがめた。
 下請けの重層化が著しい自動車産業では、孫請け、ひ孫請けまで多くが派遣労働者を使っている。「全体で実際にどれだけの派遣労働者がクビを切られているか、見当もつかない」。愛知県労働組合総連合の榑松(くれまつ)佐一事務局長は指摘する。
 それを裏付けるように、車関連工場がひしめく愛知県岡崎市では、生活保護の受給世帯が10月1日現在、前年同期比12%増の805世帯になった。市生活福祉課の担当者は「派遣契約の解除で寮を出された40代、50代が保護を求めるケースが増えている」と話す。
 東海地方に限らず、新規の求人件数も激減している。求人の3割を自動車関連が占める人材派遣大手「日研総業」(東京都大田区)では、派遣労働者のうち実際に働いている人が、今年4月1日現在の約3万8000人から9月末現在には3万4000人にまで落ち込んだ。
 午前1時。男性は名古屋駅に向かった。解雇された時、「何日か寮に置いてほしい」と頼んでみた。だが、あっさり断られた。「不況の真っただ中にいるんだし、仕方ない。即入居可の寮付きの派遣なら、もう何でもいい」
 人けのなくなったロータリーで、男性は体を縮めた。【市川明代】
毎日新聞 2008年11月3日 東京朝刊
NPO IDO-Shien Forum