Japanese Homeless
一寸先はホームレスの社会

雑誌:「ホームレスと社会」創刊 明石書店

2010127 1043分 更新:127 1142

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雑誌「ホームレスと社会」を創刊した編集委員会の水内俊雄さん=松本博子撮影

 ホームレスやネットカフェ難民を支援する現場から情報を発信する雑誌「ホームレスと社会」が明石書店から創刊された。ホームレスになる人が大都市だけでなく地方でも増加、派遣切りが中高年から若者へと広がる中、編集委員会の中心メンバーで、大阪市立大大学院教授の水内俊雄さん(53)は「個人がどんな困難に直面しているか、見える雑誌にしたい」と話している。

 全国の支援活動を網羅し、99年から発行を続けてきた季刊誌「シェルターレス」(NPO新宿ホームレス支援機構発行)が資金難で廃刊したことから、有志が「ホームレスと社会」の創刊に踏み切った。創刊号は「派遣村の経験とホームレス支援」を特集。08年末に開設された年越し派遣村で村長を務めた湯浅誠さんらが体験を語るほか、大阪で仕事と住まいを失った若者を助ける「大阪希望館」などの活動を紹介している。

 4月に発行する次号は、一部が貧困ビジネスとして問題視される無料・低額宿泊所や、安心できる居場所づくりなどを特集する。水内さんは「同じ条件を持つ人でも、生活再建のために利用できる社会的資源は地域で異なっており、地方分権を考える視点にもなる」と指摘。生活困窮者を支える政策を提案したり、若い研究者が発表する場としても雑誌を活用したいという。

 創刊号は1600円で年2回発行。問い合わせは明石書店(03・5818・1171)。【松本博子】

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餅:路上生活の高齢男性、のどに詰まらせ窒息死埼玉・蕨

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 2日午前9時半ごろ埼玉県蕨市北町1の北町公園で「男性が倒れている」と近くの住民から119番があった。県警蕨署員が駆け付けると、男性は公園内のベンチ脇でうつぶせに倒れ、既に死亡していた。

 蕨署によると、死因は餅をのどに詰まらせたことによる窒息死とみられる。男性は75歳ぐらい。数年前から北町公園で路上生活をしており、近くの住民が善意で食事の面倒をみていた。男性は同日午前9時ごろ、近くの住民から餅が四つ入った雑煮をもらったが、その餅をのどに詰まらせたとみられる。【飼手勇介】

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路上生活者:6割以上が精神疾患 池袋周辺で医師らが調査

200992 150分 更新:92 1756

 路上生活者の6割以上がうつ病や統合失調症など何らかの精神疾患を抱えていることが、東京の池袋駅周辺で精神科医らが実施した実態調査で分かった。国内でのこうした調査は初めて。自殺願望を伴うケースも目立ち、調査に当たった医師は「精神疾患があると自力で路上生活から抜け出すのは困難。状態に応じた支援や治療が必要だ」としている。【市川明代】

 国立病院機構久里浜アルコール症センター(神奈川県横須賀市)の森川すいめい医師らが昨年末~今年1月上旬、池袋駅周辺で路上生活者の支援に取り組むNPO法人「TENOHASI(てのはし)」(清野賢司事務局長)の協力を得て実施。駅1キロ圏内に寝泊まりする路上生活者約100人に協力を求め、応じた80人を診察した。

 それによると、うつ病が40%、アルコール依存症が15%、統合失調症など幻覚や妄想のあるケースが15%。複数の症状を発症しているケースもあり、不安障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)なども含めると63%(50人)が何らかの精神疾患を抱えていた。失業してうつ病になったり、疾患が原因で職に就けないなどの理由が考えられる。重症者は調査に応じられないため、実際はより高い割合になるとみられる。

 一方、約半数が「死んだほうがいい・死んでいたらよかった」などと考え、「自殺リスク」があることも判明した。路上生活歴は平均5年8カ月だったが、6カ月未満が20人で最も多く、森川医師は「公園や河川敷と異なり、家を無くしたばかりの路上生活者が多く、自殺につながりやすい」と懸念する。

 森川医師によると、精神疾患を抱えると、▽自分には生活保護を受ける権利がないと思い込む▽自ら福祉事務所に相談に行けない▽福祉事務所の職員と話がかみ合わない--などの理由で路上生活から抜け出すのが困難になるという。

 森川医師は「国は精神科病床の削減を進める方針で、精神疾患を抱える路上生活者が増える可能性もある。専門性の高いケースワーカーの育成が急務」と指摘する。

 調査メンバーは今後、路上生活者の中に数多く含まれるとされる発達障害や知的障害についても調べる。

 ◇【解説】新政権は早急に対策を


 路上生活者の6割が精神疾患を抱えている実態を指摘した今回の調査は、国に支援策の見直しを迫るものだ。

 国の最新調査(09年1月)では、全国の路上生活者数は前年比1.6%減の1万5759人。自治体の大半が日中に職員が目視で人数を数えているが、路上生活歴が短い場合、一見して分かりにくいうえ、深夜の駅周辺に寝場所を確保する傾向があり、「今の調査方法では実態がつかめない」との批判が出ている。7月の完全失業率は過去最悪の5.7%を記録し、路上生活者がさらに増える可能性がある。

 行政側の従来の路上生活者支援は、ケースワーカーが短時間面接し、一時保護施設にあっせんするなどして終わるケースが多かった。

 しかし、短期間で一時的な支援では、精神疾患の有無を把握することは困難。路上生活者を減らすためには、ケースワーカーが繰り返し当事者に接触し、必要に応じて医療につなげるシステムづくりが不可欠だ。何よりもまず新政権は、路上生活者と精神疾患に関する全国規模の調査を行い、実態を把握する必要がある。【市川明代】


困窮者の弔い:支援団体など取り組み お盆に慰霊行事も

2009812 125分 更新:812 1229

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梅田義忠さんの遺影を手に、船上での自然葬に臨んだ遺族。好きだった日本酒を海に注いだ=神奈川県横須賀市の観音崎沖で2009年7月、中村美奈子撮影

 生活に困窮したり身寄りがなく、都会の片隅で亡くなっていく。そんな人たちを弔う民間の取り組みが静かに広がってきた。先祖が里帰りするお盆に合わせ、慰霊祭を開く団体もある。【中村美奈子、小林多美子】

 東京都新宿区の野宿者支援団体「新宿連絡会」は15日に新宿中央公園で開く夏祭りで、この1年間に路上で亡くなった人を供養する。紙に一人一人の名を書き、写真を添え焼香台に飾る。16回目の今年は20人余りを悼む。

 4月に60代半ばで亡くなった男性は10年以上前に新宿に来て、古本回収で生計を立てた。物静かだったが、つらい出来事から家族との縁を絶ったと周囲は感じていた。働けない高齢者に食べ物を差し出し、会の炊き出しも手伝った。春先に歌舞伎町で倒れて簡易宿泊所に入った。そこで転んで頭を打ち、意識が戻らなかったという。

 路上で亡くなる人の多くは親族が見つからず、無縁仏として寺に葬られる人もいる。代表の笠井和明さん(47)は話す。「路上に来たことは不幸だったかもしれないが、ここで生きて仲間と出会った。夏祭りが帰って来られる場であってほしい」

 墓を持てない困窮者の自然葬を支援する動きもある。NPO法人「葬送の自由をすすめる会」(電話03・5684・2671)は01年から生活保護を受ける会員の自然葬を無償で行い、47人が契約し、9人が葬送された。

 神奈川県・観音崎沖で7月、心筋梗塞(こうそく)で亡くなった梅田義忠さんの自然葬があった。生活保護を受けていて、1人暮らしの87歳。遺影を手にした次女夫婦、孫、ひ孫が船上に並び、和紙に包んだ遺灰を海に投げ入れ手を合わせた。

 娘2人は嫁ぎ、7年前には認知症の妻も施設に入所。5月に自宅を訪問した看護師が倒れているのを見つけた。次女がタンスを開けると自然葬の書類があった。3年前に契約し、入会書に「お墓を持っても墓守がいない」と書いていた。

 同会の柴田ひさ理事(63)は「経済的な理由などで埋葬に困っている人は増えている。福祉活動の一つとして続けたい」と話す。


ホームレス:厚労省が実態調査へ 背景など個別に聞き取り

2009716 2238

 厚生労働省は「日本の貧困」の実態把握に乗り出す方針を決めた。所得と生活状態の関係や、ホームレスとなった背景などを詳細に調査して「貧困」の実像を明らかにする。調査費を来年度概算要求に盛り込む方向で調整している。日本には生活保護やホームレス支援、失業対策などの施策はあるものの、これらを統一的に扱う部署はなく、「貧困」の概念も明確にはされていなかった。

 同省は、3年ごとに国民生活基礎調査の大規模調査を行い、所得や世帯構成、医療保険や年金の加入状況などを調べている。ホームレス調査は過去に03、07~09年の計4回、ネットカフェ難民調査も07年度に実施している。だが、いずれも数字の把握にとどまるうえに別々の部局で実施されていたため、体系的な貧困対策には結びついていなかった。

 厚労省は来年度に(1)国民生活基礎調査の再分析・再調査(2)ホームレスなどの実態把握を実施する方針だ。ホームレス調査では、個別に聞き取り調査を行い、職や住居を失った背景なども含めて踏み込んだ調査を行う。

 国際的には人間的な生活を営むことができない「絶対的貧困」との概念があり、独自の指標・基準を設ける国や機関もある。日本では憲法に基づき最低限の生活を保障した生活保護制度はあるが、実際に必要な世帯のうちどの程度が生活保護を受けているかを示すデータがなく、「貧困」の実情は明らかではない。【鈴木直】


ホームレス:生活保護申請したいのに置き去り 福岡・朝倉

2009713 1056分 更新:713 1327

 福岡県朝倉市の市教委職員が、市の体育施設の敷地内で暮らしていた無職男性(62)を、福岡市で生活保護を受けさせるため同市のホームレス支援団体に連れて行き、置き去りにしていたことが分かった。厚生労働省は今年3月、住居がなくても生活保護申請を受け付けるよう自治体に通知していたが、朝倉市側は男性の申請を受け付けず、男性はその後、行方が分からなくなっている。

 福岡市博多区のNPO法人「福岡すまいの会」によると、今月1日に朝倉市教委の職員から「福祉事務所に保護申請を断られた男性を(定期相談窓口が開かれる)明日連れていきたい」と電話があった。会の職員は「市で保護すべきだ」と指摘したが、相談には応じることにした。2日午後、会の職員が相談窓口に出向くと、市教委職員はおらず、男性だけが自転車などの所持品と共に置き去りにされていた。

 男性は「どこに行くとも聞かされずに連れてこられた。生活保護を申請したい」と話したため、福岡市に生活保護を申請することとし、翌日再訪するよう指導した。だが、その後男性から連絡はなく、行方は分からないという。同会は「自治体からの相談はよくあるが、置き去りにしたケースは初めて」とあきれている。

 朝倉市によると、男性は、暮らしていた体育施設の敷地内でたき火などをしたため、施設を管理する市教委が立ち退きを求めた。市福祉事務所に保護を相談したが「住居がないため生活保護は申請できない」と断られたという。市は「男性が『福岡で仕事を探したい』と希望したため、市教委職員が支援団体まで連れていった。住居がなくても保護申請ができることが周知徹底されていなかった」と釈明し、詳しい経緯を調べている。【扇沢秀明、門田陽介】


企画・4年の決算:派遣労働 一寸先ホームレス 「雇用の調整弁」危うい派遣

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支援団体による炊き出しに集まったホームレス。中には元派遣社員の30代男性もいた=北九州市で09年6月26日午後8時39分、松田栄二郎撮影

 <企業と労働者の双方が多様な働き方を求めている。労働者からも一定のニーズがある>(福田康夫首相、衆院予算委員会で答弁=08年1月22日)

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 「仕事も家も同時に失くした。あんな苦しさは二度と味わいたくない」。北九州市の職業訓練校でホームヘルパーの資格取得を目指して勉強中の男性(30)は昨冬、派遣労働者からわずかな間にホームレスになる、厳しい体験をした。

 福岡市出身。工業高校を中退後、県内の豆腐製造会社に入社したが、待遇への不満から1年半で退社した。派遣会社に登録したのは03年。「正社員ほど責任が重くなくて気楽だ、と思った。入社する時に学歴や資格が問われないのも魅力だった」。ただ「ほかに選択肢がなかった」のも現実だ。

 04年の改正労働者派遣法施行で、日雇い派遣の対象が製造業にも広がり、男性も愛知や三重県などの自動車部品工場に派遣された。日当は約7000~8000円。主に部品の組み立てをした。

 昨年9月、大分県中津市の自動車部品工場に着いた。7カ所目の派遣先。しかし11月から生産調整が始まり、勤務時間は1日8時間から4時間に減った。12月19日、派遣会社は派遣先との契約終了と同時に男性を解雇。3日後、会社が用意したアパートを出た。

 仕事を求めて北九州市に来た時、所持金は約6万円。節約のためJR小倉駅の駐輪場で野宿したら、荷物ごと盗まれた。両親とは5年以上連絡を取っておらず、連絡を取ろうとしたら転居していた。その日からホームレスになった。

 北九州市のホームレスは04年7月の434人をピークに減り始め、昨年9月には152人になった。しかし昨秋の世界経済危機後、再び上昇に転じ、今年3月現在184人。だが、市内のNPO「北九州ホームレス支援機構」は、「見えないホームレス」の存在を指摘する。失業後もわずかな蓄えを持ち、漫画喫茶などで寝泊まりする人たち。奥田知志理事長は「夏ごろには所持金も底をつき、一挙にホームレス化するだろう」と心配する。

 男性は幸い、ホームレス生活5日目に支援機構の担当者に声をかけられ、食事や生活保護申請などの支援を受けた。今年2月からアパート暮らしを始め、機構のボランティア活動に参加するうちに「人を支える仕事」に目覚め、介護の道を目指し始めた。

 「今回の件で、派遣労働者がいつ解雇になるか分からない存在だと身にしみた。あの体験はもうこりごりです」

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労働者派遣法

 派遣会社の労働者を他の企業などに派遣し、仕事をさせることを認めた法律。派遣可能な業務は当初、通訳やソフトウエア開発など専門性の高い業務に限られたが、03年に製造業への派遣を認める改正法が自民、公明、保守新党(当時)の賛成多数で成立。07年には製造業の派遣期間の上限が、1年から3年に拡大された。

 派遣労働の規制緩和は、結婚退職後の主婦や高齢者にも雇用機会を広げ「働き方の多様化を認める」とうたわれたが、景気後退後に「派遣切り」が相次ぐなど、結果として企業の「雇用の調整弁」に使われた形だ。08年2月の衆院予算委員会で、共産党の志位和夫委員長が派遣労働問題を取り上げたのを機に政治問題化し、政府は同年、日雇い派遣の原則禁止などを盛り込んだ改正案を国会に提出した。一方、民主、社民、国民新の野党3党は今年6月、製造業への派遣を3年以内に原則禁止する、とした対案を提出している。

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