Medical Crisis2
医療クライシス:コストカットの現場で

コストカットの現場で/1 総務省「3年で経営改革」要求

 ◇「黒字化」苦しむ公立病院

 「予算計上を認めていただきたい」。今月6日の岩手県議会。達増(たっそ)拓也知事が議員に向かい、じゅうたんに額をこすりつけるように土下座した。

 県立の1病院と5診療所の入院用ベッドを休止(無床化)するなどとした、県立病院・診療所計27施設の経営改革計画。反発した議会は、関連予算を認めなかった。無床化した診療所から、入院の必要な患者を病院へ送るマイクロバスの購入予算だった。

 県の狙いは27施設の黒字化だ。経営に年141億円を出しているが、合計収支は年10億円余りの赤字。県の試算では、6施設の無床化で年約12億円の節減になる。他の策も合わせ13年度には県の支出を123億円に減らし、10億円の黒字にするという。議会は土下座後もバスの予算を認めなかったが、結局は無床化を容認した。

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無床化計画案見直しの署名を達増拓也・岩手県知事(右)に提出した住民代表=県庁で昨年12月24日、山口圭一撮影

 北海道に次ぐ広さで過疎地も多い岩手県。診療所周辺の住民は「開業医もなく、夜間・休日は無医村になる」と反発した。4万2653人の反対署名を知事に出したが、県は「医師不足が危機的で医師負担軽減も必要だ」と強調し、バスの代わりにタクシーを借りて計画を進めるという。

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 総務省は07年12月に出した「公立病院改革ガイドライン」で自治体に対し、病院経営を3年程度で黒字化する案を08年度中に作るよう求めた。小泉内閣から続いた構造改革路線の一環だ。

 総務省によると、07年度は全国957の公立病院に自治体から計約7000億円が支出された。それでも計約2000億円の赤字。公立病院はコスト意識の薄さを指摘され、効率化は欠かせない。だが、救急、へき地など不採算医療を担い、黒字化は簡単ではない。

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 兵庫県北部の但馬地区。豊岡市と朝来(あさご)市で作る「公立豊岡病院組合」が5病院を経営し07年度は約19億円の赤字だった。3年での黒字化は無理とみて、17年度までの9年で黒字化する計画を立てた。

 赤字の主因は医師不足という。組合の試算では、医師1人が年約8000万円稼ぐが、03年度に113人いた常勤医は07年度には102人に。医業収支(医療での収入と経費の差)の赤字は、03年度は約8000万円だったが、07年度には約17億円に拡大した。

 計画によると、10年度から毎年、組合の奨学金を受けた医師が5病院に順次着任する。17年度に15人に達し、黒字化を見込む。

 だが、前途は険しい。手厚い看護体制にすると診療報酬が増えるため、08年度に看護師70人の確保を目指したが50人にとどまった。医師の突然の退職もある。昨秋、公立豊岡病院の麻酔科医5人のうち3人が辞めた。4月にやっと4人に戻る。

 同病院の竹内秀雄院長は「地方は不便で子供の教育にも困り、医師が定着しにくい。経営は大事だが、(総務省には)医療の質という視点がない。小児科など不採算な科も縮小はできない」と訴える。

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 先進国で最も厳しいコストカットにさらされてきた日本の医療現場。相次ぐ公立病院の閉鎖や、産科・救急を巡る問題の続発に象徴されるように、厳しい状況は一向に改善に向かわない。現状と改善策を追う。=つづく

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毎日新聞 2009331日 東京朝刊


コストカットの現場で/2 救急医も研修医も足りない
 ◇宿直「もう限界」退職

 3人の研修医には3日に1度ずつ、宿直してもらっていた。2人に減ったからといって、さすがに2日に1度にはできない。「もう持ちません」。鳥取大病院救命救急センターの八木啓一・前センター長は06年度末、病院側に伝えた。

 当直は、センター常勤医と研修医の2人体制。だが、06年度からは研修医の減少分を7人の常勤医で穴埋めする状況になっていた。

 八木さんは医学部の教授も務めていた。ともにセンターで働く准教授と2人で、学生の教育や実習を年45コマ以上担当。土日は救急隊や開業医向けの講習などにも追われる。

 医師不足は他の診療科も同様だ。同病院では06年2月以降、宿直をやめてオンコール体制(緊急時は自宅待機の医師を呼び出す)への移行が進んでいる。現在は21科のうち精神科など6科が宿直を廃止し、胸部外科など3科も一部の日しか宿直しない。このためセンターの宿直の負担が増す悪循環に陥った。

 それでも何とかセンターの運営を続けた。08年12月には常勤医が1人減り、八木さんは自身の宿直を月1回から4回に増やすことで乗り切ろうとした。

 だが、50代半ばの体には負担が大きい。夕方には動けないほど疲れ果てていることもしばしば。「続けるのは無理」と感じ、今年3月末にセンターの他の3人とともに退職した。鳥取大は4月以降、各科からの派遣医師でセンターを維持するが、前途は険しい。

 「放り出して辞めるのはひどい、という声も分かる。本当に申し訳ないが、退職という形で訴えないと、この状況は変わらないと思った」

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 宿直について、労働基準法に基づく通知は「病室の定時巡回など軽度・短時間の業務で、十分な睡眠時間が確保されなければならない」とする。

 だが、次々と患者が搬送され、日中と変わらない激務の「宿直」をする勤務医は多い。労基法を守ろうとすれば、宿直を廃止せざるを得ない病院が続出するのは必至で、解決策の一つは交代制勤務を導入することだ。

 医師8人で3交代制勤務を敷く市立広島市民病院救急診療部。08年度は約5300件の救急搬送を受け入れたが、医師は4週間で8日の休みがとれ、残業はほぼない。

 同部は初期診療が中心で、入院した患者は各科の宿直医が対応する。内藤博司部長は「交代制勤務ができるのは、病院全体の協力があるから」と話す。

 しかし、同病院は例外的な存在だ。06年度から2交代制勤務を導入した和歌山県立医科大病院救命救急センターの篠崎正博センター長は「いつまで維持できるか分からない」と不安を漏らす。

 所属医師約15人に加え、各科から約10人の応援を受けている。だが08年度、派遣の難しい科が出始めた。研修医の応援でしのいでいるが、10年度以降の体制は未定という。

 篠崎センター長は訴える。「救急は赤字だと言うが、必要な費用は診療報酬で賄えるようにしてほしい。職員を増やし、労働環境が改善されれば、救急をやりたい人も増えるはずだ」=つづく

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毎日新聞 200941日 東京朝刊


コストカットの現場で/3 リハビリ 保険適用日数に上限
 ◇「成果」のため患者選別も

 脳出血で手術を受けた後、左半身にまひが残り、兵庫県西宮市の病院でリハビリをしていた同県芦屋市の男性(62)は08年6月、病院から「180日の日数制限があるので、あとは自宅療養を」と言われた。

 リハビリの意欲が強かった男性と家族は受け入れてくれる病院を探し、7月に同県篠山市の兵庫医科大篠山病院へ入院。歩行訓練などを続け、約4カ月後には装具とつえを使って室内歩行ができるまでになった。男性は「あきらめないでよかった」と振り返る。

 厚生労働省は、寝たきり防止と家庭復帰を目的に発症6カ月後ごろまでに行う「急性期」や「回復期」のリハビリについて、医療保険が適用される上限日数を定めている。脳卒中など脳血管疾患180日▽骨折など運動器疾患と、急性心筋梗塞(こうそく)など心大血管疾患150日▽肺炎など呼吸器疾患90日--だ。

 改善が期待できると医師が判断した場合は上限を超えたリハビリが認められ、厚労省保険局医療課は「必要なほぼ全員がリハビリを受けられる」と説明する。だが、兵庫の男性のようなケースはなくならない。

 篠山病院リハビリテーション科の新井秀宜医師によると、180日を過ぎても、「年齢が比較的若い」「患者だけでなく、家族もリハビリに意欲的」などの患者は改善する余地がある。この基準にあてはまる患者にリハビリをすると、改善がみられるケースがほとんどという。

 男性の妻(61)は「別の病院にも受け入れを断られた。リハビリは機能後退を防ぐ意味もあるので、期限は設けないでほしい」と訴える。

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 リハビリでは、08年度の診療報酬改定で導入された「成果主義」も暗い影を落とす。新規入院患者の1割5分以上が重症患者▽在宅復帰率6割以上--などの条件をクリアした病院は、より多くの診療報酬を得られる仕組みだ。

 医療関係者からは「成果を上げやすい患者が優先的に選ばれる恐れがある」との声が上がる。実際、日本リハビリテーション医学会が08年、リハビリの専門医ら400人を対象に行った調査では、回答した約220人のうち13%が「患者選別を行っている」と答え、「行う可能性はある」との回答も31%に達した。

 兵庫医科大の道免和久教授(リハビリテーション医学)によると、大学から地域の病院にリハビリ患者を送ろうとしても、重症患者や家族がいない患者は断られるケースが出始めている。受け入れ基準が厳しくなったと感じる病院が少なくないという。

 道免教授は「患者は一人一人で対応が異なる。医療で大事なのは個別性だ。一律に上限を作らず、必要な医療を受けられるようにすべきだ。医療の世界に成果主義を持ち込むと、医療そのものが崩壊してしまう」と主張する。

 厚労省は「必要な患者に医療費を集中できる」と、日数の上限や成果主義の意義を強調している。=つづく

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毎日新聞 200943日 東京朝刊


コストカットの現場で/4 採算取れない診療報酬体系
 ◇小児、救急「人材消える」

 会計用のレジは、インターネットオークションでスーパーの中古品を購入した。会計窓口で使うレジシステムのプログラムは院長が組んだ。院内の清掃や待合室の古くなったソファの張り替えは職員が行っている。

 埼玉県久喜市など3市9町の小児重症患者を対象にした2次救急医療を担う土屋小児病院(常勤医8人、25床)。土屋喬義(たかよし)院長は「経費はぎりぎりまで節減しているが、経営は苦しい」と語る。

 小児救急(軽症の患者を診察する1次救急と2次救急の合計)の08年の収支は、5000万円を超える赤字で、前年と比べ約5割も増えた。医師の勤務時間を短縮し、事務職の半分以上をOBやパートにするなど経費節減に努めるが、ようやく病院全体でわずかに黒字になる程度だ。

 病院経営が逼迫(ひっぱく)するのは、現在の診療報酬体系では小児医療で採算をとるのが難しいからだ。自治体からの補助金なども少ない。全国公私病院連盟と日本病院会の調査によると、全国の病院の外来患者1人1日当たりの診療収入(08年6月分)は、泌尿器科や呼吸器外科などが1万円を超える一方、小児科は7800円しかない。

 日本医師会総合政策研究機構のまとめでも、診療所の小児科の診療収入(08年4~6月)は、前年同期比で2・9%減少。全国の病院で小児医療からの撤退が相次ぎ、小児専門の民間病院(20床以上)は現在、全国にわずか数カ所しかない。

 土屋院長は「病院がもうかるというのは幻想。私的病院にコストダウンの余地はない。病院が普通に経営できる程度に国などの支援がなければ、小児医療を担う人材は日本から消える」と話す。

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 経営が厳しいのは救急も同じだ。

 昭和大病院(東京都品川区)救命救急センター。山田哲哉・前事務次長は「07年度は2億8316万円の赤字でした」と説明する。

 同センターは命にかかわる重症患者を診る3次救急病院。常に最悪の事態を想定し、医師などを手厚く配置せざるを得ない。高価な薬剤を使ったり、薬剤使用量も多かったりする。空きベッドも確保しておく必要がある。

 その結果、収支は悪化する。同センターの07年度の収支は医療収入5億5605万円に対し、支出は8億3921万円。都からの補助金を入れても黒字にはならない。

 03年から導入されたDPC(入院費包括支払い)も影響している。従来の出来高払いは、処置や投薬など行った診療行為一つ一つの診療報酬点数を合算して請求できたが、DPCは定額制で病名ごとに1日当たりの診療報酬が決まっている。例えば、同センターに昨年10月に運ばれた敗血症患者の例。3日間の入院でDPCの請求額は12万8684円だが、出来高払いなら25万1417円分の治療をしており、12万2733円の赤字だった。

 有賀徹・同病院副院長は「救急は赤字だから補助金を出すというのが国の発想だが、診療報酬で経営できるようにするのが筋だ。これでは救急で難しい患者を診る病院はなくなる」と批判する。=つづく

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毎日新聞 200947日 東京朝刊


コストカットの現場で/5 費用がかかる安全対策
 ◇取り組むほど経営厳しく

 医療の安全対策の先進病院として知られる船橋市立医療センター(千葉県)。特に力を入れているのが、他病院での事例も含め、発生したトラブルの内容や防止策を図解などで職員に分かりやすく伝える「医療安全対策文書」の発行だ。

 作業の中心を担うのは、副院長以下3人がほぼ常駐する医療安全管理室。多い時には毎日のように発行し、02年9月からの6年半で750号に達した。得られた教訓は年1回、「ルールブック」としてまとめている。

 厚生労働省はこうした取り組みを推進するため、06年度の診療報酬改定で、専従の「医療安全管理者」を置いた病院には入院患者1人につき50点(500円)を加算する仕組みにした。だが、年間入院患者約9000人の同センターの場合、加算は約450万円で看護師1人分しかない。小沢俊・前院長は「経営面で言えば、医療安全に取り組むほど病院は損をする」と話す。

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 国が医療事故防止に本腰を入れ始めたのは99年に横浜市立大病院や東京都立広尾病院で重大な事故が起きてから。02年の医療法施行規則改正で、病院・診療所に安全管理指針の整備や患者相談窓口の設置などを義務付け、04年10月からは大学病院などに医療事故の報告義務を課した。

 こうした対策には、どれぐらい費用がかかるのか。今中雄一・京都大教授(医療経済学)らは06年度の全国調査で、入院患者1人にかけている医療安全コスト(人件費や研修費など)を、大学などの臨床研修病院で1日975円、その他の病院で404円と算出。全国の病院が「月1回、1時間以上の安全管理委員会開催」など標準的な安全対策を実施するには、総額332億円の追加コストが必要と推計した。これに対し、医療安全管理者配置による診療報酬加算(07年)は、全国で約18億円。今中教授は「診療報酬は抑制される一方、医療安全の要求は高くなった。水準を上げるには資源投入が必要で、国は資源確保の仕組みを工夫すべきだ」と指摘する。

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 厚労省研究班が03~05年に全国18病院のカルテを調べた結果、有害事象(予期せぬ障害や合併症)は入院患者の6・8%に起きていた。ベッド100床当たり年約63件で、事故の手前の「ヒヤリ・ハット」は、その数十~数百倍あるとされる。

 ところが、国が01年から始めた「ヒヤリ・ハットの全例報告」に協力する240医療機関(計約10万床)から寄せられた07年の報告は約21万件。100床当たり約210件で、有害事象の推定数の3倍程度しかない。

 年間5000件前後のヒヤリ・ハットを報告している東海大病院(神奈川県伊勢原市)は、データ打ち込み専従の職員を雇う。安田聖栄副院長は「医師や看護師だけでは対応できない」と話し、人件費は病院の持ち出しだ。関東のある病院長は「報告1件でいくらといった手当でもないと、情報を上げきれない」と漏らす。

 厚労省は「医療安全は医療機関の当然の責務」とする。だが、予算がなければ対策は進まず、被害に遭うのは患者だ。=つづく

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毎日新聞 200948日 東京朝刊


コストカットの現場で/6止 政府の医学部定員増方針
 ◇教員人件費に支援薄く

 「学生が増えるなら教員も増えるのか」

 08年8月、横浜市立大医学部の教授会。09年度からの医学部定員増の計画を検討中、教授らが声を上げた。

 政府はその2カ月前「骨太の方針08」を閣議決定。長らく続いた医師数抑制策を転換し、医学部定員増を打ち出した。これを受け文部科学省は、全国の大学医学部に増員計画の提出を求めた。

 07年度まで1学年定員60人の横浜市大医学部が希望したのは「15人増」だった。08年度の医学部臨時定員増などの25人と合わせ、計100人とする計画。多くの医学部が定員100人程度の中、同大にとっては悲願とも言える目標だった。

 だが、9月下旬、文科省は「15人は多すぎる」と難色を示す。国立大にも教員増なしで可能な定員増を求めたとして、横浜市大には「5人増」を提示。しかも「公立大には教員増の人件費への支援はできない」とされた。

 定員増へ向け横浜市は、09年度予算に8900万円を盛り込んだ。うち人件費は常勤教員3人分の3600万円。同大は向こう3年間で9人の増員を見込むが、梅村敏・医学部長は「学生が60人から90人へ1・5倍に増えたのに、教員3人増ではとても足りない」と話す。

 これまで5人1組で行っていた臨床実習を7~8人1組にするなどして対応するが、梅村学部長は懸念する。

 「目が行き届かない面も出てくるだろう。学生のレベルが下がり、数年後の医師国家試験の合格率などに結果が表れる。研究活動に時間を割ける医師は減り、将来的に日本の医療水準は下がる」

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 定員増では、国立、私立大への支援も十分ではない。国立大の運営費交付金と私立大への私学助成金は、08年度補正予算と09年度予算で計46億円。国立大学医学部長会議で医学部教育などの検討委員長を務める嘉山孝正・山形大医学部長は「解剖台や顕微鏡の購入も必要なのに、10人増に対し年間約817万円。これで何ができるのか」と憤る。

 そもそも、日本の大学医学部の教員数は、海外と比べて大幅に少ない。嘉山学部長の調査では、07年の1ベッド当たりの病院医師(指導医)数は、米テキサス大がんセンター1・45人、ボストンS・E病院1・24人に対し、東京大と慶応大0・58人、群馬大0・41人などにすぎない。

 嘉山学部長は「国は増員を命令して、わずかな交付金を出すだけ」と批判する。1956年の大学設置基準で学生720人に対し教員140人としていることを挙げ「当時とは教育内容も大きく変わり、遺伝子研究なども扱うようになった。150人は必要だ」と基準の見直しを求める。

 今年4月、全国の大学医学部の新入生は、08年度より約500人多い約8500人となった。だが、日本の人口1000人当たりの医師数は2・0人(04年度)で、経済協力開発機構(OECD)平均の3分の2。追いつくには大幅な医師増が必要だが、低医療費政策を続ける限り実現は難しく、「医療クライシス」の出口は見えない。=おわり

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 この連載は、高木昭午、清水健二、河内敏康、樋岡徹也、五味香織、渋江千春が担当しました。

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