Organ Transplant
人の死とは〜臓器移植法改正


脳死移植:84例目が終了 85例目も実施へ

201013 1919

 国内84例目の脳死臓器移植手術は3日、4病院で終了した。提供者は金沢医科大病院(石川県)に入院していた40代女性。心臓は国立循環器病センター(大阪府)で30代女性▽肺は大阪大病院と東北大病院でともに40代女性2人▽腎臓は金沢医科大病院で40代男性▽腎臓と膵臓(すいぞう)は東北大病院で30代男性に移植された。

 一方、佐久総合病院(長野県)に入院中の40代男性が3日、臓器移植法に基づき脳死と判定された。患者は脳死で臓器提供する意思を示すカードを持ち、家族が心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球の提供を承諾した。同法に基づく脳死判定は86例目、臓器提供は85例目となる。

 心臓は大阪大病院で50代男性▽両肺は東北大病院で20代女性▽肝臓は北海道大病院で40代女性▽腎臓は長野赤十字病院で30代男性▽腎臓と膵臓は東京女子医大病院で30代男性に移植される予定。

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改正臓器移植法成立:「死の定義」歓迎と苦悩

 脳死は人の死--。死の定義を変え、家族の同意で子どもの臓器提供を可能にする改正臓器移植法が13日、成立した。国会会期末を目前に控え、衆院解散・総選挙の日程があわただしく決まる中、制定から12年を経て法改正が実現した。海外渡航しか命を救えない子どもへの移植がようやく国内で実現することを歓迎する声が上がる一方、心停止後の子どもの臓器提供を経験し、苦悩の日々を送った家族はドナー(臓器提供者)側への配慮を強く求めた。【野田武、高野聡、山田大輔、奥野敦史、江口一】

 ◇「これで助かる子が」
海外で移植経験

 05年にドイツに渡航して心臓移植を受けた小学6年の女児(12)の父親(49)=和歌山県在住=は「日本には技術があるのに、なぜ子どもの心臓移植ができないのか疑問だった。国内での移植へ向けて前進した」と成立を喜んだ。

 女児は04年8月、拡張型心筋症と診断された。心臓の筋肉の働きが弱くなり、血液を全身に送るのが困難になる原因不明の病気。重症化すれば移植しか治療法はない。

 翌月、大阪大病院(大阪府吹田市)に入院し、補助人工心臓をつけた。翌年5月、親族らが募金活動で集めた約7000万円でドイツへ。1カ月後に移植を受けた。

 女児は臓器の拒絶反応を防ぐため、免疫抑制剤を生涯飲み続ける必要がある。免疫が低下しているため、学校で風邪がはやった時には登校を控える。刺し身など生ものを避ける制限もある。でもそれ以外は普通だ。「こんなに元気になったのかと、考えられないくらい」という。

 「移植でないと助からない子どもがいる。ドナー側の皆さんは、複雑な思いを抱えて決断されると思うが、一人でも二人でもそういう人が出てきてもらえば」と父親は願う。

 ◇今思う「自分のため」
長男の腎臓提供

 兵庫県篠山市で小児科医院「すぎもとボーン・クリニーク」を開業する医師、杉本健郎(たてお)さん(60)=小児神経内科=は「脳死判定後も長期間心停止しない子どもの『長期脳死』の症例も報告されているのに、『脳死を人の死』と法で決めてしまっていいのか」と批判した。

 杉本さんの長男、剛亮(ごうすけ)ちゃんは85年3月、6歳で交通事故に遭い、脳死状態となった。突然の不幸に混乱する中、脳裏に浮かんだのが「剛亮ちゃんの生きた証しを残してやりたい」という考えだった。

 心停止後の腎臓提供を申し出、積極的な延命治療を中止。人工呼吸器を外して容体を見守った。「数分で止まる」と言われていた心臓は約30分間動き続け、徐々に皮膚の色が黒ずんでいったという。腎臓は2人の患者に移植され、杉本さん自身も剛亮ちゃんの死を受け入れたと感じていた。

 だがその後、カナダに留学し、子どもの立場からケアに当たる現地の医療体制を知り、自分の意思だけで臓器提供したことに後悔の気持ちが出てきた。「自分は長男の思いを意識せずに提供を決めてしまった。自分の行為は、悲しさを癒やしたいがための自分のための行為だったのでは」と振り返る。

 ◇「最低限のみとりを」
5歳長男が提供

 「自分の子や孫が目の前で脳死になっても喜んで臓器提供するんですね、と賛成議員に一人ずつ問いたい」。25年前、5歳だった長男が心停止後に臓器提供に応じた愛知県豊橋市のタクシー運転手、吉川隆三さん(60)はA案可決を家族の電話で知り、声を震わせた。

 84年、長男忠孝君が急病で脳死状態となり、心停止後に腎臓を提供した。「他人の体を借りてでも息子を生かしたい」との親心からだったが、「これで良かったのか」と悩む日々が何年も続いた。

 吉川さんは臓器提供者(ドナー)の家族同士が思いを分かち合う集いを呼びかけ、「日本ドナー家族クラブ」の00年発足に尽力。家族の心の痛みをケアし支える「ドナー・コーディネーター」の公的組織の設立を訴えてきた。国会審議にも注目してきたが、改正法には期待したドナー家族への配慮は何も盛り込まれなかった。

 「米国では大統領夫人がドナー家族の集いに参加するなど、国を挙げて善意に報いる姿勢を示している。しかし日本では『ほったらかし』の状態」と指摘。「突然不幸に襲われ、『一瞬』で判断しなければいけない。肉親の死を受け入れる最低限の『みとり』の時間がほしい。法改正でますます家族がせかされるのではないか」と懸念を示した。

 ◇賛否両派が会見


 改正臓器移植法の成立後、賛成、反対両派が国会周辺で相次いで記者会見した。

 成立したA案提出者の中山太郎衆院議員らと臓器移植患者団体の代表、移植医らは繰り返し握手を交わし、法改正の実現を喜んだ。「脳死を人の死」とする死の定義を変更することには強い反対もあったが、中山議員は「臓器提供者(ドナー)の家族はいつでも提供を拒否する権利がある。今後の努力で国民の不安は払しょくできるはずだ」と強調した。

 一方、「臓器移植法改悪に反対する市民ネットワーク」の川見公子事務局長は「解散・総選挙ありきで、長期脳死やドナーの問題など、重要な論点の審議が短時間で打ち切られてしまった。人間の生と死にかかわる法案がこのような形で成立したことは、後世に汚点を残す」と強く批判した。

毎日新聞 2009714日 120


改正臓器移植法成立:課題山積、施行は1年後

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臓器移植改正法A案を可決した参院本会議=国会内で2009年7月13日午後1時4分、須賀川理撮影

 脳死を人の死とする改正臓器移植法が13日に成立したことに伴い、厚生労働省は法律の運用に関する指針(ガイドライン)の改正に取りかかる。現行法では15歳以上と定めている臓器提供の年齢制限撤廃や、家族の同意で提供を可能にした条件緩和などに沿って、脳死判定までの手順や判定方法などを改正する。大人に比べて難しい小児の脳死判定をどのように適切に実施するかなど、1年後の施行に向け課題は多い。

 法的脳死判定の基準は、旧厚生省研究班が6歳以上について85年にまとめ、省令で規定している。6歳未満については、脳死を確認するため2度行う脳波測定の間隔を広げるなど、より厳格な基準を求める研究報告が00年にまとめられている。だが、省令による規定がないため、基準の見直しが必要になる。

 日本小児科学会は、脳死になった子どもからの臓器移植を検討するプロジェクト委員会を発足させた。脳死判定後も長期間心停止しない「長期脳死」の事例を踏まえ、6歳未満の脳死判定基準がどうあるべきか、虐待を受けた子どもをどう見分けるか、子どもの自己決定権をどう守るかなどについて議論を進める予定だ。

 また、改正法では親族に臓器を優先提供する意思を書面で表示できることになった。このため、現在、「公平公正な臓器移植の実施」を定めている指針の見直しも必要だ。

 厚労省臓器移植対策室は「新たな研究班をつくる必要があるかもしれない。最新の研究成果も盛り込んで改正作業を進めたい」としている。【関東晋慈】

毎日新聞 2009714日 009分(最終更新 714日 143分)


臓器移植法:参院も「A案」で成立 「脳死は人の死」

2009713 1313分 更新:713 1442

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改正臓器移植法(A案)が参院本会議で可決、成立=国会内で2009年7月13日午後1時4分、須賀川理撮影

 臓器移植法改正案は13日午後、参院本会議で採決され、3法案のうち、脳死を一般的な人の死とする「A案」(衆院通過)が賛成138、反対82の賛成多数で可決、成立した。15歳未満の子どもの臓器提供を禁じた現行法の年齢制限を撤廃し、国内での子どもの移植に道を開くとともに、脳死を初めて法律で「人の死」と位置づけた。ただ、死の定義変更には強い慎重論が残る。このため、A案提出者は審議の中で「『脳死は人の死』は、移植医療時に限定される」と答弁し、配慮を示した。

 現行法では15歳以上でないと臓器提供ができず、小児が自分のサイズにあう臓器の移植を受けるには渡航するしかない。だが、世界保健機関(WHO)は海外での移植の自粛を求める方向で、将来渡航移植の道が狭められるのは確実だ。97年の法施行以降、国内の脳死移植は81件にとどまっており、A案は年齢制限の撤廃とともに脳死を人の死とすることで、臓器提供の機会拡大を目指す。

 臓器移植法の改正をめぐっては、6月18日、衆院でA案が投票総数の6割の賛成で可決され、参院に送付された。しかしA案に対し、参院側は「移植の拡大は必要だが、死の定義変更には社会的合意がない」と考える議員も多い。このため、与野党の有志はA案を踏襲しつつ、死の定義は現行通りとする修正A案を提出した。

 一方、A案支持の中核議員は「脳死の位置づけを変えたらA案の意味がない」と修正を拒否。修正A案を「中途半端」と判断した議員が多数をしめた。ただ、「一般医療で脳死後の治療中止が広がりかねない」といった慎重論には配慮せざるを得ず、提出者は新しい死の定義について「臓器移植法の範囲を超えて適用されない」と答弁した。

 A案への懸念は、本人の意思が不明でも家族の同意だけで臓器摘出ができる点にもある。臓器摘出後に本人が拒否していたと分かることも否定できない。成人より難しいとされる、子どもの脳死判定も課題となる。

 採決は修正A案、A案に続き、現行法の枠組みを残しながら子どもの臓器移植のあり方を1年かけて検討する「子ども脳死臨調設置法案」の順で行う予定だったが、修正A案が賛成72、反対135で否決後、A案が可決されたため、臨調設置法案は採決されなかった。臨調法案に賛成の共産党以外の各党は党議拘束をかけず、各議員が自らの死生観に基づいて投票した。【鈴木直】

 ◇成立した法律骨子◇

(1)死亡者の意思が不明で遺族が書面で承諾していれば、医師は死体(脳死した者の身体を含む)から臓器を摘出できる
(2)本人の意思が不明でも、家族が書面で承諾していれば医師は脳死判定できる
(3)親族に臓器を優先提供する意思を書面で表示できる
(4)政府は虐待児から臓器が提供されないようにする


臓器移植法:改正3法案 13日午後、参院本会議で採決

2009712 1928分 更新:712 2016

 臓器移植法改正3法案が13日午後1時からの参院本会議で採決される。共産党を除く各党は党議拘束を掛けず、議員個人の判断に賛否を委ねる。

 採決されるのは、脳死を一般的に人の死とし、年齢制限(現行15歳以上)を撤廃したうえで家族の同意だけで臓器摘出が可能となるA案=衆院通過▽A案の脳死の定義を現行法通り「臓器移植の時に限って人の死」とする修正A案▽現行法の枠組みを維持し、子供の臓器移植について1年かけて検討する子ども脳死臨調設置法案--の3案。

 採決は修正A案、A案、臨調法案の順で行われる。修正A案が可決された場合は衆院に回付され、14日の衆院本会議で同意されれば成立する。参院で修正A案が否決され、A案が可決されれば成立。臨調法案が可決されれば衆院に送られる。【鈴木直】


臓器移植法案:13日の参院本会議で採決 議運委

2009710 1222分 更新:710 1224

 参院議院運営委員会は10日午前、臓器移植法改正A案などの採決を13日午後の参院本会議で行うことを決めた。衆院同様、共産党を除く各党は党議拘束を掛けない。採決するのは、脳死を一般的に人の死とし、臓器摘出の年齢制限(現行15歳以上)を撤廃する「A案」=衆院通過▽A案の脳死の考え方を現行法同様、「臓器移植の時だけ人の死」とする「修正A案」▽現行法の枠組みを維持したうえで、内閣府に臨時調査会を設置して子供の臓器移植について検討する「子ども臨調設置法案」の3案。

 採決は修正A案、A案、子ども臨調法案の順に行う。A案の修正が議決されれば衆院に回付され、同意を得て成立する。一方、修正否決の場合、A案が可決すれば成立する。A案否決後に臨調法案が可決すれば、衆院に送付され、衆院で可決すれば成立する。

 議運後の参院本会議では、厚生労働委員会の辻泰弘委員長による中間報告の後、南野知恵子氏(自民)が修正A案の趣旨説明。さらに、各案に賛成の立場から討論を行い、石井みどり(自民)=A案▽津田弥太郎(民主)=修正A案▽円より子(同)=臨調設置法案=の3氏が賛同を呼びかけた。【鈴木直】


臓器移植法:スピード審議に批判も 死の定義、溝埋まらず

 参院厚生労働委員会は9日、臓器移植法改正案について、「脳死は人の死か」を中心に質疑をし、審議を終えた。だが、死の定義に関するA案と修正A案の違いといった基本認識すら食い違ったまま。7日の修正A案提出から2日で審議を打ち切り、13日にも採決しようとしている背景には、理念はあいまいでも衆院解散ですべて廃案となるよりはマシという一部移植推進派の意向がある。移植慎重派は「拙速だ」と批判を強めている。

 A案に対し、慎重派の間には「脳死は人の死」という考えが医療一般に広げられないか、との疑問が根強くある。衆院ではこの点を徹底して攻められたこともあり、A案提出者の冨岡勉衆院議員(自民)は9日、「移植の手続きを定める法律であり、(脳死が人の死という考え方が)それ以外の場面に及ぶことはない」と強調した。

 A案は「臓器移植に限り脳死は人の死」とする現行法の規定を削除しており、その点が慎重派の疑念を呼んだ。そこでA案提出者は「脳死を人の死とするのは臓器移植法限定」と言い始めた。

 だが、丸川珠代氏(自民)は「衆院段階と微妙に変化している」と突き、「A案支持者の間で見解が分かれている」と批判した。

 これに対し、脳死の位置づけに関する現行法の規定を復活させたのが修正A案だ。提案者の西島英利氏(自民)は9日、「移植時限定と明確にした方がいい」と修正理由を説明した。A案と修正A案に根本的な違いはないが、死の定義をより明確にした、というわけだ。

 ただ、これには「脳死は人の死」と考えるコアのA案支持者と、それに真っ向から対立する子ども脳死臨調設置法案支持者双方が「A案とは180度考え方が違う」と反発した。実際、修正A案は、死の定義に関する考え方の違う議員が、「改正法案の今国会成立」という一点で結びついて生まれたものだ。

 修正A案の審議は9日、わずか1日で終了した。推進派が急ぐ理由は、東京都議選(12日)から間があくと政局が流動化し、衆院解散となれば法案が廃案となってしまうと懸念しているからだ。

 しかし、「理念より廃案阻止」の意図が透けてみえるだけに、8日の参院自民党の勉強会で尾辻秀久議員会長は「Aと同じなら修正Aは出す必要がない。脳死は人の死なのかはっきりさせてほしい。法的にあいまいにし、ごまかしている気がする」と怒りをあらわにした。

 臨調法案提出者の小池晃氏(共産)は、「これを修正案というのでは木に竹をつぐような話だ」と厳しく批判した。【鈴木直】

毎日新聞 200979日 2250分(最終更新 710日 255分)


臓器移植法:参院13日にも採決 修正A案含む3法案で

200979 2127分 更新:79 2226

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臓器移植法改正案の参院採決の流れ

 参院厚生労働委員会は9日、臓器移植法改正案についての質疑をした。質疑の後、辻泰弘委員長(民主)は審議の終局を宣言し、委員会審議は事実上、終了した。与野党は同委員会での採決を省略し、10日の参院本会議で中間報告をしたうえで、13日にも同本会議で採決する方向で調整している。

 質疑をしたのは、脳死を一般的に人の死とし、家族の同意があれば、現行法が認めていない15歳未満の子どもから臓器摘出が可能となる「A案」(衆院通過)と、現行法の枠組みを維持したうえで、内閣府に臨時調査会を設置して子どもの臓器移植について検討する「子ども臨調設置法案」の2法案。さらに、A案の脳死の考え方を現行法同様、「臓器移植の時だけ人の死」とする修正動議も出され、修正A案を含む3法案を採決することが決まった。

 参院本会議ではまず修正A案を採決し、可決されれば衆院に回付。衆院が修正に同意すれば成立する。一方、参院で修正が否決されれば次はA案を採決し、可決すれば成立するが、否決されれば次は臨調設置法案を採決する。可決すれば衆院に送付される。【鈴木直】


臓器移植法:改正案めぐり参院委で審議 15日にも採決へ

200979 1042

 参院厚生労働委員会は9日、臓器移植法改正案をめぐり、脳死を人の死とする「A案」と、A案の対案、子どもの臓器移植について検討する「子ども脳死臨調設置法案」の質疑を始めた。午後にはA案の修正動議が出され、臓器提供時に限って脳死を人の死とする「修正A案」の趣旨説明と質疑を行う。与党と民主党は9日午後に委員会審議を打ち切り、10日の参院本会議で中間報告をしたうえで、15日にも採決する方向で調整している。

 臓器移植法改正案については、脳死を一般的な人の死とし、今の法律では認めていない15歳未満の子どもからの臓器提供を認めるA案が衆院で可決され、参院に送られた。

 これに対し、参院有志議員は、子どもの脳死判定基準などを1年かけて検討するための脳死臨調設置を柱とする対案を提出。7日には臓器提供の年齢制限は撤廃しつつ、現行法同様、臓器を提供する場合に限って脳死を人の死とする修正A案も出された。

 当初与党は、早期の衆院解散で廃案になることを避けるため、10日の参院本会議で採決することも模索したが、「拙速」との批判もあり、来週に延期する方向だ。共産党と社民党は「審議が尽くされていない」として早期採決に反対している。


臓器移植法改正案:A案の修正案を提出 参院の有志議員ら

 臓器移植法改正案を巡り、参院自民、民主、公明3党の有志議員6人は7日、衆院を通過したA案の修正案を辻泰弘参院厚生労働委員長に提出した。脳死を「一般的な人の死」とするA案を見直し、現行法同様、臓器移植を行う場合に限って脳死を人の死とする内容。付則に▽虐待児から臓器が摘出されないための検討を改正法公布後直ちに開始する▽臓器提供に応じた家族に対するケアなど支援を検討する--ことなどを盛り込む。【鈴木直】

毎日新聞 200977日 1954


臓器移植法:A案修正案を提出へ 与野党有志

 参院厚生労働委員会は2日、臓器移植法の改正2案について、6月30日に続き2度目の参考人質疑を行った。計8人の参考人が出席し、衆院を通過した「脳死を人の死」と位置付けるA案への賛否に論議が集中した。また、古川俊治委員(自民)は、現行法と同じく臓器提供時に限って脳死を人の死とするA案の修正案について、与野党有志で早ければ7日にも提出を目指す考えを明らかにした。

 参考人質疑で日本弁護士連合会人権擁護委員会委員の加藤高志弁護士は「脳死が人の死という社会的合意はない」とA案に反対。「相続など死亡時刻が重要になる局面で、脳死判定に同意する遺族が利害関係者になってしまう」と懸念を示した。日本医師会の木下勝之常任理事は「A案では脳死の解釈で国民が混乱する」と指摘、A案の修正案を支持した。

 一方、日本移植者協議会の大久保通方理事長は「海外渡航移植に頼らざるを得なかったのは法律の見直しを怠ってきた国会の不作為だ。A案を修正せずに可決してほしい」と述べた。日本移植学会の寺岡慧理事長は「医学的には脳死は死という合意があり、社会にも浸透している」とA案への改正を求めた。

 作家で厚労省脳死検証会議委員の柳田邦男氏は臓器提供後に悩む遺族の心情を紹介し、「A案では提供を拒否することが例外というイメージだ。遺族は脳死判定を拒否できると条文に明記してほしい」と提言した。【関東晋慈】

毎日新聞 200972日 2013分(最終更新 72日 2029分)


臓器移植法改正案:自民が「10日採決」を民主に提案へ

 参院自民党は30日、臓器移植法改正法案(A案)と野党有志対案を10日の本会議で採決するよう民主党側に提案することを決めた。解散による廃案を避けるため、東京都議選(7月12日投開票)までに決着を図りたい考えだ。ただ、参院で多数を占める民主党側には慎重論もある。

 臓器移植法改正案は30日の参院厚生労働委員会で実質審議入りした。与野党は同日の理事会で、7月9日まで計4日の委員会審議と1日の視察をすることで合意した。

 参院自民党有志は、10日に本会議で両法案の中間報告をした後、A案の修正案を提出する方針を固めた。修正案は、A案の「脳死を人の死」とする部分を現行法同様、「臓器提供時に限って脳死を人の死」となるよう条文を戻す。臓器提供の条件や年齢制限はA案を踏襲する。【鈴木直】

毎日新聞 2009630日 2025


臓器法改正案:実質審議入り 参院厚労委

 子供の臓器提供を可能にする臓器移植法改正案(A案)と、参院有志の提出した対案は30日午前、参院厚生労働委員会でそれぞれ趣旨説明が行われ、実質審議入りした。

 衆院を通過したA案は脳死を人の死とし、本人が拒否しなければ年齢に関係なく臓器提供が可能になる。参院有志案は15歳未満の臓器提供を認めない現行法の枠組みを維持したうえで、内閣府に設ける「子どもの脳死臨調」で子供の臓器移植について1年かけて検討する。【鈴木直】

毎日新聞 2009630日 1154


臓器移植法:廃案に危機感 解散取りざたされ

2009626 214分 更新:627 126

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参院本会議で臓器移植法案A案提出者の自民・冨岡勉衆院議員(手前)の後ろを通り、対案の趣旨説明に立つ川田龍平氏=国会内で2009年6月26日午前10時13分、藤井太郎撮影

 臓器移植法改正案(A案)と、野党有志による対案は26日の参院本会議で趣旨説明が行われ、参院厚生労働委員会は30日から実質審議に入ることを決めた。「委員会審議は3~4回程度は必要」(自民参院議員)との声もあり、10日までに委員会審議を終え、翌週に採決するのが想定されるシナリオ。その前に衆院解散となれば参院で審議中の両法案も廃案となるため、東京都議選(7月3日告示、12日投票)前後の解散も取りざたされる中、関係者は麻生太郎首相の判断を注視している。

 「衆院は(A案を)大差で可決した。成立目前に解散すれば、意図的としか思えない。(移植を待つ)患者さんの気持ちを無視するものだ」。臓器移植を受けた人たちでつくるNPO法人「日本移植者協議会」の大久保通方理事長は改正案採決前の解散を懸念する。

 衆院を通過したA案は15歳以上の年齢制限を撤廃し、本人の生前の拒否がなければ臓器提供が可能になる内容。参院での慎重審議を求める声もあるが、審議に時間をかけるほど解散による「時間切れ廃案」となる可能性が強まる。A案提出者の冨岡勉衆院議員(自民)は「参院の良識にすがるしかない」と「迅速」審議を期待。中山太郎衆院議員(同)も「時間がないなら毎日でも審議すればいい」と話す。

 これに対し、「子どもの脳死臨調」を設置する対案の提出者は「拙速」審議を警戒。川田龍平参院議員(無所属)も「移植を待っている人のためにも議論はしっかりやりたい」と話す。対案に賛成する円より子参院議員(民主)も「会期末が近づいてから参院に送付され、大事な法案にもかかわらず政局に振り回されていること自体が残念だ」と指摘する。【鈴木直】


臓器移植法改正案:「A」対案を趣旨説明 参院で審議入り

 臓器移植法改正案(A案)と野党有志が提案した対案は26日午前の参院本会議で趣旨説明が行われ、審議入りした。30日の参院厚生労働委員会で実質審議入りする見通し。

 18日に衆院を通過したA案は、「脳死を人の死」とし、年齢制限を撤廃して本人が生前に拒否しなければ臓器摘出が可能となる。対案は現行法の骨格を維持したうえで、「子どもの脳死臨調」を設置して1年かけ子供の臓器移植の課題を検討するとしている。

 A案提出者の冨岡勉衆院議員(自民)は「臓器提供の権利が奪われ、患者が命を落としているのは国会の不作為だ」とA案の早期成立を訴えた。対案提出者の川田龍平氏(無所属)は「拙速な小児の臓器移植の拡大には専門家や国民に懸念がある」と、子供の臓器移植について慎重な議論を求めた。【鈴木直】

毎日新聞 2009626日 1131


臓器移植法:民主・西岡参院議運委員長 首相の姿勢を批判

2009625 1945分 更新:626 147

 民主党の西岡武夫参院議院運営委員長は25日の記者会見で、麻生太郎首相が臓器移植法改正案の参院での審議促進を求めていることに対し、「自分が反対した法案の早期採決を参院側に言うのはどういう考えか」と批判し、今国会での採決に改めて慎重姿勢を示した。首相は衆院本会議で脳死を一般に人の死とするA案に反対したものの、同案を可決した衆院の意思は尊重している。

 一方、参院議運委理事会は25日、A案と、参院議員有志が提出した対案の趣旨説明を26日の本会議で行うことを決めた。【山田夢留】


臓器移植法改正案:
あすから参院審議 脳死=死、抵抗感強く A案「修正」巡り対立も

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 臓器移植法改正案は、26日に参院本会議で審議入りする。今のところ、衆院を通過したA案と参院有志による対案の2法案で議論が展開されそうだ。ただ、脳死を「一般的な人の死」とするA案への支持には濃淡があり、審議は「A案VS参院有志案」という単純な構図にはとどまらない可能性もある。A案の修正を巡って議論が混とんとする事態も予想される中、成立前に衆院が解散されれば廃案となる事情も絡み、審議の行方は見通せない。【鈴木直】

 A案は脳死を人の死とし、本人が拒否しなければ家族の同意で年齢にかかわらず臓器摘出が可能となる。参院では自民、民主両党の医師の議員らが中心に推している。

 これに対し、参院有志案の死の定義は、本人が臓器提供の意思を示していた場合に限り脳死を死と認める現行法を維持している。現行法との違いは、内閣府に「子どもの脳死臨調」を設置し、1年以内に脳死判定基準などを検討するとしている点。A案に慎重な民主党の千葉景子氏らが提出し、共産党を含む野党各党の52人が賛意を示す。全参院議員の2割を超す勢力だ。

 ただ、今後の審議はA案と参院有志案の対立ばかりでなく、A案派内の論争にも発展しかねない状況となりつつある。

 「とにかく、『脳死は人の死』というのはまずい」。24日、死の定義を現行法通りとしたD案(廃案)を衆院に提出したグループに近い参院議員は、A案の修正が必要との考えをにじませた。

 移植の推進を願うA案寄りの議員の中にも、死の定義の変更には慎重な人も少なくない。A案は「臓器移植を行う場合のみ法的脳死判定を受ける」とした現行法の規定を削除しているが、「中間派」を取り込むため、A案支持者の一部ではこの条文を復活させることなどが検討されている。また、A案の「親族への臓器優先提供規定」の廃止を検討している議員もいる。

 衆院ではA案に賛成した263人中、自民党が202人を占めた。このため、民主党のA案支持者には「民主側を固めれば大丈夫」との見方もあるが、ある自民党参院議員は「そんなに甘くない」と話し、修正も選択肢に入れるべきだと言う。

 ただ、A案支持者はこうした「現実派」ばかりでなく、修正を嫌う「理念派」も多い。両者が衝突する恐れもあり、簡単に修正には踏み出せない。A案側から早々に修正案を出すと、「ブレた」との印象を与えかねないという思惑もある。

 一方、参院有志案を提出した側も、必ずしも一枚岩ではない。24日午前、民主系会派の勉強会で、参院有志案の提出者の一人、谷岡郁子氏(民主)は「法制定後であっても子どもの脳死臨調的なものを持った方がいいのではないか」と語った。有志案の柱「子どもの脳死臨調」の設置を約束するなら、A案で構わないとも受け取られかねない発言だった。

 23日には民主党の西岡武夫参院議運委員長がA案の死の定義に疑問を示し、今国会での採決に消極的な姿勢を示す一幕もあった。参院でA案が修正されれば衆院の同意を得ねばならない。また、参院有志案が可決された場合も衆院での審議が必要で、いずれにせよ国会会期末(7月28日)に間に合わない可能性がある。

毎日新聞 2009625日 東京朝刊


臓器移植法改正案:野党が参院に対案提出

 参院の野党議員有志は23日、衆院を18日に通過した臓器移植法改正案(A案)の対案を参院に提出した。脳死の定義など骨格は現行法を踏襲し、子供の臓器移植について検討する「臨時子ども脳死・臓器移植調査会」(子どもの脳死臨調)を設置するのが柱。提出者は民主党の千葉景子氏ら9人、賛同者43人。提出者と賛同者の所属は民主、共産、社民、国民新、新党日本、無所属。自民・公明の与党両党議員にも賛同を呼び掛ける。

毎日新聞 2009624日 北海道朝刊


臓器移植法改正案:民主・西岡氏「国民投票も一案だ」

 民主党の西岡武夫参院議運委員長は23日の記者会見で、臓器移植法改正案について「脳死を人の死とすることに国民的コンセンサスがどの程度あるのかはっきりしていない。国民投票も一案だ」と述べ、脳死を一般に人の死とするA案の今国会での参院採決に消極的な考えを示した。現行の国民投票法は憲法改正以外の法案の国民投票を想定しておらず、西岡氏の提案が実現する可能性は低い。

 与党は23日の参院議運委理事会で、A案と、「子どもの脳死臨調」設置を柱とする対案の趣旨説明を24日の本会議で行うよう求めたが、民主党は「他の修正案が出る可能性がある」と同意しなかった。審議入りは26日の見通し。【山田夢留】

毎日新聞 2009623日 1925


臓器移植法改正:参院の野党議員有志がA案への対案提出

2009623 1036

 参院の野党議員有志は23日、衆院を18日に通過した臓器移植法改正案(A案)の対案を参院に提出した。脳死の定義など骨格は現行法を踏襲し、子供の臓器移植について検討する「臨時子ども脳死・臓器移植調査会」(子どもの脳死臨調)を設置するのが柱。

 提出者は民主党の千葉景子氏ら9人、賛同者43人。提出者と賛同者の所属は民主、共産、社民、国民新、新党日本、無所属。今後、自民・公明の与党両党議員にも賛同を呼び掛ける。

 A案が脳死を一般に人の死とし、本人が拒否しなければ家族の同意で0歳児から臓器摘出が可能となるのに対し、対案は、脳死の定義を現行法と同様に臓器摘出時に限って人の死とする▽子供からの臓器摘出の課題を検討する「子どもの脳死臨調」を内閣府に設置する。子どもの脳死臨調で検討するのは(1)子供の脳死判定基準(2)本人の意思確認や家族の関与(3)虐待された児童からの臓器摘出防止策--など。法施行後1年以内に結果をまとめ、首相に意見を述べる。

 提出後に記者会見した筆頭提出者の千葉氏は「参院として議論を深めるため、A案とは異なる観点の法案が必要だ」と提出理由を述べた。【鈴木直】


臓器移植法改正:民主議員ら、参院に対案提出へ

2009622 1945

 臓器移植法改正を巡り、衆院で可決したA案の対案づくりを進めていた民主、社民両党議員らの有志は22日、勉強会を開き、新法案を23日に参院に議員立法で提出することを決めた。脳死の定義など現行法の骨格を維持したうえで、子どもの臓器移植について検討する「臨時子ども脳死・臓器等移植調査会」(子どもの脳死臨調)を設置する。A案とともに週内に審議入りする方向で与野党で調整している。新法案は、民主党の千葉景子、森ゆうこ、社民党の近藤正道の各氏らが準備を進めている。

 衆院を18日に通過したA案は、脳死を一般に人の死とし、本人が拒否しなければ家族の同意で0歳児から臓器摘出が可能となる。

 対案は、脳死の定義は現行法同様、臓器摘出時に限って人の死とする。子どもからの臓器摘出については、内閣府に設置する「子どもの脳死臨調」で(1)子どもの脳死判定基準(2)本人の意思確認や家族の関与(3)虐待児からの臓器摘出防止策--を検討。法施行後1年以内に結果をまとめ、首相に意見を述べる。委員は15人以内の学識経験者とし、衆参両院の同意を得て首相が任命する。【鈴木直】


日本小児科学会:脳死の子からの臓器提供で検討委設置

2009621 2058

 日本小児科学会(会長、横田俊平・横浜市立大教授)は21日、脳死になった子どもからの臓器提供について検討する委員会を設置したと発表した。小児神経の専門家や法律家など10人の委員が、旧厚生省研究班が00年にまとめた6歳未満の脳死判定基準の妥当性などを検証する。

 現行法の法的脳死判定基準の対象は6歳以上。6歳未満は2回目の判定間隔を24時間以上と4倍にする基準がまとまっている。委員会では、科学的データを集めたり、患者家族らからヒアリングを進め、判定基準が社会に受け入れられるか、子どもと家族の自己決定についてどのように啓発するかについて議論するという。

 担当理事の土屋滋・東北大教授(小児病態学)は「長期脳死の子どもがいる中、脳死を人の死とすることを前提にした法律は議論が不十分で問題だ」と述べている。

 横田会長は「小児科学会は、一人でも脳死の子どもを作らないのが仕事。ドクターヘリ整備など医療体制が整っていない。法改正までの整備を行政に働きかけていきたい」と話した。【関東晋慈】


臓器移植法改正:民主、30日にも審議入りの意向

 民主党の簗瀬進参院国対委員長は19日の記者会見で、臓器移植法改正案の参院での審議入りについて「再来週にも可能ではないか」と述べ、今月30日にも参院厚生労働委員会で審議を始めたいとの意向を明らかにした。趣旨説明については、新たな改正案が出そろった上で「早ければ24日に参院本会議で行いたい」との考えを示した。

毎日新聞 2009619日 1936


クローズアップ2009:
「脳死は人の死」衆院可決(その1) 移植拡大は未知数

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 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 衆院本会議で18日、臓器移植法改正4法案のうち、脳死を人の死と認め、15歳未満の子どもからの臓器提供を可能にする案(A案)が大差で可決された。本人の意思表示がなくても家族の同意で提供が可能になるため、脳死臓器移植の拡大に期待が集まる。一方、死の定義の変更には慎重論があるほか、現在の移植医療が抱える課題も多い。審議の舞台は参院に移るが、成立までにはなお議論が続く。【永山悦子、関東晋慈、奥野敦史】

 ◇世界では主流 国民的合意まだ


 「国際ルールに立てば、今回可決された改正案以外に選択肢はない。参院も世界の視点に立って判断してほしい」。A案可決後に衆院第1議員会館で開かれた記者会見で、臓器移植患者団体連絡会の見目(けんもく)政隆幹事は語気を強めた。

 世界の多くの国では、脳死状態になった人から、本人が同意していなくても、家族の同意で移植が可能としている。日本移植学会の資料によると、本人の意思表示を必要としない制度を持つスペインでは、100万人あたりの年間心臓提供者数が12・5人に達するが、日本はわずか0・05人だ。

 一方、A案が成立した場合、さまざまな課題が指摘されており、参院審議への「宿題」が山積している。

 改正案を審議した衆院厚生労働委員会では、「脳死を人の死」とすることに、「日本では受け入れられない」など異論が相次いだ。毎日新聞の世論調査でも、現行法通り「臓器提供の意思を示している人に限るべきだ」が52%と過半数を占めるなど、死の定義の変更に、国民的な合意があるとは言えない。

 脳死判定についても、特に子どもの判定の難しさが指摘されている。毎日新聞が小児科のある全国の約500病院で07年に実施した調査では、脳死状態と診断された後、1カ月以上心停止に至らない「長期脳死」の子どもが全国に少なくとも60人いた。A案を推進する専門家は「正確な判定ができていない例が含まれている」と指摘するが、田中英高・大阪医科大准教授(小児科学)は「後に自発呼吸が戻る例もあり、多くの小児科医が子どもの脳死判定は難しいと感じている」と話す。

 また、脳死状態の患者が多く発生する救急医療現場は、人手不足が深刻で、移植数の拡大に対応しきれない可能性が高い。虐待されて脳死状態になった子どもが、本人の意思とは関係なく臓器提供の対象になる恐れを懸念する声も根強い。小児科医の多くは、虐待の有無について「適正に診断できるかどうか分からない」と考えているなど、A案が成立しても容易に移植が拡大するとは言い難い現状がある。

 世界保健機関(WHO)が来年5月に予定している臓器移植に関する指針改定では、腎臓などの生体移植や皮膚など組織移植の規制強化が求められているが、現行法には規定がない。〓島(ぬでしま)次郎・東京財団研究員(科学政策論)は「衆院の審議は死生観の議論に偏りすぎた。参院では、国際社会も求める課題に対応する審議が求められる」と話している。

 ◇提供者は81人 法施行後11年半で


 現行の臓器移植法では、法的脳死判定による死亡確認後に臓器提供が可能になる。移植できる臓器は、心臓、肺、肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓、小腸、眼球など。法施行後、11年半が経過したが、臓器提供者(ドナー)数は81人。年間10人前後で推移し、年間数千人のドナーがいる米国とは大きな差がある。

 成人を含め、移植を希望する患者は国内に約1万3000人いるとされ、移植待機患者の解消が大きな課題になっている。脳死による臓器提供が少ないため生体からの腎臓や肝臓移植に頼る状況となり、海外に比べ生体移植への依存度が突出して高い。

 一方、厚生労働省の研究班が06年に発表した調査結果によると、これまで国内で脳死移植できなかった15歳未満の子どもを含め国内の渡航移植患者は計522人。渡航先はアジアが中心で、増加傾向をたどっている。

 ◇「脳死」移植にのみ効力


 一般的な人の死は心臓が止まった心臓死だ。法律に定められてはいないが、医師が(1)心臓停止(2)呼吸停止(3)瞳孔の散大--という三つの兆候を確認して判断し国民が受け入れてきた。これに対し脳死は、人工呼吸器などで心臓は動いているものの、脳の機能が失われて治療しても回復しない状態を指す。医師は患者の深い昏睡(こんすい)など4項目を確認し臨床的に脳死診断を行う。さらに法的脳死判定を行う場合、自発呼吸の停止を含む5項目の確認を6時間以上あけて2回行う--という条件を満たす必要がある。

 脳死を人の死とするA案が成立した場合、移植を前提にしない治療でも脳死判定し死亡宣告につながるなど医療現場で混乱が起きるという懸念もある。衆院法制局によると、臓器移植法は臓器移植の手続きについて定めた法律で、その手続き以外に法律の効力は及ばない。このため、移植につながらない脳死判定による死亡宣告は法律上ありえないという。

 ◇A案なら提供者増える--日本移植学会副理事長の高原史郎・大阪大教授の話


 A案でなければ臓器提供者が増える可能性は皆無で、まずは一歩を踏み出せた。しかし今も日本で、臓器移植で助かる人が1日に20人も亡くなる現実があり、一日も早く法案を成立させ、施行してほしい。日本の医療界の移植技術は十分高いレベルにある。今後は提供家族に移植の手続きなどを説明する「移植コーディネーター」の充実、虐待児の見極めなど懸案とされている問題を、国民に誤解なく納得してもらえる形でクリアしていく必要がある。

 ◇日本は研究が不十分--米本昌平・東京大先端科学技術研究センター特任教授(科学史・科学論)の話


 (A案可決は)意外だ。多くの国が「脳死を人の死」としているというが、法律で定めているわけではない。米国や英国、フランスなどでは、脳死状態の判定はあくまで技術的な問題。医療者が慎重に脳死を死と解釈することを社会に問いかけながら、移植実績を積んできた。日本は立法の根拠となる研究が不十分だ。A案は参院で否決し、死について法で定義することの是非から議論しなければならない。

毎日新聞 2009619日 東京朝刊


クローズアップ2009:
「脳死は人の死」衆院可決(その2止) 参院審議、読めず

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>
 ◇民主「最優先ではない」

 臓器移植法改正案の審議は今後、参院厚生労働委員会に舞台を移すが、その行方は極めて流動的だ。

 参院審議は第1党の民主党がカギを握る。18日の衆院本会議で民主党の投票結果は、賛成41に対し反対64。参院民主党にもA案に慎重な議員は多いとみられている。97年に成立した現行法は、衆院通過時は「脳死は人の死」とする法案だった。だが、参院で修正され、本人が書面で臓器提供をする意思を示し、親族も同意している場合のみ、脳死を人の死とする今の法体系に落ち着いた。

 与党側は18日、19日の参院本会議でA案の趣旨説明をするよう提案した。だが、野党側は新たな改正案提出の動きを踏まえ、「他の案が出そろうのを待ちたい」と拒否。審議入りは来週以降に持ち越された。民主党の輿石東参院議員会長は18日の会見で、A案の審議について「最優先でやらなければならないとは思っていない」と慎重な姿勢をにじませた。

 民主党の森ゆうこ、社民党の近藤正道両参院議員らは、A案の参院送付に備え、脳死の定義を厳格化したC案を基にした対案をまとめている。子供の脳死判定は難しいとして、「臨時子ども脳死・臓器等移植調査会」(子ども脳死臨調)の設置を求める考えだ。

 審議を進める際のハードルも高い。A案を修正する選択肢はあるが、党議拘束がないため、協議は各党の国対委員会以外のルートで行わざるを得ず、時間がかかりそうだ。しかもA案提出議員には修正への拒否感が強い。

 参院民主党は、臓器移植法改正案より、廃止された生活保護の母子加算を復活させる法案審議を優先する方針。7月28日の会期末まで1カ月あまり。主な政党は党議拘束をかけておらず、仮にA案が否決された場合、衆院で3分の2以上の賛成で再可決するのは難しい状況だ。

 参院自民党には「衆院の結果に乗る議員が多いのでは」との楽観論もある。ただ、細田博之幹事長は18日、記者団に「参院の自主性に委ねたい。働きかけはしない」と語った。細田氏らは、臓器移植法改正を今期限りで引退する河野洋平衆院議長の花道にしようと、党内議論を促してきた。参院側にはこうした「けん引役」が見当たらない。【山田夢留】

 ◇「子供救える」に支持 A案、分かりやすさで大差


 「まるで総選挙なみだ」。A案提出者の河野太郎衆院議員(自民)は18日付メールマガジンで、連日の票固め作業をこう表現した。採決後も記者団に「(263票は)ほぼ票読みの通り」と語った。

 そもそも97年の通常国会で、脳死を人の死とする当初案が衆院を通過した際は、賛成320票、反対148票だった。A案への底堅い支持があるところに「要件の厳しいD案では移植数が増えない」とのA案提出者らの主張が功を奏した、とある野党議員は言う。

 それでもA案への賛成が、反対を100票近く上回ったことに、驚きの声も上がった。D案提出者の一人は「議論を重ねてきた議員にはA案の問題点が見え、慎重な意見が多かったのに……。(採決では)『子供の命が救える』側面だけをみて多くがA案に流れたのだろう」と分析する。

 「勝ち馬に乗る意識が働いた」という指摘もある。議長席前の投票箱には、白票(賛成)と青票(反対)が積み上がっていく。自民党幹部は「白票の束を見て賛成に流れた人も多かったのでは。直前に態度を変えた人もいたようだ」と見る。

 D案提出者はA案支持者の切り崩しを狙ったが、失敗に終わった。D案支持の議員は「D案に感じた好感触は、『AでもDでも良い』ということ」と振り返った。【鈴木直】

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 ◇臓器移植法改正案(A案)の要旨

 本案は、移植のための臓器摘出及び脳死判定にかかる要件について、本人の生前の臓器の提供等の意思が不明の場合に、遺族等が書面により承諾した場合を加える等の措置を講じようとするもので、その主な内容は次の通りである。

一 死亡した者の臓器提供の意思が不明な場合であって、遺族が書面により承諾している場合について、医師は、移植術に使用するために死体(脳死した者の身体を含む)から臓器を摘出することができるものとすること。

二 臓器の摘出において本人の脳死判定に従う意思が不明な場合であって、家族が書面により承諾している場合等について、医師は、脳死判定を行うことができるものとすること。

三 死亡した後に臓器を提供する意思を表示しようとする者等は、親族に対し当該臓器を優先的に提供する意思を書面により表示することができるものとすること。

四 政府は、死亡した被虐待児童から臓器が提供されることのないよう、移植医療にかかる業務に従事する者がその業務にかかる児童について虐待が行われた疑いの有無を確認し、及びその疑いがある場合に適切に対応するための方策に関し検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること。

五 この法律は、一部を除き公布の日から起算して1年を経過した日から施行すること。

毎日新聞 2009619日 東京朝刊


社説:臓器移植法改正 参院で議論を尽くせ

 脳死を人の死とする法案「A案」があっさり可決された。臓器移植法改正4法案をめぐる衆院本会議の採決に、とまどいを感じる人は多いのではないか。

 長年たなざらしにされてきた法案である。各案が十分に検討されたとはいえず、議員や国民の間に理解が行き渡っているとは思えない。参院は課題を改めて整理し、議論を尽くしてほしい。

 現行法では、本人と家族の両方の同意がある時に限り、脳死となった人を死者とみなし、臓器を摘出できる。移植を前提とする場合だけ「脳死は人の死」としたもので、15歳未満の子供からは臓器摘出できない。

 長い議論を経て成立した法律だが、脳死移植を推進する人々は、現行法の厳しさが臓器提供を妨げていると指摘してきた。小さい臓器を必要とする子供は国内移植ができず、海外に渡る人も多い。そこへ、世界保健機関(WHO)が国内移植の拡大を求める指針策定の動きを見せたことが法改正の動きを後押しした。

 A案はこの流れに乗ったもので、本人が拒否していなければ家族の同意で提供できる。大人の臓器提供を増やし、子供の国内移植を可能にすることをめざした内容だ。

 ただ、本人同意を条件からはずしたからといって、提供が確実に増えるとは限らない。家族が判断する際には本人の意思を推し量ろうとするはずで、それには前もって脳死や移植について話し合っておく必要があるだろう。これは、現行法の下でも、移植を進めようと思えば欠かせなかったことだ。しかし、現実には、国民の関心を高める努力は不十分なままだ。

 子供の場合には、脳死判定の難しさや、親の虐待による脳死を見逃さないようにするという課題もある。子供に限らず、提供者の死因をきちんと確かめる体制を確保しておくことは、脳死移植への信頼性を確保するために不可欠だ。

 親族に優先的に臓器提供できる規定についても、現行法が原則とする「公平性」の変更による弊害はないか。親族の範囲をどう限定するか。さらに慎重に検討すべきだ。

 現行法にせよ、A案にせよ、生体移植の規定がないことも問題だ。日本で多数実施されている生体移植では、臓器提供者に後遺症が残るなど、不利益が及ぶ場合がある。今は学会レベルの規定があるだけだが、提供者保護は法律で規定すべきではないか。

 移植を待つ患者側はA案を歓迎すると思われるが、脳死移植でも生体移植でも、提供者側への配慮を忘れてはならない。WHOの指針案の全体像を、きちんと把握した上での議論も欠かせない。

毎日新聞 2009619日 009


臓器移植法:「脳死は人の死」国民的合意まだ

 衆院本会議で18日、臓器移植法改正4法案のうち、脳死を人の死と認め、15歳未満の子どもからの臓器提供を可能にする案(A案)が大差で可決された。本人の意思表示がなくても家族の同意で提供が可能になるため、脳死臓器移植の拡大に期待が集まる。一方、死の定義の変更には慎重論があるほか、現在の移植医療が抱える課題も多い。審議の舞台は参院に移るが、成立までにはなお議論が続く。【永山悦子、関東晋慈、奥野敦史】

 「国際ルールに立てば、今回可決された改正案以外に選択肢はない。参院も世界の視点に立って判断してほしい」。A案可決後に衆院第1議員会館で開かれた記者会見で、臓器移植患者団体連絡会の見目(けんもく)政隆幹事は語気を強めた。

 世界の多くの国では、脳死状態になった人から、本人が同意していなくても、家族の同意で移植が可能としている。日本移植学会の資料によると、本人の意思表示を必要としない制度を持つスペインでは、100万人あたりの年間心臓提供者数が12.5人に達するが、日本はわずか0.05人だ。

 一方、A案が成立した場合、さまざまな課題が指摘されており、参院審議への「宿題」が山積している。

 改正案を審議した衆院厚生労働委員会では、「脳死を人の死」とすることに、「日本では受け入れられない」など異論が相次いだ。毎日新聞の世論調査でも、現行法通り「臓器提供の意思を示している人に限るべきだ」が52%と過半数を占めるなど、死の定義の変更に、国民的な合意があるとは言えない。

 脳死判定についても、特に子どもの判定の難しさが指摘されている。毎日新聞が小児科のある全国の約500病院で07年に実施した調査では、脳死状態と診断された後、1カ月以上心停止に至らない「長期脳死」の子どもが全国に少なくとも60人いた。A案を推進する専門家は「正確な判定ができていない例が含まれている」と指摘するが、田中英高・大阪医科大准教授(小児科学)は「後に自発呼吸が戻る例もあり、多くの小児科医が子どもの脳死判定は難しいと感じている」と話す。

 また、脳死状態の患者が多く発生する救急医療現場は、人手不足が深刻で、移植数の拡大に対応しきれない可能性が高い。虐待されて脳死状態になった子どもが、本人の意思とは関係なく臓器提供の対象になる恐れを懸念する声も根強い。小児科医の多くは、虐待の有無について「適正に診断できるかどうか分からない」と考えているなど、A案が成立しても容易に移植が拡大するとは言い難い現状がある。

 さらに、世界保健機関(WHO)が来年5月に予定している臓器移植に関する指針改定では、腎臓などの生体移植や皮膚など組織移植の規制強化が求められているが、現行法には規定がない。島(ぬでしま)次郎・東京財団研究員(科学政策論)は「衆院の審議は死生観の議論に偏りすぎた。参院では、国際社会も求める課題に対応する審議が求められる」と話している。は木へんに勝

 ◇「脳死」移植にのみ効力


 一般的な人の死は、心臓が止まった心臓死だ。法律に定められてはいないが、医師が(1)心臓停止(2)呼吸停止(3)瞳孔の散大--という三つの兆候を確認して判断し、国民が受け入れてきた。これに対し脳死は、人工呼吸器などで心臓は動いているものの、脳の機能が失われて治療しても回復しない状態を指す。法的脳死判定を行う場合、深い昏睡(こんすい)など5項目の確認を6時間以上あけて2回行う--という条件を満たす必要がある。

 脳死を人の死とするA案が成立した場合移植を前提にしない治療でも脳死判定し、死亡宣告につながるなど医療現場で混乱が起きるという懸念もある。衆院法制局によると、臓器移植法は臓器移植の手続きについて定めた法律で、その手続き以外に法律の効力は及ばない。このため、移植につながらない脳死判定による死亡宣告は法律上ありえないという。

 ◇提供者は81人


 現行の臓器移植法では、法的脳死判定による死亡確認後に臓器提供が可能になる。移植できる臓器は、心臓、肺、肝臓、膵臓(すいぞう)、腎臓、小腸、眼球など。法施行後、11年半が経過したが、臓器提供者(ドナー)数は81人。年間10人前後で推移し、年間数千人のドナーがいる米国とは大きな差がある。

 成人を含め、移植を希望する患者は国内に約1万3000人いるとされ、移植待機患者の解消が大きな課題になっている。脳死による臓器提供が少ないため生体からの腎臓や肝臓移植に頼る状況となり、海外に比べ生体移植への依存度が突出して高い。

 一方、厚生労働省の研究班が06年に発表した調査結果によると、これまで国内で脳死移植できなかった15歳未満の子どもを含め国内の渡航移植患者は計522人。渡航先はアジアが中心で、増加傾向をたどっている。

毎日新聞 2009618日 2346


臓器移植法:「脳死」から8年、身長も伸びた

 脳死を人の死とし、15歳未満の臓器提供に道を開く臓器移植法改正案が18日、衆院で可決された。「A案が成立すると、うちの子どものような生き方が認められなくなるのではないか」。長男みづほ君(9)が「長期脳死」の女性=関東在住=は、A案の大差での可決を知り、肩を落とした。

 みづほ君は00年、1歳のとき、原因不明のけいれんをきっかけに自発呼吸が止まり、脳内の血流も確認できなくなった。旧厚生省研究班がまとめた小児脳死判定基準の5項目のうち、人工呼吸器を外して自発呼吸がないことを確かめる「無呼吸テスト」以外はすべて満たした。それから8年、人工呼吸器をつけて自宅で過ごし、身長は伸び体重も増えた。

 「今後も移植が必要な人は、どんどん増えるだろう。さらに臓器が足りなくなれば、死の線引きが変わり、私たちの方へ近寄ってくるかもしれない」と不安を口にする。

 みづほ君は、この1年、状態は安定している。女性は「この子は『延命』しているのではない。こういう『生き方』をしている。参院の審議と判断に期待したい」と話した。【大場あい】

毎日新聞 2009618日 2201分(最終更新 619日 136分)


臓器移植法:我が子の命、思い揺れ 改正案、衆院可決

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A案が可決され、傍聴席で感慨深げな表情を見せる(右から)中沢啓一郎さん、奈美枝さん夫妻ら=国会内で2009年6月18日午後1時24分、藤井太郎撮影

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思いを語る石川祥行さん(右)と優子さん夫妻=福岡県久留米市で2009年6月17日午後2時39分、曽根田和久撮影

 脳死を人の死とし、15歳未満の臓器提供に道を開く臓器移植法改正案が18日、衆院で可決され、実現に向けて大きく前進した。法制定から12年。海外での渡航移植を強いられた家族や支援してきた医師らが一刻も早い成立に期待を寄せる一方、脳死状態に陥りながら今も命を刻み続ける子どもの家族は複雑な心境をのぞかせた。

 脳死を人の死とする臓器移植法改正案A案が衆院で可決されたのを受け、A案の推進派、反対派がそれぞれ東京都内で記者会見した。

 「(議員が投票する)札一つずつが、子どもの命のように見えた」。拡張型心筋症のため昨年12月に1歳4カ月で亡くなった一人息子、聡太郎ちゃんの遺影を手に国会で傍聴した中沢奈美枝さん(34)は、推進派の会見でそう振り返った。「聡太郎のことと同時に、脳死になった子の親御さんの気持ちが頭に浮かんで。母として同じ気持ちだと思う」と、涙を浮かべて話した。

 そして「これまで聡太郎のような子どもの命は、取り残され救われなかった。でも移植によって、別の命が取り残されてはいけないはず。救える命を救い、どんな立場の人もきちんと医療を受けたと納得できる制度が生まれてほしい」と話した。

 「胆道閉鎖症の子どもを守る会」の竹内公一代表も「今回、長年一緒に活動をしてきた仲間が、推進派と反対派に分かれてしまった。悲しくつらいが、しっかりした移植医療を定着させて誤解を解けば、いつか分かり合えると信じたい」と複雑な表情で語った。

 一方、反対派の会見で、東京都大田区の中村暁美さん(45)は「脳死の子は死んでいない」と体を震わせ訴えた。娘有里(ゆり)ちゃんは2歳8カ月の時、原因不明の急性脳症で「臨床的脳死」と診断された。中村さんは「亡くなるまでの1年9カ月間、温かく成長する体があり、娘を一度も死んだと思わなかった。今回の可決は心外」と怒りをあらわにした。

 「臓器移植法改悪に反対する市民ネットワーク」事務局の川見公子さんは「救急医療体制の整備など審議されていない問題も多い。参議院の良識に期待し、A案が弱い人の命を奪わないよう今後も頑張りたい」と強調した。【奥野敦史、河内敏康】

 ◇移植男児の父「患者優先して」


 拘束型心筋症のため、約2億円の募金を受けて渡米し、5月にロサンゼルス市内の病院で心臓移植を受けた長野県飯田市の小学2年、山下夏君(7)の父猛さん(34)は「夏のような思いをする人がいなくなる一歩だ」と語り、臓器移植法改正案の早期成立に期待を寄せた。

 4案が採決される異例の事態には「いろいろな考え方はあるが、海外に行かないと移植が受けられない現状を改善して、患者の思いを優先してほしい」と訴えた。【仲村隆】

 ◇「我が子の命、改正後押し」


 昨年2月、心臓移植のための海外渡航準備中に拡張型心筋症の長男丈一郎君(当時9歳)を亡くした福岡県久留米市の自営業、石川祥行(よしゆき)さん(37)と妻優子さん(37)はインターネット中継で衆院可決を見つめた。優子さんは「一つの大きな門が開いた」と話す一方、「移植は誰かの死があって成り立つもの。『可決してよかった』という言葉は使えない」と配慮も見せた。

 優子さんは「息子が生まれる前からの問題が大きく動いた。丈一郎の命には、改正を後押しする使命があったのかもしれない」。祥行さんは「法改正だけで移植は増えない。移植に対する医師の理解を底上げする必要がある」と話す。【曽根田和久】

毎日新聞 2009618日 2156分(最終更新 619日 012分)


臓器移植法:首相経験者5人がA案賛成 投票行動明らかに

2009618 2059分 更新:618 2141

 18日の臓器移植法改正案(A案)の衆院採決は記名投票で行われ、各議員の投票行動が明らかになった。A案に賛成した河村建夫官房長官は記者会見で「患者、ご家族のみなさん、それ(臓器)を得ずして亡くなった方々に思いをはせながら、立法府として一つの役割を果たした」と結果を評価した。

 A案には森喜朗元首相、小泉純一郎元首相、福田康夫前首相ら5人の首相経験者が賛成した。福田氏は「社会の考え方がまとまっていないことを踏まえ、臓器を物のように扱わず、慎重に移植医療に取り組む前提で賛成した」と語った。A案より臓器摘出要件が厳しいD案を支持し、A案の採決を棄権した安倍晋三元首相は「子供への臓器移植には賛成だが、脳死を人の一般的な死とすることには問題がある」と指摘した。

 D案支持でA案に反対した自民党の大島理森国対委員長は「放置することは立法府の不作為になる。結論が出たことは本当によかった」と結果を受け入れた。

 民主党では、執行部のうち小沢一郎、菅直人両代表代行、岡田克也幹事長がA案に賛成した。岡田氏は記者団に「可決は難しいと思っていた。すっきりした答えが出て喜ばしい」と語った。鳩山由紀夫代表は反対した。

 党として棄権した共産党の志位和夫委員長は記者会見で「拙速な扱いをしたのは大変遺憾だ」と批判。神職の資格を持つ国民新党の綿貫民輔代表は採決を欠席。毎日新聞の取材に「神社本庁をはじめ宗教団体からの陳情が多数あった」と明かし、「人間の尊厳に関係する問題。私も宗教人だから採決はまだ早いと思った」と語った。【中田卓二、小山由宇】


臓器移植法:麻生首相はA案に反対票

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衆院本会議で臓器移植法改正案のA案に反対票を投じる麻生太郎首相(右)=国会内で2009年6月18日午後1時13分、平田明浩撮影

 麻生太郎首相は18日の衆院本会議で、臓器移植法改正案のA案に反対票を投じた。首相は投票後、国会内で記者団に「私は(死の定義が現行法と同じ)D案に入れるつもりだった。人の命を救う臓器移植と、人の死をどう考えるかで正直悩まれた方も多いと思う。臓器移植に道を開くかたわら、脳死はまだ世の中の意見がきっちり固まっていないのではないかと私自身は思っていた」と語った。

 A案が可決されたことについては「臓器移植を望んでおられる方々にとって、立法府としての結論を出したというのは良かったんではないか」と述べた。

 A案を今国会で成立させるには参院での審議が必要で、衆院解散の時期にも影響すると見られるが、首相は「(影響は)ないと思う」と述べた。

 民主党の鳩山由紀夫代表もA案に反対し、「D案が良かった」と党本部で記者団に語った。反対の理由については「脳死を人の死と本当に認めていいのかという思いがあった」と述べた。一方で、A案の可決には「臓器移植への道が開かれたことは良かった」とも語った。【影山哲也、佐藤丈一】

毎日新聞 2009618日 1923分(最終更新 618日 2046分)


臓器移植法改正:15歳未満も臓器提供A案、衆院で可決

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衆院本会議で臓器移植法改正のA案が採決され、記名投票を行う議員ら=国会内で2009年6月18日午後1時6分、平田明浩撮影

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臓器提供に関する現行法とA案の比較

 衆院本会議は18日、臓器移植法改正4法案を採決し、脳死を一般的な人の死と認め、臓器提供の年齢制限を撤廃し、小児の提供に道を開くA案に430人が投票し、賛成263人、反対167人で可決した。現行法施行から11年半で脳死移植数が81例にとどまる中、臓器提供の機会を拡大すべきだとの意見が上回った。ただ参院側では新案提出の動きが出るなど、A案がそのまま可決される保証はない。衆院解散時期も絡むだけに、今国会で成立するかどうかなお不透明だ。

 ◇今国会成立は不透明


 死生観が問われるとあって、各党は党議拘束を外し、法案への賛否を各議員に委ねた。共産党は棄権した。

 今回の最大の焦点は、現行法が認めない、脳死した15歳未満の子どもからの臓器摘出を可能とするか否かだった。今の日本では、小児が自分の体のサイズにあう臓器の移植を受けるには、海外に渡るしかない。

 世界保健機関(WHO)は自国内での臓器移植拡大を求める指針決定に動き出しており、将来、渡航移植の道が狭められる可能性が高い。このため、4法案のうち15歳未満からの臓器摘出を認めるA、D両案が有力とみられていた。

 06年3月に提出されたA案は、脳死を一般的な人の死と定義し、本人が生前に拒否していなければ、年齢に関係なく家族の同意で臓器摘出が可能。一方、A案に批判的な議員が今年5月に提出したD案は、現行法通り臓器提供の意思を示していた人に限り脳死を人の死と認める。

 D案に対しA案支持者は、「移植が増えず、子どもの移植拡大にもつながらない」と批判的で、最終的に「成人・小児に限らず救える命を増やすための措置が必要」との声に支持が集まった。

 ただ、「脳死を人の死」とすることが医療一般に広がる懸念も指摘されている。5日の衆院厚生労働委員会でA案支持の冨岡勉氏(自民)は「臓器移植以外の場面で人の死を定めるものではない」と述べたが、同じA案支持の福島豊氏(公明)は「疑義を生むのであれば修正も当然あると思う」と発言し、足並みの乱れを見せた。

 A案については、本人意思が不明でも家族の同意があれば臓器摘出を認める点にも疑問が示されている。【鈴木直】

 ◇解説
国民的合意へ議論を

 脳死を人の死とする臓器移植法改正案のA案が可決され、衆院を通過した。A案は4案の中で明確に脳死移植を増やすことを目的にし、15歳未満からの臓器提供を可能にするものだ。海外での移植に頼ってきた子どもの国内での移植に道を開く意義は大きいが、克服すべき課題も多い。

 毎日新聞が今月行った世論調査では、15歳未満の臓器提供については、親の承諾を条件に「賛成」と答えた人が57%に上った。しかし、小児科医の間からは子どもの脳死判定の難しさや、虐待児の見極めがどこまで可能かなどの課題が指摘されている。

 また、脳死を一般的な人の死とすることについては、毎日新聞の世論調査でも現行法通り「臓器提供の意思を示している人に限るべきだ」が52%と過半数を占め、脳死は「人の死と認めるべきだ」は28%にとどまった。脳死を人の死とすることについて国民的な合意が得られていると言えず、今後、参院での審議などを通じてさらに幅広い議論が求められる。【関東晋慈】

毎日新聞 2009618日 1331分(最終更新 619日 025分)


Controversial child organ transplant bill passes Lower House

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Lawmakers vote on a revision to the Law on Organ Transplantation during a plenary session of the House of Representatives Thursday. (Mainichi)

A controversial bill to enable organ transplants from children under 15 years old passed the House of Representatives Thursday.

The plenary session of the Lower House approved a revision to the Law on Organ Transplantation aimed at paving the way for organ transplants among children by abolishing the age limit for organ donors.

The vote showed a majority of lawmakers were in support of expanding the opportunities for organ donors, with 263 supporting the bill and 167 against. Japan has seen only 81 cases of organ transplants from brain-dead donors over the past 11 1/2 years since the enactment of the current law.

However, since a separate bill is likely to be submitted to the House of Councillors, and with the dissolution of the Lower House looming, it remains uncertain if the bill will be passed into law during the current Diet session.

Under the current law, organ transplants from brain-dead children under age 15 are forbidden, and children in need of organs appropriate to their size have to travel overseas to undergo transplant surgery.

Since the World Health Organization (WHO) is poised to set out a policy calling on countries to perform more transplants domestically, it is likely that Japanese in need of organ transplants will have less opportunity to undergo the procedure abroad.

The revision bill, which was submitted to the Diet in March 2006, recognizes brain death as legal death and allows organ donations with family consent regardless of age, unless the deceased had ruled out organ donation before passing away.

A counter-bill, which was submitted in May this year by a lawmaker critical of the revision bill, limits organ donors to only those who had expressed their willingness to provide organs before their death and only recognizes brain death as legal death with such donors -- following in the footsteps of the current law.

Either of the two bills was regarded as likely to pass the Lower House. There were also two other bills to revise the current law that were put to the vote on Thursday -- one to ease the age limit for organ donors from under 15 to under 12, and another to define brain death more strictly than the current law.

Supporters of the bill that passed the Lower House on Thursday are critical of the May 2009 counter-bill, arguing that the latter "would not increase organ transplants nor lead to expanding transplants among children."

However, some are concerned that recognizing brain death as legal death could be commonly applied in medical care if the bill that cleared the Lower House was passed into law.

Tsutomu Tomioka, a Lower House member of the Liberal Democratic Party and supporter of the bill, said during a session of the Lower House Committee on Health, Welfare and Labor on June 5: "The bill is not intended to recognize brain death as legal death in situations other than organ transplants."

Yutaka Fukushima, a Lower House member of Komeito and a supporter of the approved bill, said, "If the bill sparks questions, it would be natural to revise it."

Opponents of the bill, meanwhile, question the provisions that allow organ donations with family consent even if the potential donors' intention before their death was unknown.

A public poll conducted by the Mainichi Shimbun earlier this month showed that 57 percent of respondents are in favor of organ transplants from brain-dead children under 15 if approval is received from the child's parents. However, the poll also showed that 52 percent of respondents believe brain death should be recognized as legal death only in cases where people had indicated that they would donate their organs, while only 28 percent said brain death should be generally recognized as legal death.

On Thursday, 430 lawmakers participating in the vote were allowed to support or oppose the bill regardless of their party policies, since the bill deeply concerns each individual's view on life and death. Members of the Japanese Communist Party, however, abstained from voting.

Click here for the original Japanese story
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57 percent in favor of organ transplants from children under 15 with parents' approval

(Mainichi Japan) June 18, 2009


臓器移植法改正案:衆院で18日採決 A、D案優位か

2009617 198分 更新:618 01

 臓器移植法改正4法案は18日、衆院本会議で採決される。投票結果への影響が指摘されている採決順は、17日の衆院議院運営委員会で提出順にA~Dとなった。案ごとに賛否を問い、先に過半数を得た時点で可決とし、他案は廃案となる。いずれも過半数に達しなければ、すべて廃案となる。今のところ、15歳未満からの臓器摘出を認めるA、D両案が優位とみられるが、過半数を得られるかどうかは微妙な情勢。

 提出されているのは▽脳死を人の死とし、本人の拒否の意思表示がなければ家族の同意で年齢に関係なく臓器提供を可能とするA案▽臓器提供が可能な年齢を現行の「15歳以上」から「12歳以上」に引き下げるB案▽脳死の定義を現行より厳しくするC案▽虐待などがないと確認したうえで家族の同意があれば15歳未満からの臓器提供を可能とするD案。

 棄権する共産党を除く各党は党議拘束を外して採決に臨む。【鈴木直】


臓器移植4法案:各賛成者が討論 18日採決

 衆院本会議は16日、4法案が提出されている臓器移植法改正案を巡り、各案賛成者が討論を行った。4法案は18日に採決予定。

 討論者は、A案=三原朝彦(自民)▽B案=佐藤茂樹(公明)▽C案=郡和子(民主)▽D案=野田佳彦(民主)の4氏。「脳死は人の死か」「15歳未満の子どもへの臓器提供を認めるべきか」などの論点を中心に、それぞれの意見を述べ、賛同を訴えた。【鈴木直】

毎日新聞 2009616日 2214


臓器移植:
「15歳未満から」賛成57% 親の承諾条件に--毎日新聞世論調査

 毎日新聞が13、14日に実施した臓器移植に関する世論調査(電話)で、臓器移植法改正論議の焦点となっている、脳死状態となった15歳未満の子どもからの臓器移植(摘出)について、親の承諾を条件に「賛成」と答えた人が57%に上った。00年2月の同じ調査では「賛成」が48%で、9年間で容認派が9ポイント増えた。脳死を一般的な人の死と認めるかどうかに関しては、現行法通り「臓器提供の意思を示している人に限るべきだ」が52%で過半数を占め、「人の死と認めるべきだ」は28%にとどまった。

 現行法では、15歳以上でないと臓器摘出ができないため一部の移植推進派議員は、人の死の定義は変えず、家族の同意などがあれば15歳未満からの摘出を可能とする改正法案(D案)を5月に提出した。こうした親の承諾を条件とした15歳未満からの臓器摘出については、6割近くが賛成する一方、「反対」は11%(00年調査13%)、「分からない」が23%(同33%)。国会には脳死を人の死とする改正案(A案)も出されているが、この点では現行法を支持する人が多く、「人の死と認めるべきでない」と答えた人も9%いた。【鈴木直】

毎日新聞 2009616日 東京朝刊


Dr.中川のがんから死生をみつめる:/11 心臓停止と臓器の死

 再び、生物の「死」について考えてみたいと思います。

 多細胞生物の死には、個々の細胞の死と、個体としての死があります。毛が抜ける、皮膚の細胞が垢(あか)になるなど、からだを作る約60兆個の細胞の1%程度が毎日死んでいると言われています。しかし、個々の細胞が死んでも、私たちは、それが一人一人の個体の死を意味するとは考えません。

 逆に、個体が「死んだ」からといって、その瞬間にすべての細胞が死ぬわけではありません。毎日1%の細胞が死んでいる「日常」から、全身すべての細胞が死にたえる瞬間まで、段階があるのです。「死」は、そのどこかの段階にあることになります。個体が死ぬ瞬間を、厳密に決めることは難しいのです。

 脳は体重の2%の重さしかありませんが、酸素を20%も消費します。このため、心臓の拍動が止まると酸素不足になり、神経細胞がすぐ死に始めます。心臓、肝臓、肺、小腸といった臓器の細胞も心臓が止まると、すぐに死にます。これらの臓器が、心臓の停止後には移植できない理由です。心臓は動いている「脳死」の提供者(ドナー)から移植するしかないのです。

 これに対し、腎臓は酸素不足にやや強く、心臓停止後1時間以内であれば移植できます。角膜はもっと長く生存でき、心臓停止後約10時間まで移植が可能です。個々の臓器や細胞が死ぬ時間は、まちまちなのです。

 一方、法律上の死はただ一つの時刻です。そこに徐々に死んでいくという考え方はありません。死亡診断書には死亡時刻の欄があり、そこに、私たち医師が一つの時刻を記入します。この時刻こそが「生と死の境」ということになるのです。いってみれば、「制度で定められた死」です。

 これまでの法律で、死を決める三つのポイントは、心臓の停止、呼吸の停止、瞳孔の散大でした。心臓、肺、脳という生命の維持に不可欠な三つの機能が停止すれば、死は後戻りできないものだからです。

 一方、脳の死だけで人の死とする「脳死」と、これに関連する臓器移植法の改正が、大きな議論になっています。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)

毎日新聞 2009616日 東京朝刊


臓器移植法改正案:年齢制限撤廃が焦点18日に採決

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現行の臓器移植法と改正案の比較

 A~Dの4案が国会に提出されている臓器移植法改正案は、18日に衆院本会議で採決されることが決まった。焦点は「15歳以上」に限定している、脳死者からの臓器摘出の年齢制限を撤廃するかどうかだ。また脳死を一般的な人の死とするかどうかも争点となっている。97年に成立した現行法は、付則に施行3年後の見直し規定があるにもかかわらず、一度も見直されていない。ただ、4法案とも成立の見通しは立っていない上、いずれかが成立しても10年で81件にとどまる脳死移植がどのくらい進むのかは、未知数の面がある。【鈴木直】

 ◇4法案とも成立の見通し立たず


 今の日本では、子供が移植を受ける場合、現行法では体にあうサイズの臓器を国内で入手できず、海外で手術を受けるしかない。年齢制限撤廃を認めるA・D両案の提出者は、渡航移植に一定の歯止めをかける意向の世界保健機関(WHO)の動向も踏まえ、国内での移植手術に道を開くべきだと訴える。

 一方、B案提出者は「小児の脳死判定基準など条件が整っておらず、時期尚早だ」と主張。C案提出者も慎重審議を求めている。

 ただ、年齢制限の緩和で移植が急増するかは不透明だ。A案提出者の河野太郎氏(自民)は5月27日の衆院厚生労働委員会で、移植学会の医師の個人的意見として「年間70~150件増えるのではないか」と説明したが、D案を出した笠浩史氏(民主)は「減ることはない」と答えるにとどめた。背景には、臓器提供をためらいがちな人も多い日本人の死生観がある。

 D案は15歳以上からの摘出に、本人の同意を条件とするなど制限を残している点でA案と違う。そのほか、現行法通り臓器提供の意思を示していた人の脳死だけを人の死とみなす点が、A案と決定的に異なる。

 「脳死を人の死」とする考え方について、「社会的に容認されている」とする河野氏らA案提出者に対し、B~D案提出者は「国民的合意は得られていない」と反論している。

 5日の同委ではA案提出者の一人、福島豊氏(公明)が「A案の修正もありうる」と発言し注目された。A案は、臓器移植を行う場合のみ法的脳死判定を受けるとした現行法の文言を削除しているが、この条文を残す可能性を示唆したものだ。

 衆院では修正は見送られたものの、いずれかの案が衆院を通過しても参院で修正されれば、再び衆院での審議が必要となる。

毎日新聞 2009616日 049分(最終更新 616日 1821分)


臓器移植法改正案:18日採決で合意自民・民主

 自民、民主両党は15日、4案が提出されている臓器移植法改正案について、16日に衆院本会議で討論を行ったうえで、18日に同本会議で採決する方針で合意した。採決は提出順にA~Dの順番で1法案ずつ行う。最初に過半数を得た法案が可決され、いずれも過半数に達しなければすべて廃案となる。「死生観にかかわる」として、多くの政党が党議拘束をかけず各議員に賛否の判断を委ねるほか、共産党は「審議不足」を理由に採決を棄権する見通し。過半数を得る法案があるのかも含め、採決の行方は見通せない状況だ。

毎日新聞 2009615日 2128


毎日世論調査:15歳未満からの移植親許せば賛成57%

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臓器移植に関する世論調査の結果

 毎日新聞が13、14日に実施した臓器移植に関する世論調査(電話)で、臓器移植法改正論議の焦点となっている、脳死状態となった15歳未満の子どもからの臓器移植(摘出)について、親の承諾を条件に「賛成」と答えた人が57%に上った。00年2月の同じ調査では「賛成」が48%で、9年間で容認派が9ポイント増えた。一方、脳死を一般的な人の死と認めるかどうかに関しては、現行法通り「臓器提供の意思を示している人に限るべきだ」が52%で過半数を占め、「人の死と認めるべきだ」は28%にとどまった。

 現行法では、民法で遺言状を作ることができる15歳以上でないと臓器摘出ができない。このため一部の移植推進派議員は、人の死の定義は変えず、家族の同意などがあれば15歳未満からの摘出を可能とする改正法案(D案)を5月に提出した。

 こうした親の承諾を条件とした15歳未満からの臓器摘出については、6割近くが賛成する一方、「反対」は11%(00年調査13%)、「分からない」が23%(同33%)。

 男女別では、賛成派は男性62%に対し、女性は53%で、女性の方が慎重な傾向がうかがえた。年代別では大きな違いはなかった。

 国会には脳死を人の死とする改正案(A案)も出されている。しかし、この点では現行法を支持する人が多く、「人の死と認めるべきでない」と答えた人も9%いた。【鈴木直】

毎日新聞 2009615日 2109分(最終更新 615日 2243分)


闘論:小児の移植、どうするか 田中英高氏/中沢啓一郎氏

 臓器移植法(97年施行)の改正4法案は、来週にも衆院で採決される。15歳未満の脳死移植を可能にするA案とD案は、脳死の扱いや提供条件を巡って立場が分かれている。

 ◇「脳死は人の死」、合意なし--大阪医科大准教授・田中英高氏


 脳死とはどんな状態か。脳死とされた人の脳の血流はあるのか、脳細胞はすべて死んでいるのか。85年に示された基準では、血流があって、脳細胞が生きていても、脳死判定基準を満たしたら脳死と判定されるのだが、これを多くの人は知らないのではないか。

 脳死移植を裏付けているのは、脳が死んだら、ほかの臓器もだめになり心停止する、という考え方だ。だが、脳死になっても長い間心停止しない例があることがわかってきた。脳がすべての臓器を支配するという考え方は科学的に間違っていると思う。「脳死は死」というのは、科学的理論ではなく社会的合意だ。体が温かい人の「死」を受け入れない人もいるだろう。脳死を人の死とし、家族の同意で提供可能とするA案が国会で通れば、議論も社会的合意もないまま、脳死が人の死となる。

 私は脳死移植に反対ではない。脳死を理解したうえで、臓器提供したい人がいれば、それはその人の使命だと思う。「(15歳未満は親の同意で提供可能とする)D案では臓器提供が増えない」という人がいるが、移植を進めるために法を改正する、という考えはおかしい。何が正しいかを議論しなければならない。

 日本小児科学会は05年4月、小児からの脳死移植実施に向けて、▽被虐待児からの臓器摘出防止▽小児の脳死判定基準の検証ならびに再検討▽小児の意見表明権の確保--という三つの基盤整備が必要という考えを表明した。今年は委員会を作り、小児脳死移植について検討するという。移植を必要とする子どもを救うこと、脳死となり臓器を提供する子どもの人権を守ることの両方の観点から議論することと思う。

 議論はまだ足りない。脳死は人の死かだけでなく、虐待をきちんと見分けられるか、子どもの意見表明をどう考えるか。小児科医としては議論が十分尽くされたとはいえない。国民と、国民の代表である国会議員が、さらに議論を詰めてほしい。

 ◇「子の死」、親は決められず--移植待機患者家族会「そうハートネットワーク」代表・中沢啓一郎氏


 一人息子だった聡太郎は生後10カ月だった昨年6月、突然高熱を出し、拡張型心筋症と診断された。治療法は海外での心臓移植しかなかった。10月に記者会見で募金を呼びかけると、必要な1億6600万円を上回り2億円を超えた。多くの人が移植医療を信頼している証しだろう。

 12月5日に渡米したが5日後に急変。1時間の蘇生治療後に医師から死亡宣告を受けた。1歳4カ月だった。同じ結果なら日本でみとりたかった。なぜ自分が外国にいるのかと思うと悔しかった。

 死亡宣告を受け、息子は戻ってこないと思った。息子の声は聞けないが、多くの人にお世話になったから、誰かに臓器を提供したかった。ただ、宣告前に提供意思を聞かれたら、素直に答えられなかっただろう。脳死状態を死とせず、親の同意で臓器提供するD案は、子どもの死を親に決めさせることになり、あまりに問題が多い。

 3年前、私の祖母は植物状態になった。私は延命治療に消極的で、その気持ちを父(65)に伝えると、「なんとしても生かす」と怒られた。家族の中でも考えは違う。その時になって、いろいろな気持ちが出てくるのが当事者なのだろう。息子の臓器は感染症の問題で結果的に提供できなかったが、「提供できる」という選択肢があることが大切だ。

 移植を待ちきれず、亡くなる子どもが大勢いる。息子も脳死移植が唯一の方法だった。人的、設備的問題で脳死判定が難しいと法改正に反対する人は、これらの子どもたちをどう救おうと努力しているのか。改正案は05年に提出されている。国会議員を含め、関心がない人がいるのはどの法案でも同じだろう。議論は十分尽くされているとみるべきだ。

 脳死とは脳の機能が失われ、回復不可能になった状態。たとえ、すべての国民が理解していなくても、米国のように医師が家族に脳死判定を詳細に説明して医療不信を払しょくできるはずだ。<構成・関東晋慈、高野聡/題字・書家、貞政少登>

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 ■ことば
 ◇小児の脳死移植

 現行の臓器移植法は15歳未満の臓器提供を認めていないため、小児の患者は渡航移植に頼らざるを得ない。A、D案以外には、年齢制限を12歳以上に広げるB案、脳死の定義を厳格化するC案がある。

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 ■人物略歴
 ◇たなか・ひでたか

 80年大阪医科大卒。同大小児科助手などを経て、97年より准教授。00年日本小児科学会倫理委員会委員。54歳。

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 ■人物略歴
 ◇なかざわ・けいいちろう

 脳死を人の死とするA案への改正を訴える患者家族会を4月に設立。横浜市在住、会社員。37歳。

毎日新聞 2009613日 東京朝刊


臓器移植法改正法案:投票方式も未定

 臓器移植法改正4法案の衆院本会議での採決方法も固まっていない。今後、議院運営委で調整するが、1本ずつ賛否を問う方式が想定されている。最初に過半数を得た法案が成立し、いずれも過半数に達しなければすべて廃案となる。先に廃案となった法案の賛成者が後の法案で再び賛成票を投じることもできるため、後になるほど可決の可能性が高まるとの指摘もある。順番を決める方法として、提出順や法案提出時の賛成者数などが検討されている。

 4法案すべてが否決される可能性もあり、9日の議運委の理事会で小坂憲次委員長は、どの案も成立しなかった場合でも廃案とせずに済む手続きを紹介した。本会議で「廃棄しないもの」と議決すれば委員会に付託できるとした衆院規則147条に基づくが、「過去に使われたことがない」(衆院議事課)ため定まった解釈もないのが実情だ。

毎日新聞 200969日 2339


臓器移植法改正案:衆院採決ずれ込みも 民主内でも慎重論

 臓器移植法改正4法案を審議していた衆院厚生労働委員会は9日、衆院本会議で中間報告を行い、同委での審議は打ち切られることになった。与党は同日の議院運営委員会で4法案の本会議採決を16日に行うことを提案したが、野党側は本会議での討論実施を求めて折り合わず、採決は16日以降にずれ込む可能性も出てきた。いずれかの法案が衆院を通過しても参院で一定の審議時間を確保する必要があり、衆院解散の時期も絡むため、今国会で成立するかはなお不透明だ。【鈴木直】

 「3年の見直し規定があるにもかかわらず11年半も経過した。これ以上の放置は許されない」。厚労委の田村憲久委員長は中間報告をこう締めくくり、本会議での早期採決を訴えた。民主党は当初、16日採決に応じる構えだったが、共産、社民両党が早期採決に強く反対しているうえ、民主党内にも慎重論が少なくないことに配慮。9日の政調関係者の会合では「採決は来週中、遅くとも23日」との方針を確認した。

 自民、民主両党が来週中の採決にこだわっているのは、参院審議への影響を考慮しているからだ。参院も衆院同様、4法案の支持が割れており、どの法案が参院に送られても「採決に至るのは容易ではない」(与党国対関係者)からだ。また、新たな修正案の動きもあり、与野党とも「1カ月以上は必要」との見方で一致している。来週中に衆院を通過すれば、途中で衆院解散がない限り会期末まで5週間が確保できる。

 ただ、現時点で衆院本会議での採決方法も固まっていない。4法案すべてが否決される可能性もあり、9日の議院運営委で小坂憲次委員長は、どの案も成立しなかった場合でも廃案とせずに済む手続きを紹介した。本会議で「廃棄しないもの」と議決すれば委員会に付託できるとした衆院規則147条に基づくが、「過去に使われたことがない」(衆院議事課)ため定まった解釈もないのが実情だ。

毎日新聞 200969日 2210


臓器移植法:改正案採決は16日に 与党提案

200969 125分 更新:69 1237

 与党は9日、4案が提出されている臓器移植法改正案について、採決を16日とする方針を衆院議院運営委員会に提案した。国会への提出順に沿って、A~Dの順番で一案ずつ採決する方向で調整している。

 4法案は9日午後の衆院本会議で、衆院厚生労働委員会の田村憲久委員長(自民)が審議経過の中間報告をした後、法案提出者がそれぞれ意見を表明する。

 現行法が成立した97年は、2法案を中間報告の2日後に採決した。与党や民主党などは「死生観にかかわる法案」との理由で党議拘束を外すうえ、今回は法案が四つあることから、1週間空けて採決することにした。【鈴木直】


臓器移植:改正4法案の審議終了 衆院厚労委

 衆院厚生労働委員会は5日、臓器移植法改正4法案についての質疑を行い、事実上、審議を終了した。9日の衆院本会議で中間報告を行い、再来週にも採決される見通し。4法案とも過半数の賛成を得られない可能性もあり、今後、4法案の採決方法をどうするかも焦点となる。

 5日の委員会では与野党14人が見解を表明。「考えが分かれ、委員会採決になじまない。本会議に付すべきだ」(民主・藤村修氏)との意見や、「議論は拡大している。国民的に議論が収れんするまで採決の延期を求める」(自民・赤池誠章氏)など採決に慎重な声もあった。

 衆院議院運営委員会は8日の理事会で、9日の本会議での中間報告を正式に決定。今後、委員会審議は行わず、1週間程度の時間を置いたうえで本会議で採決される見通し。

 採決日程や方法は議運委で調整するが、1本ずつ賛否を問う方式が想定されている。最初に過半数を得た法案が成立し、いずれも過半数に達しなければすべて廃案となる。先に廃案となった法案の賛成者が後の法案で再び賛成票を投じることもできるため、後になるほど可決の可能性が高まるとの指摘もある。順番を決める方法として、提出順や法案提出時の賛成者数などが検討されている。

 国会法の規定では、衆参両院は必要に応じて各委員会に中間報告を求めることができる。さらに、特別の事情があれば委員会審議を打ち切り、本会議で採決できるとしている。【鈴木直】

毎日新聞 200965日 2017


臓器移植法改正案:再来週にも衆院本会議で採決へ

200964 1956分 更新:64 2147

 衆院議院運営委員会は4日の理事会で、4案が提出されている臓器移植法改正案について、9日の衆院本会議で中間報告を行うことを決めた。厚生労働委員会での採決は省き、再来週にも本会議で採決する方向で調整している。

 改正案は、▽家族の同意があれば、脳死者からの臓器摘出を可能とするA案▽摘出可能年齢を現行の「15歳以上」から「12歳以上」に引き下げるB案▽脳死判定基準を厳しくするC案▽第三者機関でのチェックを前提に親の同意で14歳以下の臓器摘出を可能にするD案--の四つ。

 4案は5月27日の衆院厚労委員会で、実質審議に入った。5日の委員会でさらに質疑をした後、希望者が1人3分ずつ意見表明を行ったうえで、事実上審議を打ち切る。

 9日の本会議では田村憲久厚労委員長が法案審議の中間報告を行う。その場では採決せず、後日、与野党で日程や方法を協議する。

 現行法が成立した97年の審議には2法案が提出され、中間報告の2日後に採決した。しかし、今回は4案あるため、1週間程度の間を置くことを念頭に与野党で調整する見通しだ。【鈴木直】


臓器移植法改正案:A案成立求め決議提案議員ら約20人

200963 197

 臓器移植法の改正4法案のうち、脳死を人の死として年齢制限なく家族同意で臓器提供が可能になるA案の提案議員らが3日、東京都内で勉強会を開き、「国内の臓器提供を増やすためにはA案成立が不可欠」とする決議を初めて採択した。約20議員が賛同し、今後すべての国会議員に決議文を送って賛同を求める。


クローズアップ2009:臓器移植法改正案審議 小児移植に慎重論

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 ◇脳死判定の困難さ/虐待児の紛れ込み


 脳死臓器移植の拡大や適正化を目指す臓器移植法の改正4法案(いずれも議員立法)が、実質審議入りした。今年4月末現在で1万2240人に上る移植待機患者やその家族は、法改正で臓器の提供が増えることを期待する。一方、子どもの臓器提供に道を開く法改正には、慎重論が根強く、臓器移植を支える医療体制自体の不備を指摘する声もある。さまざまな課題に加え、議員一人一人の死生観に違いもあるだけに、4法案を巡る国会審議の行方は流動的だ。

 「子どもが海外で移植を受け、批判を受けている」「世界保健機関(WHO)も(自国内での移植拡大を)求めている」。27日、衆院厚生労働委員会で始まった審議では、改正法案の焦点の一つである小児脳死移植についても、議論が交わされた。重い心臓病などを抱え、海外で移植手術を受けるしか手だてがない子どもも多い。このため4案のうち対象を14歳以下に広げるA案などの支持者は「日本人を日本人が救える国に」と訴える。

 ところが、子どもの臓器提供には課題が多い。田中英高・大阪医科大准教授(小児科学)は(1)子どもの脳死判定は難しく、心停止まで時間がかかったり、後で自発呼吸が戻る例もある(2)保護者らによる虐待で脳死になった子どもが紛れ込む恐れがある(3)子どもの同意なく実施することは「子どもの権利条約」に反する可能性がある--などの問題点を挙げる。

 大阪府枚方市の市立枚方市民病院などが、長い脳死状態の続いた国内の子どもを調べたところ、心停止まで43~335日の期間があり、親が子の死を受け入れるまで100日以上を要した。同病院の田辺卓也・小児科主任部長は「脳死から心停止までの時間は親子にとって無意味ではない。多くの小児科医が年齢制限撤廃に抵抗を感じている」と話す。

 また、08年に日本小児救急医学会が公表した調査では、虐待を受けた子どもを「適正に診断できる」と答えた医師は12%にとどまり、「できない」が30%、「わからない」が50%だった。虐待した親が臓器提供に同意する恐れも指摘されている。日本小児科学会は、法改正にあたり、小児救急体制、提供者と患者の人権保護、家族の心のケアなどの整備を求めている。【関東晋慈、曽根田和久】

 ◇提供件数伸びぬ背景、医療体制の不備


 脳死臓器移植の件数が伸びない背景に、医療体制の不備を挙げる専門家も多い。日本救急医学会理事の有賀徹・昭和大教授(救急医学)は「提供者の家族へ説明する負担や、判定作業に医師が長時間拘束されるなど、現場の負担が大きい。法改正されても簡単には提供数が増えないのではないか」と話す。

 有賀教授らは06年度、臓器提供病院などを対象に脳死と考えられる症例が、脳死判定を経て臓器提供につながらなかった原因を調査した。その結果、163施設が「脳死判定をしていない」と回答。そのうち約3割が「時間がかかる」、約2割が「(家族への説明など)面倒な仕事になりそう」と理由を挙げた。

 全国的な医師不足の中、特に脳死患者の発生が多い救急現場の人手不足は深刻だ。法的脳死判定では、医師が2日近くかかりっきりになるため、一般の救急患者を断るケースもある。有賀教授は「提供数を増やすには、脳死判定を支援する医師の派遣体制や費用の手当てなどが必要」と語る。

 臓器移植に対する国民の意識の低さも長年指摘されてきた。厚労省研究班で国内の渡航移植の実態を調べた小林英司・自治医科大客員教授は「移植について学校で教える機会が少なく、家庭でも話題に上らないことが、移植への関心が低い大きな理由」と指摘する。【河内敏康、永山悦子】

 ◇審議の行方、流動的 採決順の調整難航も


 4法案はいずれもまだ成立の見通しは立っていない。自民、民主、公明各党は法案の一本化はせず、党議拘束もかけていない。衆院厚労委での採決も避け、本会議でいきなり採決する方針だ。ただ、どの案が衆院を通過しても参院で修正される可能性もあり、再び衆院での審議が必要となる。移植を巡る議論は、死生観にかかわるだけに、推進派、慎重派とも「拙速は避けるべきだ」との認識では一致しており、成立までに1カ月以上かける必要があるとの意見が強まっている。

 審議は移植推進派が主導しており、採決方法も4案への賛否を一つずつ順番に問う手法が検討されている。4案を一度に採決すると、各案とも過半数を取れず、すべて廃案となる可能性が高いためだ。

 順次採決は最初に過半数を得た法案が可決され、他は廃案となる。もちろん、4案とも過半数に達しなければすべて廃案となるが、4案すべてに賛成することも可能な点に違和感を持つ議員もいる。採決順が結果に影響を与えるという問題もある。4案の中で最も要件が緩和され、移植数が増加するとみられるA案が最初に採決され、否決されたとする。その場合、A案を支持した議員の中には「次善の策」として、A案の次に移植が増えるとされるD案の採決時には賛成に回る人もいる見通しだ。

 だが、A案より臓器摘出要件が厳しいD案を先に採決すれば、A案支持の議員はD案に反対する可能性が高い。採決が後になった方が有利になる側面もあり、採決順に関する意見調整が難航する可能性もある。【鈴木直】

毎日新聞 2009529日 東京朝刊


臓器移植法改正案:4案を比較検討 衆院厚労委、審議入り

 衆院厚生労働委員会は27日、A~Dの4案が議員立法で提出されている臓器移植法改正案について、実質審議に入った。各案の提出者に対し、与野党各8人が15分ずつ質疑をし、▽「脳死は人の死」か否か▽臓器提供に関する本人の意思確認の在り方--などを中心に論戦を繰り広げた。

 4案のうち、A案提出者の河野太郎氏(自民)らは、「脳死を一律に人の死」とするA案について、「世論調査の結果などから理解は得られている」などと主張した。

 法改正を巡る焦点は、15歳未満からの臓器摘出を認めるか否かだ。家族の承諾などがあれば摘出を可能とするD案提出者の根本匠氏(同)らは、「親が子供の気持ちをそんたくして意思表示することは可能だ」と説明した。

 移植推進派は今国会での法改正を目指しているが、4案とも廃案となる可能性もある。【鈴木直】

毎日新聞 2009528日 東京朝刊


臓器移植法改正案:実質審議入り 衆院厚労委

 衆院厚生労働委員会は27日、A~Dの4案が議員立法で提出されている臓器移植法改正案について、実質審議に入った。各案の提出者に対し、与野党各8人が15分ずつ質疑をし、▽「脳死は人の死」か否か▽臓器提供に関する本人の意思確認の在り方--などを中心に論戦を繰り広げた。

 4案のうち、A案提出者の河野太郎氏(自民)らは、「脳死を一律に人の死」とするA案について、「世論調査の結果などから理解は得られている」などと主張。これに対し、「社会的合意が形成されているか疑問だ」との反論もあった。

 法改正を巡る焦点は、現行法が禁じる15歳未満からの臓器摘出を認めるか否かだ。本人が生前に意思表示をしていなくとも、家族の承諾などがあれば摘出を可能とするD案提出者の根本匠氏(同)らは、「親が子供の気持ちをそんたくして意思表示することは可能だ」と説明した。

 移植推進派は今国会での法改正を目指しているが、4案とも過半数を得られず、すべて廃案となる可能性もある。【鈴木直】

毎日新聞 2009527日 1939分(最終更新 527日 2222分)


臓器移植法改正案:「脳死」「子ども」主張対立 法案提出者が討論会

 議員立法による臓器移植法改正案が計4案出そろい=表、国会への法案提出者が一堂に会した討論会(東京財団主催)が19日、東京都内で開かれた。出席者は同法の何らかの見直しが必要との認識では一致したものの、具体的な改正点では主張が大きく対立し、合意形成の難しさも浮き彫りになった。討論会の模様を紹介する。【江口一】

 ◇国際基準か社会的合意か/虐待どう見抜く


 出席したのは衆院議員で各案提出者の冨岡勉(自民)=A案▽石井啓一(公明)=B案▽阿部知子(社民)=C案▽岡本充功(民主)=D案=の各氏。

 4氏は各改正案の背景や狙いを紹介したが、脳死の法的な位置づけと、14歳以下の脳死者からの臓器摘出を認め、小児への移植に道を開くべきか否か、の2点で特に意見が割れた。

 ■死の定義

 脳死の位置づけでは、移植の実施にかかわらず法的な人の死と定義するA案と、本人が生前に臓器提供の意思表示をしている場合に限定して法的な死とする現行法を基本的に踏襲するB、C、D各案で立場が大きく異なった。

 A案の冨岡氏は「脳死から意識が戻り社会復帰した例はない。脳死を人の死と認めていないのは日本だけ」として、脳死を法的な人の死とすべきだと主張。改正されれば本人や家族の意思に反して脳死判定など移植手続きが進められるのでは、との懸念には「ありえない」と反論した。

 これに対し石井、阿部、岡本の3氏は、いずれも脳死を一律に人の死とすることに慎重な考えを示した。

 B案の石井氏は「脳死を人の死とする社会的な合意は得られていない。人の死は文化的、宗教的な土壌で異なり、国際的な基準に合わせる必要はない」と述べた。C案の阿部氏は「救急搬送に要した時間など、これまでの脳死移植の検証が不十分。また、脳死にはまだ科学的に追究すべき点がある」として、脳死判定の厳格化を訴えた。D案の岡本氏は「脳死だから治療をしても仕方がないなどと、本人や家族の意思に反する死としてはいけない」と話した。

 ■小児の場合

 小児の脳死移植では、脳死判定そのものの難しさと、虐待による脳死移植を防げるか、などが焦点だ。

 B案の石井氏は日本小児科学会の調査を引用し、「親が虐待の事実を隠せば、医師が見抜くのは難しい。また小児の脳死者は長期間生存することがあり、医学的に脳死判断が可能とする医師は3割にとどまる」などと紹介。提供年齢を12歳以上とした上で、被虐待児からの臓器摘出の防止対策や脳死判定基準の検証などの基盤を整え、段階的に法整備すべきだとした。

 提供年齢の制限は撤廃するとしたD案の岡本氏も虐待を懸念し、14歳以下の臓器提供では家族の同意に加え、院内の医師による第三者委員会の審査が必須と主張した。

 C案の阿部氏は「日本の小児の救急医療は(救命率などの)成績がきわめて悪い。小さな心臓を持った子が死ななければならない厳しい状況を何とかすべきだ」と小児医療自体の改善を訴えた。

 一方、A案の冨岡氏は「世論調査で国民の7割が14歳以下の臓器提供を容認している。脳死判定では6人以上の医師が厳しくチェックするため、虐待は見過ごされない」と強調した。

 ■件数増えるか

 法改正を目指す機運の背景には、脳死移植件数が99年の第1例以降、計81例にとどまる実態もある。だが、この日は「法改正で移植が劇的に増えるわけではない」との意見が続出した。

 A案の冨岡氏は「移植が増えない問題点は、法改正とは別にある」として脳死判定の煩雑さや国民性を挙げ、地域ごとに専門医による脳死判定チームを置くことなどの支援策を提案した。D案の岡本氏も「脳死者が全員、臓器を提供しても移植に必要な臓器は足りないという現実への理解も必要だ」と述べた。

 また、C案の阿部氏は、移植医療全体を見直すことを要請。法的な規制がない生体移植についてもルールを法律に盛り込むよう主張した。

毎日新聞 2009526日 東京朝刊


クローズアップ2009:臓器移植法改正案審議 小児移植に慎重論

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>
 ◇脳死判定の困難さ/虐待児の紛れ込み

 脳死臓器移植の拡大や適正化を目指す臓器移植法の改正4法案(いずれも議員立法)が、実質審議入りした。今年4月末現在で1万2240人に上る移植待機患者やその家族は、法改正で臓器の提供が増えることを期待する。一方、子どもの臓器提供に道を開く法改正には、慎重論が根強く、臓器移植を支える医療体制自体の不備を指摘する声もある。さまざまな課題に加え、議員一人一人の死生観に違いもあるだけに、4法案を巡る国会審議の行方は流動的だ。

 「子どもが海外で移植を受け、批判を受けている」「世界保健機関(WHO)も(自国内での移植拡大を)求めている」。27日、衆院厚生労働委員会で始まった審議では、改正法案の焦点の一つである小児脳死移植についても、議論が交わされた。重い心臓病などを抱え、海外で移植手術を受けるしか手だてがない子どもも多い。このため4案のうち対象を14歳以下に広げるA案などの支持者は「日本人を日本人が救える国に」と訴える。

 ところが、子どもの臓器提供には課題が多い。田中英高・大阪医科大准教授(小児科学)は(1)子どもの脳死判定は難しく、心停止まで時間がかかったり、後で自発呼吸が戻る例もある(2)保護者らによる虐待で脳死になった子どもが紛れ込む恐れがある(3)子どもの同意なく実施することは「子どもの権利条約」に反する可能性がある--などの問題点を挙げる。

 大阪府枚方市の市立枚方市民病院などが、長い脳死状態の続いた国内の子どもを調べたところ、心停止まで43~335日の期間があり、親が子の死を受け入れるまで100日以上を要した。同病院の田辺卓也・小児科主任部長は「脳死から心停止までの時間は親子にとって無意味ではない。多くの小児科医が年齢制限撤廃に抵抗を感じている」と話す。

 また、08年に日本小児救急医学会が公表した調査では、虐待を受けた子どもを「適正に診断できる」と答えた医師は12%にとどまり、「できない」が30%、「わからない」が50%だった。虐待した親が臓器提供に同意する恐れも指摘されている。日本小児科学会は、法改正にあたり、小児救急体制、提供者と患者の人権保護、家族の心のケアなどの整備を求めている。【関東晋慈、曽根田和久】

 ◇提供件数伸びぬ背景、医療体制の不備


 脳死臓器移植の件数が伸びない背景に、医療体制の不備を挙げる専門家も多い。日本救急医学会理事の有賀徹・昭和大教授(救急医学)は「提供者の家族へ説明する負担や、判定作業に医師が長時間拘束されるなど、現場の負担が大きい。法改正されても簡単には提供数が増えないのではないか」と話す。

 有賀教授らは06年度、臓器提供病院などを対象に脳死と考えられる症例が、脳死判定を経て臓器提供につながらなかった原因を調査した。その結果、163施設が「脳死判定をしていない」と回答。そのうち約3割が「時間がかかる」、約2割が「(家族への説明など)面倒な仕事になりそう」と理由を挙げた。

 全国的な医師不足の中、特に脳死患者の発生が多い救急現場の人手不足は深刻だ。法的脳死判定では、医師が2日近くかかりっきりになるため、一般の救急患者を断るケースもある。有賀教授は「提供数を増やすには、脳死判定を支援する医師の派遣体制や費用の手当てなどが必要」と語る。

 臓器移植に対する国民の意識の低さも長年指摘されてきた。厚労省研究班で国内の渡航移植の実態を調べた小林英司・自治医科大客員教授は「移植について学校で教える機会が少なく、家庭でも話題に上らないことが、移植への関心が低い大きな理由」と指摘する。【河内敏康、永山悦子】

 ◇審議の行方、流動的 採決順の調整難航も


 4法案はいずれもまだ成立の見通しは立っていない。自民、民主、公明各党は法案の一本化はせず、党議拘束もかけていない。衆院厚労委での採決も避け、本会議でいきなり採決する方針だ。ただ、どの案が衆院を通過しても参院で修正される可能性もあり、再び衆院での審議が必要となる。移植を巡る議論は、死生観にかかわるだけに、推進派、慎重派とも「拙速は避けるべきだ」との認識では一致しており、成立までに1カ月以上かける必要があるとの意見が強まっている。

 審議は移植推進派が主導しており、採決方法も4案への賛否を一つずつ順番に問う手法が検討されている。4案を一度に採決すると、各案とも過半数を取れず、すべて廃案となる可能性が高いためだ。

 順次採決は最初に過半数を得た法案が可決され、他は廃案となる。もちろん、4案とも過半数に達しなければすべて廃案となるが、4案すべてに賛成することも可能な点に違和感を持つ議員もいる。採決順が結果に影響を与えるという問題もある。4案の中で最も要件が緩和され、移植数が増加するとみられるA案が最初に採決され、否決されたとする。その場合、A案を支持した議員の中には「次善の策」として、A案の次に移植が増えるとされるD案の採決時には賛成に回る人もいる見通しだ。

 だが、A案より臓器摘出要件が厳しいD案を先に採決すれば、A案支持の議員はD案に反対する可能性が高い。採決が後になった方が有利になる側面もあり、採決順に関する意見調整が難航する可能性もある。【鈴木直】

毎日新聞 2009529日 東京朝刊


臓器移植:
公開講座に250人参加 提供年齢撤廃など求め--千葉 /千葉

 国会で審議中の臓器移植法改正案について考える公開講座「国内で生命を救える日本へ」が24日、千葉市中央区の三井ガーデンホテル千葉で開かれた。医療関係者や患者ら約250人が参加。臓器提供の年齢制限を撤廃し、家族の同意のみで摘出を可能にする改正案(A案)を採決するよう求めた。

 主催した日本移植学会の寺岡慧理事長は「移植を待ちながら亡くなる人が多い中、少しでも多くの命を救えるよう協力してほしい」と話した。高原史朗副理事長は「本人の意思に反する移植を防ぐには、生前に多くの人が移植の可否を意思表示するためのインフラ整備が必要」と語った。

 25年前に腎臓移植を受けた大久保通方・臓器移植患者団体連絡会代表幹事は、国会での採決の遅れに対し「たくさんの救われなかった患者を見ている。いいかげんにしてほしい」と怒りをあらわにした。心臓のドナーが現れず、拡張型心筋症の夫を亡くした女性は「日本人が日本人を救えない制度でどうするのか」と涙をこらえて訴えた。【黒川晋史】

毎日新聞 2009525日 地方版


臓器移植法改正案:年齢制限撤廃案、衆院委審議入り

 衆院厚生労働委員会は22日、臓器移植法の第4の改正案(D案)の趣旨説明を行い、審議入りした。D案は脳死の定義など現行法の枠組みを維持したうえで、臓器摘出の年齢制限を撤廃し、15歳未満の子供の臓器移植を可能とする。提出者の根本匠衆院議員は「小児の臓器移植を可能にする一方、脳死を人の死とすることに慎重な人の心情にも配慮する道を探った」などと提出理由を説明した。

 27日の同委員会で、既に審議入りしているA~C3案とともに質疑を行い、実質審議に入る。【鈴木直】

毎日新聞 2009522日 東京夕刊


臓器移植法改正:第4の案も審議入り 衆院厚労委で

 衆院厚生労働委員会は22日、臓器移植法の第4の改正案(D案)の趣旨説明を行い、審議入りした。D案は脳死の定義など現行法の枠組みを維持したうえで、臓器摘出の年齢制限を撤廃し、15歳未満の子供の臓器移植を可能とする。提出者の根本匠衆院議員は「小児の臓器移植を可能にする一方、脳死を人の死とすることに慎重な人の心情にも配慮する道を探った」などと提出理由を説明した。

 27日の同委員会で、既に審議入りしているA~C3案とともに質疑を行い、実質審議に入る。【鈴木直】

毎日新聞 2009522日 1115


臓器移植法改正案:自・民有志、「第4案」提出 15歳未満、条件付き容認

 今国会に3案が提出されている臓器移植法改正を巡り、自民、民主両党の有志7議員は15日、第4の案を議員立法で提出した。脳死の定義など現行法の枠組みを維持したうえで、第三者機関による監視を条件に15歳未満の臓器摘出を認める。

 現在審議中の改正案は、脳死を一律に人の死とし、臓器摘出の年齢制限を撤廃=A案▽現行法と同様、移植の場合に限り脳死を人の死とし、臓器摘出が可能な年齢を現行の「15歳以上」から「12歳以上」に引き下げる=B案▽現行法より脳死の定義を厳しくする=C案=の3案。

 新たに加わる「D案」は、自民党の根本匠、民主党の笠浩史両衆院議員ら7人が提出。臓器摘出に際し、15歳以上は現行通り本人の意思表示と家族の同意を要件とする。15歳未満については、法律の運用上、本人の意思表示が有効とされていないため、子供の生前の意向も踏まえて家族の同意により摘出を認める。

 施行は成立から1年後。付則に3年後をめどに検討することを盛り込んだ。【鈴木直】

 ◇採決方法が難題に


 臓器移植法改正を巡り、提出された4法案を今国会でどう採決するかという新たな難問が浮上している。国内での臓器移植の拡大に向け、与野党とも採決自体は容認する意見が大勢だが、議員個人の死生観にかかわる問題だけに、事前の法案の絞り込みは難しい状況。このままでは4案とも過半数の賛成を得られず、廃案になる可能性があるためだ。

 自民党の村田吉隆国対筆頭副委員長は15日、国対の会合で採決方法の検討状況を中間報告した。ただ、今のところ妙案はなく、その後の記者会見では「もう少し具体的な例を考えながら検討する」と述べるにとどめた。

 最もオーソドックスなのはA~D案を個別に採決し、成案を得る方法。脳死を人の死とみなすA案と、現行法同様、本人が生前に意思表示している場合に限って脳死を人の死とするB~D案は根本的に違うため、修正協議が難しいことを想定したものだ。

 しかし、この場合は採決の順番が問題になる。最初の法案が否決され、その法案の支持者が別の法案の賛成に回れば、後で採決される法案ほど有利になりかねない。順番を(1)くじ引きする(2)国会提出順とする(3)現行法との内容の差で決める--などの案が検討されたが、いずれも決め手を欠いている。

 D案を起草した鴨下一郎前環境相は、首相指名選挙にならい、1回目の投票で過半数を得た案がなければ、上位2案で決選投票する方法を提起した。しかし、「議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数で決する」という憲法56条第2項の規定に抵触する疑いがあり、村田氏は消極的だ。【木下訓明】

毎日新聞 2009516日 東京朝刊


臓器移植法改正:4案提出で採決方法が難題に

 臓器移植法改正を巡り、提出された4法案を今国会でどう採決するかという新たな難問が浮上している。与野党とも採決自体は容認する意見が大勢だが、議員個人の死生観にかかわる問題だけに、事前の法案の絞り込みは難しい状況。このままでは4案とも過半数の賛成を得られず、廃案になる可能性があるためだ。

 自民党の村田吉隆国対筆頭副委員長は15日、国対の会合で採決方法の検討状況を中間報告した。ただ、今のところ妙案はなく、その後の記者会見では「もう少し具体的な例を考えながら検討する」と述べるにとどめた。

 最もオーソドックスなのはA~D案を個別に採決し、成案を得る方法。脳死を人の死とみなすA案と、現行法同様、本人が生前に意思表示している場合に限って脳死を人の死とするB~D案は根本的に違うため、修正協議が難しいことを想定したものだ。

 しかし、この場合は採決の順番が問題になる。最初の法案が否決され、その法案の支持者が別の法案の賛成に回れば、後で採決される法案ほど有利になりかねない。順番を(1)くじ引きする(2)国会提出順とする(3)現行法との内容の差で決める--などの案が検討されたが、いずれも決め手を欠いている。

 D案を起草した鴨下一郎前環境相は、1回目の投票で過半数を得た案がなければ、上位2案で決選投票する方法を提起した。しかし、憲法56条第2項の規定に抵触する疑いがあり、村田氏は消極的だ。【木下訓明】

毎日新聞 2009515日 2235分(最終更新 515日 2247分)


臓器移植法改正:第4案を自・民7議員が提出

 今国会に3案が提出されている臓器移植法改正を巡り、自民、民主両党の有志7議員は15日、第4の案を議員立法で提出した。脳死の定義など現行法の枠組みを維持したうえで、第三者機関による監視を条件に15歳未満の臓器摘出を認める。

 審議中の改正案は、脳死を一律に人の死とし、臓器摘出の年齢制限撤廃=A案▽現行法同様、移植の場合に限り脳死を人の死とし、臓器摘出が可能な年齢を現行の「15歳以上」から「12歳以上」に引き下げる=B案▽現行法より脳死の定義を厳しくする=C案=の3案。

 新たに加わる「D案」は、自民党の根本匠、民主党の笠浩史両衆院議員ら7人が提出。臓器摘出に際し、15歳以上は現行通り本人の意思表示と家族の同意を要件とする。15歳未満については、本人の意思表示が有効とされていないため、子供の生前の意向も踏まえて家族の同意により摘出を認める。【鈴木直】

毎日新聞 2009515日 2201分(最終更新 515日 2221分)


臓器移植法:改正巡り現場医師ら意見交わす--岡大鹿田キャンパス /岡山

 ◇提供年齢に制限を設けない案、支持する出席者目立つ


 国会で改正案が審議されている臓器移植法を巡り、現場の医師らが改正案について意見を交わす座談会が11日、岡山大鹿田キャンパスであった。子供の臓器提供や脳死の位置付けなどで立場が異なる改正3案の中では「脳死を人の死と認め、臓器提供年齢に制限を設けない」などとする案を支持する出席者が目立った。【石戸諭】

 臓器移植法の改正議論では、脳死は人の死か▽現在15歳以上となっている脳死臓器提供の年齢制限を見直すか▽臓器提供の条件--を主要な論点に、A~Cの3案が提出されている。さらに、「家族の同意があれば15歳未満でも提供可能」などとした案を追加する動きもある。

 座談会には日本移植学会副理事長の高原史郎・大阪大大学院教授をはじめ、岡山大の医師らが出席。高原教授が日本の現状について世界各国と比較し、「WHO(世界保健機関)も脳死は人の死、臓器提供に年齢制限はなく、家族の同意で移植は可能としている。日本の臓器提供数は海外と比べてかなり低い」などと説明した。

 また、高原教授は、08年5月にWHOと国際移植学会が、臓器売買や非合法な海外渡航移植の禁止や、自国でドナーを増やし、臓器移植を増やすことなどを内容とする共同声明を発表して以降、「国外で子供の臓器移植が受けにくくなっているのが現実」と強調。「日本で手術を希望する患者はたくさんいる。提供の意思を生かすにはどの案がいいか考えてほしい」と述べた。

 岡山大病院などで移植や救急を担当する医師からは、「移植を希望しているのに臓器が足りていない。肺移植では3年待てずに亡くなっていく方もいる。臓器によっては10年以上待ってもらわざるをえない」と移植現場の実情を訴える意見が相次ぎ、「臓器提供を増やし、待機中の患者を少しでも救うための法整備が必要」として脳死を容認し、移植拡大に道を開く案が支持を集めた。また、「生命維持装置を付けた姿に、死と受け入れるべきなのかどうか家族が戸惑うケースもある」などの意見もあった。

毎日新聞 2009513日 地方版


社説:臓器移植法改正 にわか勉強では困る

 何年もたなざらしにされてきた臓器移植法改正案をめぐる議論にこのところ動きがある。世界保健機関(WHO)が移植の指針を改正し、海外での移植が難しくなるのではないかとの見通しがあるからだ。

 ただ、指針の主眼は臓器売買にからむ「移植ツーリズム」の規制と考えられる。通常の渡航移植がどこまで制限されるかは必ずしもはっきりしない。しかも、新型インフルエンザ対策に追われるWHOは、指針改正を1年先送りする見通しだ。

 臓器移植法の変更は、人々の死生観や医療への信頼にかかわる重い課題である。国会議員が勉強不足のまま「一夜漬け」で採決することは避けたい。WHOの動向もにらみ、腰を落ち着けて議論すべきだ。

 現行法では、脳死となった人から臓器を取り出して移植するには、本人と家族の両方の同意がいる。長年の議論を経て、「脳死は人の死」とは考えない人にも配慮した内容で、15歳未満の子供からは臓器摘出できない。

 これに対し、河野太郎衆院議員らが推す改正「A案」は、脳死と判定された人を一律に「死者」とみなす。年齢にかかわらず、本人が拒否していなければ、家族の同意で臓器を摘出できる。

 確かに、国内で移植が受けられないから、海外で受けるという実態に問題はあるだろう。家族の同意だけでよければ海外に頼っている子供の心臓移植も可能になる。国内での提供も増えるかもしれない。

 ただ、子供は大人より脳死判定が難しいとの指摘もある。脳死の背景に虐待がないことを、どう確かめるかといった課題も残る。加えて、「脳死は人の死」と考えない人も提供者となりうることを国民が受け入れるか、よく検討する必要がある。

 現行法の土台は変えず、臓器提供に同意できる年齢を12歳まで引き下げる「B案」や、15歳未満は家族の同意などで臓器提供できるようにする「D案」も提案されている。子供の移植を可能にしようとの考えだが、大人でも難しい問題を12歳の子供に決めさせることの是非などは、よく考えるべきだ。

 現行法の規定は脳死移植が中心だが、生体移植にも提供者保護など課題は多い。「C案」が提案するように、生体移植を法規制の対象とすることは必要だ。

 どのような改正をするとしても、提供者を増やそうと思ったら、ドナーカードの普及に力を入れることが大前提だ。人々が普段から脳死移植について考え、家族で話し合っておくことも欠かせない。そうでなければ、たとえ「A案」を選んでも、脳死になった家族の意思を推し量ることさえできない。

毎日新聞 2009511日 008


臓器提供:「14歳以下も可能に」自・民有志が第4案

 国会にA~Cの3案が提出されている臓器移植法の改正をめぐり、自民、民主両党の有志議員は8日、家族の同意があれば、脳死した14歳以下の子どもでも臓器提供を可能とする第4のD案を公表した。来週中に両党内の手続きを終え、15日にも議員立法で国会に提出する。ただ、4法案とも過半数の賛成を得られず、廃案になる可能性もある。

 D案は現行法同様、本人が生前に臓器提供の意思表示をしていた場合のみ、脳死でも人の死とする内容。臓器摘出については、現在禁じている14歳以下でも、生前に本人が拒否せず、家族が書面で同意すれば認める。その際、▽医療行為が適切だったか▽虐待を受けた疑いがあるかどうか--について確認することを求めている。

 確認をするのは、摘出をする医療機関に設置する倫理委員会のような、第三者機関を想定している。【鈴木直】

毎日新聞 200958日 2122分(最終更新 58日 2346分)


WHO:総会日程を短縮 渡航移植の指針採択先送りへ

 【ジュネーブ澤田克己】世界保健機関(WHO)は7日、新型インフルエンザ対策を優先させるため、18日から27日まで予定されていた今年の総会日程を22日までの5日間に短縮することを決めた。WHO関係者が明らかにした。予算やインフルエンザ対策など最低限の内容に絞られる見込みで、総会で予定されていた国内での臓器移植拡大を求めるガイドラインの採択は来年の総会に先送りされる方向となった。

 渡航移植をめぐっては、国際移植学会が昨年5月、自国外での移植の自粛を求める「イスタンブール宣言」を発表。これまで日本人患者を受け入れていた米国やドイツの病院から、受け入れを断られるケースが報告されている。

 ◇臓器移植法改正案の議論に影響も


 世界保健機関(WHO)が海外での臓器移植自粛を求める指針決定を1年先送りしたことは、日本の臓器移植法改正案の議論にも影響しそうだ。ただ、今国会で同改正案成立を目指す動きが進んでいるのは、数カ月以内に行われる衆院選で議員の顔ぶれが変われば、また一から議論し直さなくてはならなくなるという事情もある。国会も採決を先送りするかどうかは不透明だ。

 今国会で臓器移植法の改正議論が加速したのは、今月WHOの指針が決まり、今後海外で移植を受けるのが困難になりそうというのが理由の一つ。

 しかし、WHOの力点は臓器の不正売買防止にあり、指針が渡航移植をどこまで制限するかははっきりしない。移植推進派にはむしろ衆院選が大きな壁となっており、「選挙前に成立しなければまた数年かかる」(野党議員)という思いが強い。修正法案づくりをリードした自民党の鴨下一郎衆院議員は、「海外での移植をやめようという方向性が変わったわけではない。WHOの主要国としての責任を果たす必要はある」と指摘する。

 ただ、各議員の死生観を問われる重いテーマだけに、拙速な審議を戒める声も根強く残る。今後、WHOに合わせ、結論を先送りする動きが出てくる可能性もある。【鈴木直】

毎日新聞 200958日 000分(最終更新 58日 111分)


臓器移植法:新改正案、連休明けにも議員立法で提出へ

 臓器移植法改正を巡り、衆院厚生労働委員会の鴨下一郎(自民)、藤村修(民主)両筆頭理事らは30日、既に国会に提出されている3法案とは別の新たな改正案の骨子について合意した。病院内に置く第三者機関が監視することを条件に、15歳未満の子供からの臓器摘出を可能とするほかは、脳死の考え方は移植段階で脳死を人の死とする現行法の枠組みを維持する。法改正後も議論を深めるため、数年後の見直し規定も盛り込む方針だ。大型連休明けの5月中旬に議員立法で提出する。

 自民、民主両党有志議員の会合後、藤村氏が記者団の取材に「(脳死を一律に人の死とする)A案では2段も3段も飛んでいるという慎重な声が大きい。日本社会はまだ完ぺきに許容できない」と、新案を提出する理由を説明した。

 新案では、そのうえで15歳未満の臓器移植に道を開くため、医師が遺族に十分な説明をしたか▽児童虐待や臓器売買とは関係がない--ことなどを監視する第三者機関の設置を法律上明確にする。本人の拒否がある場合も摘出できない。15歳以上は、現行法通り生前に文書で意思表示し、家族が同意した場合に限る。

 3~5年後の見直し規定も設け、その間に臓器移植の議論を深めるために、首相の諮問機関として90~92年に設置された「脳死臨調」のような機関の設置も提案する方針だ。

 鴨下、藤村両氏は新案検討の中心メンバーだが、衆院厚労委筆頭理事という立場上、法案提出者にはならないという。【鈴木直】

毎日新聞 2009430日 1930分(最終更新 430日 1936分)



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